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文化祭!①

「はい……ふ……今日はっ……ふ……解の公式について……ふぅ……やっていくぞ…….はぁ……」




俺や玉井の心配を他所に、信道達のモノマネ劇場は思いのほか、大好評だった。なんつーか、特徴のある先生ってのは全国共通なのかも知れない。他校の生徒や保護者もなんとなくイメージを汲み取っているのか、割りと伝わっている感じだ。現在、3ステージ目で 文化祭が始まって1時間ほど経過したが、順調にウケている。一方俺はと言えば、舞台袖で小道具を渡したりと裏で信道達のフォローをしていた。そして、ひとくだりやり終えた信道が他の演者と入れ替わって舞台袖に捌けると小声で俺に、




「恭二……俺、ハルさんの前でちゃんと笑い取れたぞ」

「は? ハルさん?」

「彼女だよ。入り口側の一番後ろに座ってる白い服着た子」

「まじかよ」



そうだ思い出した。俺はすかさず、舞台袖から顔を出して確認する。信道にしては結構普通そうな女の子というか可愛らしい感じの子だった。




「なんか意外なチョイスだな」

「は?」

「いや、思いのほか普通の女の子で」

「お前、俺の事どんな風に思ってんだよ……」

「良かったなウケてくれて」

「いや、もっとだ。もっとハルさんを笑顔にしてやる」

「はは……」




真っ直ぐだよなぁ、こいつ。本当に……。袖で待機しエネルギーを溜める信道に応えるかのように、順調に他の演者達も笑いを重ねていく。そして、最後の掛け合いのくだりになり、信道は再度舞台へと上がった。




「みなさん……ふ……本日はご鑑賞くださりありがとうございました。突然ですが最後に……うちの秘密兵器たる……ふぅ……蒼井恭二君の……一発ギャグを……このステージのみお見せします」

「は……?」





舞台袖にいた俺は突然、クラスメイトから表へと押し出された。




「彼がぁ私の親友の……蒼井恭二君です……ふう……」




ぶかぶかスーツ衣装の信道が俺の肩を掴む。待てよ……。絶対にやばいこれは……。




「おい……無理だって」

「彼のとっておきをご覧になって締めとしましょう……」




と、そう言って俺の肩を叩くと信道は舞台袖へと捌けてしまった。10人ほどの観客が楽しそうに俺の方を見ている。勿論、信道の彼女ともがっつりと目が合った。



「…………」




どうする……? 周りが俺を見る。いやそもそもギャグも何もねぇから謝ってはけるしかないだろ……。そもそもそんなキャラじゃねぇし俺。ただ……いかんせんフリがでか過ぎるから絶対変な雰囲気になるよな……。恥ずかしがってやんねぇのかみたいな痛い空気に……。くそ……それはそれで耐えきれん……。行くも滑る引くも滑るだ……。



「えっと……」




俺は信道の彼女を見る。勿論、俺のキャラなんて知らないだろうから純粋に楽しそうな視線でこちらをみている。玉井があんなに頑張って準備をした文化祭だもんな……。俺がここで変な空気にするのも……。くっそ……。あぁ……もう知らねえぞ……。すべて信道のせいだ。俺は腹を括った。




「JKインフルエンサー、圭ちゃんのモノマネをします……」






予想外だったのか、観客が沸く。女子達はええっ!? なんて声を上げている。これが俺の切れる唯一のカードだった。まぁモノマネっつーかこれは本人なんだけど……。そして、俺はいつも通り圭の声色で……。




「圭です……。今日は夏におすすめのセットアップ三選を……みんなにご紹介したいと思います……」





ちらほらと笑い声も聞こえるが、それよりも驚きの声の方が大きい。これが良いのか悪いのかどうなんだ……。俺がモノマネを続けていると不意に観客たる他校の女子に、




「こないだのライブ配信見たよ!」

「あ……ありがとう……。どうかな……上手く話せてたかな……?」




このアドリブが良かったのか、一気に教室が笑いに包まれる。よし……今なら締めれる。




「じゃあ……みんなまたね……。今日は凄く楽しかった……」




どこからか沸いた拍手の渦の中、そして俺は舞台袖へと捌けて行く。すると袖にいた信道が、すれ違いがてら俺の肩を叩き、




「やっぱ持ってんな恭二! さすが俺の親友だ!」




★☆★☆★☆★☆




「すげぇ疲れた……」




ステージが終わり観客も捌けた後、俺は一人教室でうなだれていた。




「蒼井君、お疲れ様。これ飲んで」

「あぁ。悪い」




接客担当のクラスの女子が紙コップに入ったアイスコーヒーを俺に渡してくる。俺は緊張で渇いた喉を一気に潤していく。美味い……。コーヒーの香りに自然とリラックスする。こんなに美味いコーヒーはいつぶりだろうか。




「恭二お疲れ! 良かったぞ!」

「お前……いきなり過ぎんだろ……」




背後から聞こえた信道の声に、振り向きながらそう言うと、こいつの隣には先ほどの女の子がいた。咄嗟の事で俺はなんだかぎこちなくなってしまう。すると信道は少し苦笑しながら、




「改めてだけど、ハルさん。俺の彼女だ」




信道の紹介にハルさんは軽く会釈をして、




「ふふ……はじめまして、ハルです。恭二君の話はよく聞いてます」

「あ、えっと、こちらこそはじめまして。信道と仲良くさせてもらってます」




俺の返しにハルさんは優しくて微笑む。夏らしい白いブラウスに黒のスカートと可愛らしい雰囲気の女の子だ。




「さっきは、凄く楽しかったです。私、圭ちゃんのファンでよく上げてる動画とかも見るんですけど、かなり似てました」

「えっと……ありがとうございます……」




これは、喜んで良いのか……どうなんだ……。似てるっていうか俺だしな普通に。つか、ハルさんは圭ちゃんのファンなのか。




「ハルさん。こいつ、圭ちゃんと繋がってるんで、上手くお願いすれば圭ちゃんと会えるかも知れないですよ」

「え、そうなの? 恭二君?」

「まぁ、友達ではあります……」

「えー! そうなんだ。でも圭ちゃんも困っちゃうし良いよ」




ありがてぇ……。こういうのって断るのも結構、神経使うからな。つか優しいなハルさん。信道にはもったいないくらいだ。




「じゃあな恭二、俺ら行くから。次のステージまで少し時間あるし文化祭デートしてくる」

「恭二君。また今度ゆっくりお話ししようね」

「あ、はい。楽しんで下さい」




そう言って信道達は踵を返し、教室を出て行った。出し物もあの調子なら順調にウケることだろう。演者もみんな慣れてきたようだし俺の手伝いももう必要無い。俺は顔を上げ、教室の時計を見る。




「11時過ぎ……か」




ゆちゃんとの集合までまだ時間はあった。




「4組の出し物でも行くか」




昨日、真夏にも来てって言われたしな。

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