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文化祭!③

「暑っつ……まじで」



昼過ぎ、誰もいない図書準備室。思った通り、誰にもバレず着替えと化粧を終わらす事が出来た。つか人が来る気配すらなかったくらいで、かなり集中して化粧ができたのは幸運だ。俺は最後にもう一度鏡で顔を確認する。顔は帽子と伊達メガネで少し隠してはいるもののいつも通りの圭だ。髪は帽子の下でゆるふわツインテとして仕上げてみた。うん、可愛く出来ただろう。そして俺は持ってきた旅行バックから、小さなハンドバッグとパンプスを取り出して、準備室から出る。




「なんか、すげぇ違和感……」




まさか、学校でこんな格好するだなんて思いもしなかったからな……。帽子も深めにかぶってるしメガネも掛けてるから、バレないとは思うけど……。俺はそそくさと出入り口へと歩き、パンプスを穿いて旧校舎を出た。




「暑い……」




下駄箱へと向かう道中、強烈な日差しが容赦なく俺の身体に突き刺さる。つかマスクにしなくて良かった……まじで。勿論、マスクの方が確実にバレないかとも思ったが、顔に熱がこもって化粧が崩れるリスクもあったため、あえてマスクは止めたのだが正解だった。敷地内を歩いて行くとすれ違う何人かの生徒が、俺を不思議そうに見はするものの気付かれるまでにはいかなかった。まぁ、他校の生徒も私服で来てる奴なんて結構いるし、不自然ではないだろう。




「ねぇあの子……可愛い……」




ちらっと噂するような言葉が聞こえる。ちなみに今日の俺の格好は薄紅色のウエストを少し絞ったショート丈のペプラムワンピースと、黒いパンプス、それに黒革の帽子だ。本当はパンプスじゃなくて厚底の短靴でも良いかとも思ったが、あんまりにもでかいとそれはそれで目立つので止めておいた。




「そろそろ時間かな……」




俺はスマホで時間を確認する。少し早足で、下駄箱へと向かうと、前方にスマホをいじって待っている南つばさを発見できた。つか、遠くからでもすぐ分かるなこいつ。なんか、芸能人みたいなオーラあるし。すると南つばさの方も、俺に気が付いたのか、スマホをしまってこちらに近づいてくる。




「ゆちゃん〜」

「お疲れ様、圭ちゃん。メガネ良い感じだね」

「うん、伊達だけどね」



俺ははなっから小声だが、南つばさも今日は周りにバレないように声のトーンを下げているのが伝わる。




「ふふ……てかなんで圭ちゃん正門からじゃなくて、そっちから来たの?」

「初めてだしなんか、下駄箱が分かんなくて通り過ぎちゃってた」

「正門入ってすぐ左手って言ったじゃんー」

「方向音痴なんだよね……」




もちろん、嘘だ。俺が下駄箱の場所を分からない訳ない。こいつに色々勘繰られたくもないし適当にかわしといた。




「てか、ゆちゃん制服姿可愛い」

「えーありがと。圭ちゃんに褒められると本当に嬉しい」

「良いなぁ……正翔の制服」

「まぁ制服の可愛さで決めたとこもあるからね」

「えーゆちゃん頭もいいんでしょ?」

「普通だよ、ほらっ写真撮ろ一緒に!」




南つばさが俺に顔を寄せてスマホを頭上にかざす。もうすっかり慣れた二人のツーショットはもう何枚目なんだろう。数えるのも辞めてしまったほどだ。




「あのつばさの横にいる子……誰?」

「分かんない」




背後から声が聞こえる。さすがは学校のマドンナ、南つばさ。街中では俺の方が目立ってしまうが、校内では明らかにこいつの方が目立っているようだ。おそらく普段連れていない、隣にいるこの他校の女は誰だろうといったところだろうか。





「ゆちゃん大人気だね」

「学校だけね。ほら行こ、なんか食べる?」

「あ、アメリカンドッグ」

「良いね行ってみよっか」




俺と南つばさは近くにあった、出店のアメリカンドッグ屋へと向かった。




「いらっしゃいませーって……2年のつばさちゃんじゃん!」




近づいて早々、接客の女生徒が騒ぎ出す。看板を見るとここはどうやら3年の出し物のようだった。南つばさはおそらく内心イラついているのだろうが、無難に愛想良く、




「すみません。アメリカンドッグ2本下さい」

「はーい! ほらみんな! つばさちゃんに買って貰えたよ!」




接客の女生徒が調理場にいる男子生徒の方へと声を掛ける。すると男子生徒は雄叫びを上げて喜んでいた。アホだなぁ……。こいつらまじで……先輩だけど。南つばさも少し困った様子で、




「あの、お代は……?」

「あぁ! 良い良い! 先輩だし私がご馳走してあげるよ!」

「え良いんですか?」

「うん全然! だって100円だし。隣のお友達の子も可愛いし」




と、女生徒が俺に話を振ってくる。俺は咄嗟に、




「ありがとうございます……」

「いえいえ〜」




女生徒は軽く返事を返して、アメリカンドッグの準備をしている。すると急に、




「あれ? え待って、なんかどこかで聞いた事ある声……」




そう言って女生徒は俺の方をもう一度見てくる。すると勘繰ったのか、すかさず南つばさが視線の間に割って入り、





「あの! パック詰めは大丈夫です。手渡しで全然」

「あ、本当? じゃあはい! 楽しんでねー!」




南つばさは受け取ったアメリカンドッグの片方を俺に渡しつつ、出店から離れた。そして南つばさは俺にそっと耳打ちをする。



「危なかったね、圭ちゃん……」

「ごめんね……」

「あはは」



などと笑いながら俺たちはアメリカンドッグを素材に、もう一枚写真を撮ってから口を付けた。




「結構揚げたてだね」

「熱々で嬉しい……。熱々信者だから」

「蒼井も熱々信者なの知ってた?」

「うん、蒼井君も私と一緒だよね」

「てか、蒼井はどこにいるんだろ。3組かな」

「蒼井君は3組なの?」

「そう。私が2組で蒼井が3組。3組だけ変なんだよねー。なんかみんな仲良いし」




歩きながら、南つばさがそんな事を話す。



「ゆちゃんのクラスは違うの?」

「うん。自意識過剰な男子ばっかでなんかキモい」

「あはは……」

「3組だけいっつも楽しそうでちょっと羨ましいんだ」

「へえ。そうなんだね」




別に、2組も3組も変わんねえと思うけどこいつから見たらそんな風に見えてるのか。俺はアメリカンドッグをもう一口頬張る。




「あっ! つばさ」



不意に呼ばれた声の方へと振り返ると、そこにはなんとなく見覚えのある女子達がいた。あぁそうか、こいつらは南つばさの取り巻きだ。

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