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いざ別荘へ!④

「圭ちゃん……?」

「…………」



脱衣所の方から南つばさの足音が近づいて来る。やばい…….。どうする……。俺は背を向けたまま慌てて風呂場を見渡した。すると意識を取られ一瞬だけ手元が緩んだのか、シャワーヘッドを手放してしまった。




「え、圭ちゃん?」




シャワーベッドが落下し風呂場中に響き渡る轟音。南つばさの心配する声と同時に、足音も大きくなる。まずい……風呂場の鍵を掛けるか? いや、今あっちを向いたら、曇りガラス越しに下半身が見られてしまう。やばい……。足音が近づく。どうすれば……。瞬間、考える間もなく俺は咄嗟に、




「大丈夫圭ちゃん!? なんか凄い音がしたけど」

「……」



風呂場の扉が開けられてしまった。そこには案の定、パジャマ姿の南つばさが立っていた。




「あはは……ごめんね……つばさ……寝ぼけてた……」




ギリギリセーフ……。俺は寸前で浴槽の中に浸かって身体を隠したのだ。良かった……。入浴剤が入っていて本当に……。




「もー! びっくりした! 返事しないんだもん!」

「あはは……ごめんごめん……」




南つばさが風呂場に入ってきて、床に落ちたシャワーヘッドを拾い上げ定位置に戻すと、出ていたお湯も止めてくれた。




「圭ちゃん髪の毛。ほらヘアゴムあるよ」

「あ……ありがとう……。置いておいて……」



南つばさが鏡横に掛けられていたヘアゴムを渡してくれる。髪を縛る猶予もなかったから、浴槽の中に髪の毛が浸かってしまっている。




「ごめんね……。部屋で寝落ちしちゃってて……今さっき起きたから……まだ寝ぼけてるかも……」

「もぉ、気を付けてね。圭ちゃんがケガとかしたら私発狂しちゃうから」

「うん……ごめんね」




なんて小言を言った後、南つばさは途端にクスクスと笑い出し、




「ふふ……圭ちゃん……」

「な……なに……?」




南つばさは俺の顔を見て苦笑している。いや待て……。まずい……バレたか?



「コンタクト外してるね」

「え……おかしい……?」

「ううん、なんか素朴で可愛いなって……」



焦った……。良かったその程度で……。俺は少し頬を膨らませて、



「なにそれ〜。ゆちゃんイジってるじゃんも〜」

「ふふ……違う違う!」

「だいぶ化粧で盛ってるからって前に教えたのに〜」




カラコンは外したものの、化粧は落としていない為、なんとかバレずに済んでいる。良かった……化粧を落とす前のタイミングで……。本当に……。




「全然可愛いから大丈夫だよ、ごめんね」

「も〜」




南つばさが楽しそうに笑っている。つか、自分の事ばかりで気付いていなかったが、こいつすっぴんだな。多少さっぱりした顔にはなっているものの、その圧倒的な素の良さで美人である事には変わりなかった。




「私が入ってからだいぶ時間経ってるし、ぬるかったら追い焚きして良いからね」

「あ、ゆちゃんも入ってたんだ」

「うん、楓さん達は閉店間際に温泉に駆け込んで行ってたけど、私はこっち」

「そうだったんだね」




南つばさの入った風呂か……。信道の奴ならたまんねぇんだろうなこれは。いや、あいつももう彼女居るし、そんな事は思わないか。





「じゃあ、圭ちゃん私寝るね」

「うん」



南つばさは俺に手を振り、踵をかえす。



「あ、そうだ」



南つばさは振り返って、




「脱衣所のとこ、鍵閉め忘れてたよ圭ちゃん」

「うん……いつもの癖で……ごめん」

「一応気を付けてね、三上さんもいるし」

「うん」

「じゃあ、おやすみ!」




そう言って、南つばさは風呂場から出て行った。




「…………」




俺は耳を澄まし、あいつが階段を上がる音から、寝室の扉を閉める音までをしっかりと聞き取る。




「はぁ……死ぬかと思った……」




間一髪だったなマジで……。いやほんとに……。せっかくリラックスしようと思って入ったのに、返って精神的に疲れちまったぜ……。長湯出来る心境でもねぇし、早く身体を洗って出ちまうか……。





★☆★☆★☆★☆




「あ、この辺で大丈夫です……」



俺の言葉にママさんは、ゆっくりと車を停めて、バックミラー越しに俺を見つめる。



「楽しかったわね、圭ちゃん。また来年も行きましょうね」

「はい。本当、何から何までお世話になっちゃってありがとうございます……」




助手席から、南つばさが振り向いて、




「楓さんが撮った写真、私に送ってくれるみたいだから、来たら圭ちゃんにも送るね」

「うん。ありがとう」




俺は荷物を持って、車から降りる。




「ありがとうございました。つばさまたね」

「じゃあね圭ちゃん!」




扉を閉めると、車はゆっくりと走り出して行った。そして俺は、すぐそこにある家へと歩き出す。




「意外に早く着いたな」




スマホで時間を確認すると、14時を示していた。10時くらいに向こうを出た俺たちは、途中のサービスエリアなどで観光や昼食を取ったりと、のんびり帰ってきたつもりだったが案外早く帰れたようだ。どうしよう。明日も休みだし、せっかくこうして圭の姿にもなっている事だし、家に荷物だけ置いて、買い物にでも出て行こうか。普段は通販で買うのが殆どの為、たまには店頭で買うのも悪くないだろう。秋冬の服ももう少し欲しいしな。




「夜飯は抜かねぇとな……」




俺は着ているワンピース越しに、腹をさすってみる。昨日は実際かなり食ったからな……。さっきもサービスエリアでラーメン食っちまったし。食べ過ぎている気がする……。夜飯はしっかりと食いたい派だが、今晩は我慢だな……。




「暑ちぃ……」




軽井沢には一日しか居なかったのにも関わらず、身体があっちに慣れてしまったようで、東京の暑さと日差しにはうんざりする。やっぱり軽井沢は涼しかったんだな。さすがは避暑地なだけある。なんてそんな事を思いながら家へと着いた俺は、バックから鍵を取り出して、そっと扉を開けた。





「おっ、恭二久しぶり……ってあれ?」

「…………」




目の前には部屋着姿の姉貴がいた。




「え待って……? 女の子? 今、鍵開けて入って来ましたよね?」

「…………」




はぁ……。なんでどいつもこいつも……うちの女どもは帰省の連絡をして来ないんだろうか……。年頃の男がいるってのによ……。あーもうやだ……マジ面倒くせぇ……。

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