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俺と私とゆちゃん③

時刻は18時半になろうとしていた。外はもう薄らと夜の帳が下りてきている。ゆちゃんこと南つばさは19時くらいに来る予定だ。しかし、今日は朝からずっと南つばさ日和だな全く……。俺は先日と同じく、黒のカラコンに化粧をバッチリと決め、耳の下で結んだツインテールをワックスでふんわりと整える。今日の服装は白のブラウスとフリルの付いた紫色のショートパンツだ。出来上がった自分の出来を鏡で確認する。よし、今日もいい感じだ。いつもの圭ちゃんだ。スマホを確認するとまだ時間まで少しある。お菓子でも買ってこようか。前回の経験から俺は外に出るという選択肢が増えたのだ。それにまだ足に馴染んでないパンプスを早く馴染ませておきたかった。一日中歩いてると足が痛くてたまらないのだ。俺はやや高揚した気持ちを抑えつつバックを持って、玄関に向かい、パンプスを履いて扉を開ける。




「あれ? なっちゃん? えっ……ちがう」



…………。

玄関から出ると、目の前に制服姿の真夏がいた。



「あれ? ここ……恭二の家……」

「…………」



真夏が食い入る様に俺を見つめている。はは……。マジかよ……。タイミング最悪……。まさか真夏にこの姿を見られるだなんて。どうしよう……。何も考えられない……。おもいっきり出てくる姿見られちまったし……。真夏はその手に持っていた手提げ袋を俺に向けて、


「中に恭二君、いますか?」

「……」

「これ、恭二君に渡そうと思って、うちの母親からです」



手提げ袋から、カレーの良い匂いが立ち込めてくる。しかし俺は真夏の顔を直視できない。なんて言い逃れようか、考えがまとまらない。真夏の方は、最初こそ困惑していた様子だったがもう状況を受け入れたようだった。



「恭二君の彼女さんですか?」

「い……いや……」

「恭二君、中いますか?」

「はい……」

「これ、渡しといて貰えますか」

「はい……」


俺は真夏から手提げ袋を受け取る。真夏は俺から目を逸らさない。ちらっと真夏の顔を伺うとがっつりと目が合った。部活終わりなのかほのかに制汗剤の匂いがする。その涼しげで凛とした瞳が普段と異なり微動だにせず、迫力があった。



「恭二君の好きなカツカレーです」

「はい……」

「一人分しかないんですけど」

「いえ……その……大丈夫です……」



淡々と真夏は俺に言葉を放つ。女の中では低く落ち着いた声音と、いつもと違うその雰囲気が気まずさに拍車を掛ける。てか、そんなに俺の顔を見ないでくれ……気まずい……。



「じゃあ、私行きます。すみませんお邪魔しちゃって」

「いえ……こちらこそ……すみません」

「恭二君によろしくお伝えください」

「……はい」

「では」



そう言って、真夏は踵を返し去っていく。その艶良くまとまったポニテが揺れる。絶対に真夏が変な勘違いを起こしていると確信したものの、俺はどうすればいいか分からなかった。




「…………」




視界から真夏がいなくなった事を確認して、俺は家の中へと戻る。そして靴を脱ぎ台所の冷蔵庫へと貰ったカレーを入れる。




「真夏の奴じゃ通じねぇよな……」




女友達だと言い切ろうと考えたが、俺に真夏以外の家に呼べる女友達なんていない。そしてそれは勿論、真夏のやつも分かっているに違いない。真夏がこの姿の俺を見て、彼女だと思う事も必然だろう。俺は冷蔵庫の前で一つ嘆息を付く。なんか面倒くせぇ事にならなければ良いんだけど……。てか来る時くらい事前に連絡するだろ普通。どんだけ俺が暇人だと思ってんだよ真夏の野郎……。俺は先程の光景を思い出す。しかしあいつ……目がマジだったな。でもまぁそりゃ驚くか、俺も真夏に彼氏なんて出来たら嫌でも意識してしまうだろうから。なんて、そんな事を考えているとスマホが震えて、確認するとそれはゆちゃんからだった。



『駅着いた! あとちょいで着く!』




★☆★☆★☆




「そうだ圭ちゃん、今日ね蒼井恭二と話しした」



先の事件後、南つばさが家に来てからもう一時間は経っただろうか。脈絡なく南つばさはそんな事を呟いた。南つばさは学校近くの喫茶店で時間を潰してたようで今日は制服姿だ。


「え……そうなの?」

「うん、どんなやつだろって」



並んでソファに座っている中、南つばさが足を伸ばしてバタバタさせている。何してんだこいつ毎回。俺は南つばさを見つめて、



「蒼井君……いきなりゆちゃんに絡まれて……びっくりしてなかった?」

「あぁ、してたしてた。ちょっと面白かった」

「仲良くなれそう?」

「んー……」

「あはは……難しいか」



南つばさは、自分の髪の毛を手櫛で持ち上げるように整えつつ俺から視線を外して、



「ちょっと怒らせちゃったかも」

「え意外……。ゆちゃん、コミュ力高そうなのに……」

「蒼井以外にはね。蒼井と話してるとどうしても圭ちゃんがちらついてね……」

「うん」



南つばさは少し俯く。その光沢のある髪の毛が部屋の明かりに反射する。



「そのさ……蒼井と圭ちゃんって、やっぱり仲良いんだな……って思った」

「そう……なんだ」

「あんまり詳しい事聞かれると困っちゃうんだけど、蒼井も圭ちゃんの事を凄く大切にしてるんだなって感じてさ……」

「…………」

「二人共お互いの事を大切にし合ってる仲なんだなって……」



南つばさは恥ずかしそうに、俺の方をチラッと見る。これはこいつなりの後悔なのだろうか。悪い事をしたと思ってるのだろうか。分からないが、懸命に勇気を振り絞って伝えてる事は感じられた。俺は南つばさに言葉を返す。



「蒼井君だけじゃないよ、ゆちゃんも……私の事を大切に思ってくれてるじゃん」

「そうだけど……」

「ゆちゃんと蒼井君が……今日どんな話をしたのかは分かんないけど……」

「……」

「でも……蒼井君も優しいから……きっとゆちゃんが私を大切に思ってくれてる事にも気が付いてくれたと思うんだ……」

「そうなのかな……」

「蒼井君は口べただから……分かりづらいかもだけど」



南つばさは顔を赤らめて俺の顔を見つめる。その大きな瞳が俺を捕らえて離さない。



「やっぱり優しいね、圭ちゃんは」

「そうでもないよ……」

「なんか嫉妬しちゃうなー。圭ちゃんは蒼井の事ばっかりだから」

「あっ……蒼井君はただの友達だもん……」

「圭ちゃんは私だけの物なのに……蒼井が邪魔する」




南つばさはそう言って、距離を詰めて俺の手を握ってきた。うわ……女子の手ってこんなに小さいのかよ……。

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