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姉貴!②

まじかよ……。目の前に私服姿の真夏がいる。いや、冷静に考えればそうか……。姉貴と真夏は仲良いからな……。姉貴も久しぶりに実家に帰って来たんだし、そりゃ会うか……。姉貴はやや誇らしげな様子で真夏に、




「恭二の彼女」

「あ、圭ちゃん」




真夏は少しだけ驚いた様子で俺に手を振ってくる。紫色をした薄手のブラウスと、夏っぽく涼しげな黒のベルトスカート。ポニテのシュシュもスカートに合わせて黒に決めている。とても笑える心境ではなかったが、俺は精一杯笑顔で、




「あ……真夏ちゃん……久しぶり」

「花火大会ぶり?」

「うん……そうだね……」




俺と真夏の会話を聞いて、すぐに姉貴が割り込んできた。




「え、なに? 君ら会った事あんの!?」

「ちょっと前に知り合ったの。こないだも花火大会の後に会ったし、恭二となっちゃんも一緒に居たよ」

「なんだそうだったのねー」




姉貴は少しがっかりした様子で、再度テーブルに座った。それを見てか、真夏も姉貴の隣にある椅子に腰掛ける。




「またお酒飲んでるし」

「大人になると、こうでもしなきゃやってられないの」

「もお……身体壊さない程度にしなね」



真夏が呆れた様子で姉貴に言った後、真夏はおもむろに姉貴の箸を掴み、




「お刺身食べちゃお」



それに姉貴は大して気にする素振りもなく、




「でも、びっくりじゃない真夏。恭二にこんな可愛い彼女が出来るなんて」

「え、付き合ってないでしょ?」




真夏がもぐもぐする口元を隠しながら、俺と姉貴の方を交互に見る。あぁ……もうマジ……帰りてぇ……だるすぎだろこれ……。気まずいし……。




「付き合ってるんだって、恭二と圭ちゃん」

「え、そうなの?」



真夏はその切れ長な瞳を大きく見開いて俺の方を見た。どうしよう……。とは言っても、姉貴がいる以上この場ではもう、こう言うしかないよな……。




「う……うん……。つい最近の事だけどね……」

「ね! ほらそうでしょ真夏」

「へぇ、急な話でちょっとびっくり」




と、真夏は特段表情を変える様子もなかった。姉貴はビールを飲んだ後、




「恭二の奴、私に何の報告もしてないからね。信じられなくないっ?」

「そりゃ、しないでしょお姉ちゃんには」

「え! あんなに可愛がってたのに!?」

「それはノーコメント」



俺が合間に愛想笑いを入れると、少しだけ場が和む。すると真夏が、




「でも、なんで今日圭ちゃんがここに?」

「恭二の事待ってんのよ」

「あー、外に居たらお姉ちゃんと会ったんだ」

「ううん。家で」




おい姉貴……。もう少し上手い感じで言えよ……。つか何でもかんでも正直に言ってんじゃねぇ……。まじで空気読めねぇなこいつ……。真夏の頭にハテナマークが見えた為、俺は仕方なく、




「蒼井君から……家の鍵を借りてたから……先入って待ってて……って」

「あ、そう言う事?」




言葉尻には現れないものの、さすがに真夏も少し驚いている様子だった。そりゃそうだよな……。普通家の鍵なんて渡さないだろうし……。でも俺だって鍵開ける所見られた以上……こういう展開にする他ねぇんだよ……。すると姉貴はその長い髪の毛を手櫛で触り、少し苦笑しながら、




「恭二かと思ったら、女の子でびっくりしたんだからこっちも」

「ふふ……お姉ちゃんからしたらそうだよね」

「わけ分かんなくて、てっきり恭二が女装したのかとか色んな事考えちゃってさ」

「女装にしては可愛い過ぎるでしょさすがに」




俺に失礼だと思ったのか、即座に真夏が姉貴へツッコミを入れる。いや……真夏……そのツッコミの方が俺にとっては辛いものなんだよ……。なんか騙してるみたいでさ……。続けて真夏は俺に、




「じゃあそのうち恭二も帰って来るの?」

「うん……だと思うんだけど……バイトが長引いてるのかな……?」

「あぁバイトなんだ恭二」




本当はもうここに居るんだけどな……。酒の回った姉貴は椅子の上で片膝を立てて、




「本当、恭二の奴良い身分だよなー! こんなに可愛い子をひとりぼっちにさせてさ」



すげぇディスられてんな……。俺は圭として苦笑いを浮かべつつ言葉を返した。



「いえ……蒼井君も悪気はないと思うんで……」

「えー、圭ちゃん優しい。あんまり家の弟を甘やかさないでよー」

「全然……甘やかすとか……そんなのじゃないです……」

「もぉ、優しい彼女で良いなぁ恭二」




そう言って、姉貴は立ち上がり、冷蔵庫の方へと向かった。まだ飲むのかよ……。




「てかさあれ、圭ちゃんのバック?」

「あ……うんそう……」




そばにある別荘へ持って行った旅行バッグを真夏が指し示す。



「ひょっとして今日、お泊りとか?」

「いや……そう言うわけじゃないんだけど……その……なんとなく……」




そりゃそう思うよな……。まぁ入ってる中身も、実際そうだし……。くそ……良い言い訳が思いつかねぇ……。俺が曖昧に返事をすると冷蔵庫の方から姉貴が急に、




「え!? お泊まりなの今日!?」




そしてビール缶を握りながら、急いでテーブルに戻ってきた。俺はおそるおそる言った。




「いや……泊まらないです……」

「え待って待って、もしかして私がいるから?」

「違います……安心してください……」




しかし、俺の言葉をあまり信じていないのか姉貴は少し諭すような口ぶりで、




「いや別に良いよ泊まるのはさ。勝手に来た私も悪いし。でも、夜は静かにしてよ? さすがに弟のそういうのは聞きたくないし」

「…………」

「お姉ちゃん飲み過ぎ。圭ちゃん引いちゃったじゃん」




普通に下ネタ入れて来やがったなこの姉……。初対面の弟の彼女に対して……。真夏がフォローしなかったらえらい空気になってたぞ絶対……。すると、酔った姉貴はニヤニヤと笑みを浮かべながら、




「でもまぁぶっちゃけ? 声さえ、抑えてもらえれば私は気にしないけど」

「いや……そういうのは……まだないので……」

「えー嘘だー。健全な男女がお泊まりだなんてそれしか考えられないじゃーん」

「そういう事は……まだ……怖くて……」

「お姉ちゃん、そこまで。普通にキモ過ぎ」




助かった……。姉貴のセクハラモードをなんとか真夏が止めてくれた。

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