いざ別荘へ!②
「あっ! やっと来た! ほらお肉焼けてるよ圭ちゃん!」
「お疲れ様です、楓さん」
南つばさと共に庭へと行くと、早速楓さんに絡まれた。顔がほんのりと赤く、その手にはもうビール缶が握られている。
「ほら、つばさちゃんも! じゃんじゃん食べちゃって!」
「わーい」
南つばさが俺に紙皿と箸をくれる。俺は受け取りつつ、参加者を確認した。楓さんに三上さん、それに恵理子さんと、後藤部長もいる。後藤部長の側には低学年くらいの女の子もいる。おそらく娘さんだろう。俺が見ていたからか、その女の子と目が合った。
「パパ誰ーこの人?」
「会社の人だよ、さくら」
いつもは寡黙な後藤部長が優しく娘に話しており、なんだか不思議と和んでしまう。俺は娘さんを怖がらせないように、
「圭って言うの……。よろしくね、さくらちゃん。ふふ」
さくらちゃんは、俺と似た花柄のワンピースの裾を振りながら控えめに、
「リボン……可愛い」
「あっこれ? そう、着けてみたの」
さくらちゃんはヘアアレとして着けていた、頭のリボンに反応した。俺はよく見えるように、しゃがんでリボンを見せてあげた。
「お姉ちゃん、なんか良い匂い……」
「え? そう? あはは……」
脈絡なく、そんな事を言われびっくりしたものの、その顔には笑みが見えて俺は安心する。
「ほら、圭さん。うちの子は良いから」
「あ、はい。じゃあいただきます」
気を遣ってくれた後藤さんの言葉に従い、俺は焼き場の方に行く。
「わぁ……美味しそう」
思わず、地声が出そうになる程の光景がそこにはあった。赤く熱された炭。その上で焼かれる肉の数々。良い焼き色になった玉ねぎ。肉汁の溢れる焼けたウインナー。うへぇ……美味そう、マジで……。
「はい、圭ちゃん。お肉お食べ」
「あ、ありがとうございます。三上さん」
「おっ! テンション高いね」
焼き奉行になっている三上さんが焼けた肉を俺の紙皿に乗せてくれる。つか、かっこいいなこの人。オーバーサイズのパーカーにハーフパンツとシンプルな服だが、スタイル抜群だからか、モテるオーラ全開だ。
「塩胡椒で下味は付いてるから、そのままでも良いし、タレはあっちにあるから」
「はい。ありがとうございます」
せっかくの焼き立ての肉だ。熱々で食べなければな。
「いただきます」
ジューシーな赤身の牛肉。噛めば噛むほどに肉の旨みと炭の香りが広がる。それにこの木々に囲まれた自然の中での開放感も、より一層美味しくしてくれている。
「どう、圭ちゃん。お味は?」
「美味しいです。焼き具合も完璧です」
「そりゃもちろん。圭ちゃんに美味しく食べてもらえるように愛情も込めたからね」
「はいセクハラ。二回目ですよ三上さん。あと圭ちゃんと近いです」
不満げな様子で、南つばさが俺と三上さんの間に割って入った。嫉妬深いよな……こいつ本当に……。三上さんもマーク厳しくて大変だ。正直俺は何にも気にしてないのに……。ぶっちゃけ男同士だしな。
「厳しいねー。つばさちゃん」
「圭ちゃんの事、そういう目で見てるからですよ」
南つばさは、バクバクと肉を食べつつ三上さんにそう言った。三上さんは苦笑している。すると、楓さんが近づいてきて、
「ほらほら笑って圭ちゃん! はいチーズ!」
「あはは……」
いきなり、撮影された。楓さんは自分のスマホを見て、
「あっはー。やっぱり圭ちゃん可愛い。ほらもう一枚一緒に撮ろ」
「あ、はい」
楓さんが顔を近づけてきた為、俺は一緒にインカメに写る。うわ……近けぇ……可愛い。ドキドキする……。あんなに普段残業してるのに近くで見ても、楓さんのその顔に疲れは見当たらなかった。ブランド物のTシャツとハイウエストのジーンズとシンプルな格好だが細くてスタイル抜群だから似合っているし、綺麗にカラーの入ったボブヘアも可愛い。
「あーやっぱ、JKにはもう勝てないなぁ……」
「楓さんも可愛いです……」
「ふふ……エンスタに上げよ」
「あっ……えっと……」
俺が困惑した声を上げた瞬間、すぐに南つばさが、
「楓さん。SNSはちょっと……」
「え? あーそっか! 圭ちゃんって有名人だもんね!」
「バレて、誰か来ても面倒なんで……」
「オッケー! 載せないよ」
俺はすぐに頭を下げて、
「すみません……せっかくの楽しい時なのに……」
「あ、良いの良いの。全然」
そして楓さんはおもむろにビール片手に俺に後ろから抱きついてきて、
「そっかー、圭ちゃん有名人なんだもんねー」
「そんな大したあれじゃないです……」
「カリスマJKなんだもんねー」
「ちょっと……楓さん……」
楓さんが布の上から太ももを撫で回してきた為、俺は即座に手で股間をガードする。危ねえ……。股間触られたらマジで一発アウトだからな……。あと、うちの姉貴みたいな酔い方するなこの人……。
「つばさちゃんがさー、いつも圭ちゃん独り占めしてるのが羨ましくてー」
「いや……ちょっと……」
背中越しに楓さんの胸の感触が伝わり、自然と息が上がる。いやいや……つかこの人ベタベタ触りすぎだろ……。まぁ嫌ではないんだけれど……。
「ちょっと楓さん! いつもの癖が出てます!」
南つばさが俺と楓さんを離そう割って入るも楓さんも俺の身体をガッチリと掴んで、
「えー、良いじゃんたまには! いっつもつばさちゃんばっかり圭ちゃん独り占めにしてるんだからさー」
「だめです! 圭ちゃんは私が最初に見つけたんですから!」
「OLだってJKとイチゃつきたいのー!」
何言ってんだこの人……。つか実際の所、成り切ってはいるものの俺JKじゃねぇし……。
「圭ちゃんは私の物ですっ」
南つばさが強引に楓さんを引き離してくれた。助かったけど……何故だろう……。少し寂しく感じる……。
「もー楓さん! 絶対圭ちゃんの事狙ってると思ってたけど、やり過ぎです!」
「でもでも、圭ちゃん嬉しそうだったよ」
「いや……あの……その……」
「もう圭ちゃん! そういう時は嫌だって言って良いから!」
南つばさが、困った様子で語気を強める。いやまぁ正直、男なら嫌だとは思えねぇよな……。信道じゃねぇけど、さすがにこんな綺麗な人に抱きしめられたらさ……。つか楓さんに若干気付かれてたのは恥ずいが……。




