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俺と私と片瀬真夏①

二人だけのリビングの中、南つばさは距離を詰めてきて俺の手を握る。うわ……女子の手ってこんなに小さいのかよ……。


「蒼井も圭ちゃんの事を特別だと思ってるし、なんか疎外感。私だけの圭ちゃんなのに」

「ゆちゃんも特別な人だよ……? 私、リアルだとゆちゃんしか女友達いないし……」

「え私と一緒じゃん。私も圭ちゃんしか友達いない」

「ゆちゃんは友達いるでしょ?」

「知り合いなら無数にいる、あとは勝手に好意を抱いてくるキモい男子共とか」

「あはは……」



そしておもむろに、南つばさは横から抱きついて来る。肩口に南つばさの柔らかい物が当たり、思わず息が上がってしまう。



「圭ちゃん優しいから好き。ほんと好き。居なくならないでね」

「い……居なくならないから大丈夫だよ……。ゆちゃん……あんまり密着されると……恥ずかしい……」

「可愛い圭ちゃん……赤くなって……」



南つばさが至近距離で顔を近づけて俺の表情を確かめてくる。その大きな黒目が間近に迫り、吸い込まれそうになる。近い……。息が掛かる……。南つばさがまばたきする度にその長いまつ毛が目の前で揺れ動く。近くで見るその肌に一切のくすみは見当たらない。つーか胸が当たってるから……。マジで本物の胸ってこんな感じなのかよ……。



「圭ちゃん……いつも良い匂いする……」

「お風呂入ったから……」

「ううん、それとは違う」

「ゆちゃん……暑いよ……汗かいちゃう……」

「えー、もう少しこのままが良い」




とは言いつつも、南つばさは俺から離れてくれた。離れると体が一気に冷えていくのが分かる。これだけ南つばさから温もりが伝わっていたのだろう。それにしてもマジで学校でのこいつとはえらい違いだなおい……。それにまた、信道に言えない事が一つ増えてしまった……。離れた後、南つばさはその大きな瞳を優しく潤ませて、




「圭ちゃんが男だったら、恋愛しても良いんだけどなー」

「あっ……ゆちゃん私のこと馬鹿にしてる……」

「あはは」


…………。

ギリギリのジョーク言ってきたなこいつ。肝が冷えたわ。男だったらとかやめてくれよマジで。俺の反応に笑いながら、南つばさは顔に掛かった髪の毛を指で流し、壁掛けの時計を見る。



「じゃあ、私そろそろ帰ろうかな。今日はママも早めに帰って来るし」

「お母さん忙しい人なの……?」

「社長だからね、詳しい事は分かんないけど」

「凄いね……」

「ねー」



南つばさはまるで他人事のようにそう返す。そして、俺が入れたコーヒーを飲み干してソファから立ち上がり、スクールバックを背負う。



「また来るね、圭ちゃん」

「うん」

「ぎゅーしていい?」

「今日はもうおしまい」

「えー」

「また次回」

「うん」



南つばさは満面の笑みを俺に向ける。南つばさが笑っているから、俺も微笑みかける。すると南つばさは更に笑う。


「じゃあね、圭ちゃん」

「うんまたね、ゆちゃん」




★☆★☆★☆★☆★



「かぁー! 170位とはつらいなぁー! 兄弟!」

「赤点取らなきゃなんでも良いんじゃなかったのか?」

「いやいや、恭二。俺だって人並みには自尊心あるから、この結果は不甲斐ないだろ流石に」



昼休み。テストの順位結果を貰った信道が頭を掻きつつ俺に話しかけてくる。



「そういうお前はどうだったんだよ、恭二」

「79位」

「つまんねー、どうせだったら69位にしろよな」

「隣に女子いるぞ」

「つーか、聞いた? 2組のつばさちゃんはまた1位だったみたいだぜ? 本当すげぇよな可愛いし頭も良くてさ」

「ふーん」

「相変わらず、興味なさげだなお前」




窓の外を見つめると雨が降っている。晴れていないだけあって過ごしやすい。今日は体育館横の避暑地に行かなくても大丈夫だろう。俺はやや呆れつつ信道に言った。



「好きだなぁ……お前。南つばさの事」

「あったりめぇよ! つーか男子なら皆興味あるだろ普通」

「全然、てかあいつ性格悪いぞ多分」

「はぁ? お前つばさちゃんと喋った事もない分際で何抜かしてんだ!」

「見てれば分かる」




すると俺と信道との不毛な話の中、急に横槍が入った。



「なになに、信道君はつばさちゃんの事が好きなの?」

「うわっ! 片瀬ちゃんじゃないっすか! ちーっす!」

「真夏か……」



横に目を向けると真夏がいた。輪郭を囲む様に下ろしたサイドの髪と艶やかな黒のポニテ。茶色のシュシュと、サイドの髪を止めるヘアピン。そして涼しげで凛とした瞳はいつもと同じ様子に見えた。気まずいな……。昨日、圭の格好で鉢合わせちまったし……。真夏はいたずらな笑みを浮かべつつ、



「相変わらず、元気だね信道君は」

「元気っすよー! 片瀬ちゃんと話せるならもっと元気になっちゃいます!」

「で、つばさちゃんの事好きなの?」

「いやぁ、まあ……なんて言うんすか、好きっていうかその……」

「うわ……きめぇ……何その反応お前……」

「うっせぇよ恭二!」



俺のいじりに信道は勢い良く立ち上がる。それを見た真夏は笑う。




「あはは、でも好きになるのも分かるなー。つばさちゃん、女の私から見ても凄い可愛いし」

「理解してくれて嬉しいっす、片瀬ちゃん」

「頭も良いし愛嬌もあるから人気者なのが分かるよね」



信道と真夏が南つばさの事で盛り上がっている。気の毒だな二人とも。あの天性の猫かぶりに騙されてるとも知らずに。俺といる時の高圧的で我が強いさまを見せてやりたいな。



「そういう恭二はじゃあ好きな子とかいるの」

「はあ?」



急に真夏が俺に話を振ってきた。話の流れを聞いてなかった為、俺は辟易した声をあげてしまう。



「片瀬ちゃん、こいつにそんな事聞いても無駄っすよ! こいつはつぶやき君で女漁る事しか考えてない出会い厨なんすから!」

「えー、意外! 恭二って女の子求めたりするタイプなんだー」

「っておい真夏……信道の言う事を真に受けてんじゃねぇよ、漁ってはいねぇから」

「でも確かに、信道君の言う通りかもねー」



真夏の試すような視線に俺は何も言えなくなる。案の定、真夏は例の件で変な勘違いを抱いてるようだった。まぁでも勘違いもするよな……あんな場で出くわしちまったら。


「ねー、恭二」

「おっ? 珍しいな恭二が黙るなんて! あれあれ? 何か握られちゃってる感じこれ!?」

「な……何もねぇよ信道……」

「何もないよねー、恭二」


…………。

真夏の笑顔がやけに怖かった。

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