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始業式!⑤

扉を開けると、ベッドにいた制服姿の南つばさがスマホを片手に顔を上げる。




「ありがと、蒼井」

「あぁ」




意外にも素直に感謝の言葉を口にしたこいつにやや調子が崩れつつも俺は、




「これ、ママさんが二人で食べなって」

「あ! ゴジバじゃない! 好きなのよ私」




俺がチョコの箱を見せるとこいつは途端にご機嫌な様子に変わり、俺から箱を受け取る。




「わぁ、ほら見て可愛くない?」

「いや……別に」




南つばさはにっこりと箱の中身を見せてくる。そして、もちろん俺の冷めた返しなんてこいつは聞かずにベッドにそれを置き、スマホで写真を撮った。まぁチョコ自体は可愛いとは思うけど、圭の姿でもないしそこまで合わせる義理もないだろう。




「あんたどれが良い? 好きなのとって良いわよ」

「あ? 別にどれでも良いよ。甘いのあんまり好きじゃねぇし。お前が食べたいの取れよ」

「え、どうしようかな? じゃあこれとこれ」



南つばさは何個かチョコを取って、俺に箱を渡してくる。つか、正直全部食ってくれても良いんだけど、それは流石に一緒に食べてって言ってたママさんに悪いか。




「ん! 何これ……なんか不思議な味だわ」

「へぇ」




南つばさが瞳を丸くして少し戸惑った様子をしている中、俺も箱にあるチョコを一つ手に取り、口に入れた。



「別に普通のチョコだな」

「どれ食べたの?」

「葉っぱみたいな形のやつ」

「この四角い奴食べてよ。変わった味だから」

「いや、良いよ一個で。甘いの好きじゃねぇし」

「ふーん」   




俺の言葉に、南つばさはうなづいて、そしておもむろにもう一度、その四角い奴を口に入れる。




「面白い味……初めてだわこんなの……」

「へぇ、良かったじゃねぇか」

「美味しい……もう一個食べちゃお」




楽しそうにチョコを食うこいつを他所に、俺は床に腰を下ろし、暇つぶしにスマホを見る。本当はすぐにでも帰りたいが、あんまりにも早いとママさんに失礼だしな……。




「最近は圭と遊んでるのか?」

「花火大会のあの日くらいかしら」

「ふーん」

「あんたは?」

「別に……」

「でも、圭ちゃん思ったよりあんたと仲良いのね」

「ただの友達同士だっつの」

「あの夜の感じ、はたから見たらただのカップルだったわよ」

「んな訳ねぇだろ……」




俺は呆れつつ顔を上げる。すると、




「あれ……お前、顔なんか……」

「え? はぁ……」




南つばさの顔がほんのりと赤くなっている。それになんか息も少し荒い気もした。




「なんか……そうね……でも……平気よ」

「おい、そのチョコ……変なもんでも入ってんじゃねぇのか」




俺はチョコの入った箱を確認する。その瞬間。




「ちょっと! まだあるんだから!」



南つばさが中のチョコを強引に奪い、強引に口へと入れた。




「んー!! やっぱり美味しい! 後でママにどこで買えるか確かめなきゃ!」

「…………」




頬を両手で押さえながら、南つばさは美味しそうに味わっている。そのセットされたボブカットが揺れている。俺はただただ、もう空になった箱を眺めていた。つーか食い意地張り過ぎだろこいつ…….怖。




「この中の、苦いのがクセになるのよね」

「お前大丈夫かよ本当に……」

「ていうか……なんか暑いわね……」




おもむろにこいつはベッドから立ち上がると、入り口横にあるエアコンのリモコンに手を伸ばして室温を下げた。




「ちょっとトイレに行ってくるわ」

「え? あ、おい」



俺の話なんて聞かずに、南つばさはその流れでトイレへと行ってしまった。何なんだよ急に。




「ったく……」




俺は再び、スマホに目を向ける。しかし先ほど、南つばさの言っていた言葉……。あの夜の俺と圭は、やはりカップルみたいだったか……。予想はしていたが、あいつには案の定どこかバイアスの掛かった反応を示されてしまったようだ。いや、それも無理はないか。俺からしてもあれは……つーか、圭に変装した菜月がやり過ぎだったしな……。なんか異様に距離も近いし、ボディータッチも多かったし……。まぁ、けれども終わってしまった事ではあるし、今度圭として南つばさに会う時にはそれとなくフォローは入れておくしかないか。久しぶりに蒼井君と会って、テンションが上がっちゃったとかなんとか言って。




「それ以外……どうしようもないしな……」



圭が俺にどう思ってるだとかって、本来存在しない問題な訳だし……。なんて事を考えていた所、再び足音が聞こえてきて、




「ねぇ蒼井……なんかフワフワする……」




扉を開けて早々、顔を真っ赤にした南つばさがそんな事を言ってくる。




「お……おい本当に大丈夫か……?」

「別に大丈夫……。てかむしろ楽しいくらいだから」




なんだろう……。この感じどこかで見た事ある……。



「…………」




そうだ、姉貴だ。姉貴が酔った時のあの感じだ。




「って事は……」




俺は急いでチョコの箱を確認する。そこにはやはりアルコールが含まれている事が記載されていた。




「はぁ……涼しい……」



顔を真っ赤にした南つばさがベッドの上に座り込んで、制服の襟元を仰ぐ。俺は酔った時の姉貴が頭の中に、フラッシュバックしてきて、




「じゃあ俺……そろそろ帰るーー」

「待ちなさいよ」



即座の返しに俺は何もできない。南つばさは俺にトロンと座った視線を向けていた。

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