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始業式!③

「あれ!? ママいるの? 蒼井も!?」





声からして慌てているのが感じ取れる。そして、慌てた足音と共に制服姿の南つばさがリビングにやってきた。




「ママっ! えなんでいるの? 会社は?」

「あら、自分の家にいちゃだめなの?」

「ねー、帰ってくるなら連絡してよ」

「連絡くれたら男の子を連れ込まなかったのにね」




ママさんが試すようにして、南つばさを見つめる。南つばさは顔を真っ赤にさせて、




「違う、そいつはママの思ってるような関係じゃないの!」

「あらそう。別に良いじゃない、遊んでも」

「違う! てかやめて男子の前でそういうこと言うの!」




おー、いつも勝気で小慣れた返しをするこいつが押されている。さすがはママさんだ。




「蒼井はただの友達だから。本当に何にもないの!」




南つばさが少しだけ助けを求めるようにして、俺の方を見る。俺も確かにその意見には同意だった為、同調するようにうなづく。



「何をそんな焦ってるのかしら。別に、何かあったって良いじゃない?」

「良くない! てかそもそも絶対ないし!」

「つばさ、世の中に絶対なんてものはないわ」

「そうだけど、絶対ない!」




すげえ親子漫才だな。テンポも良いし……。俺はどうすれば良いのか分からず狼狽えるばかりである。




「ていうか蒼井! あんたもちゃんと否定しなさいよ!」

「え、あぁ」




俺の歯切れの悪い返しに南つばさは苛立ちを隠せない。つーか、俺も今さっきこんな感じの問答をしたばったなんだよなぁ……。一旦冷めてしまった気持ちをこんな短時間のうちに、もう一度昂らせるのは難しい。




「つばさ、いくらお友達の男の子だからってあんまりにも横柄な態度はダメよ」

「お……横柄じゃないもん……」

「つばさが呼んだんでしょ?」

「う……うん」

「じゃあちゃんとおもてなしをしなさい」

「……」




おそらく俺がなにも口を挟まない事がムカつくのか、俺をじっと睨んでいる。




「ママさんもいるし、俺帰るけど……」

「……」

「ほらつばさ、帰るって言ってるわよ」




顔を赤くして、南つばさは視線を逸らしている。




「待って……」

「へ」

「まだゴキブリ……退治してないじゃない……」




南つばさがジト目で俺を見ている。なんだよ……結局、俺がやるんかい……。ムカつくな……。ママさんも居るんだし、後は南家で対処してくれよ……。




「あら、ゴキブリ出たの?」

「うん。朝出る時に部屋に」

「なるほどね、だから呼ばれたわけね」

「まぁ、そんな感じです……」



ママさんが俺の方を見て微笑んだ。相変わらず、上品で綺麗な人だよなぁ。




「ほら、ちょっと待ってて」



ママさんはソファから立ち上がり、リビングの奥、キッチンの方へと向かった。そして、すぐに戻ってくる。




「はい、殺虫剤」

「は、はい」

「頑張ってね。男の子なんだから」

「……」

「私も娘と一緒でゴキブリ苦手なの。ふふ」




そして目の前に、殺虫剤が置かれる。いや、ゴキブリ苦手なのって……得意な奴とかいないっすよママさん……。俺だってどちらかと言えば苦手なのに……。




「ほら、それ持って蒼井」

「おう……」



俺は殺虫剤を持ち、階段を上がる南つばさを追いかける。背後から頑張ってねーなんてママさんの言葉が聞こえるが全然気が乗らない。まぁ乗るわけもないか。




「あんた、私のお尻見てない?」

「見てねぇよ」




共に階段を上がる中、確かに目の前にはメリハリのある南つばさの尻があったが、視線を逸らしておいて正解だったようだ。そして階段を上がりきり、南つばさの部屋の前に着く。




「朝出る時は、最後ベッドの下に入っていったの」

「じゃあ確かめるならその辺か」




南つばさがセットしたボブカットを触りながら、大きな目を強張らせ真剣な表情をしている。




「一応、私も行くわ」

「あぁ」




俺は、殺虫剤を構えて南つばさの部屋へと入った。




「いないな」




部屋に足を踏み入れるもゴキブリの姿は見当たらない。背後から俺に遅れて南つばさも部屋に入ってくる。ベッドに勉強机、それにテレビのみと毎度思うがシンプルな部屋である。圭の格好をして入った時も思ったが、薄荷のような良い匂いもする。





「下は?」

「あぁ」



俺は南つばさに言われた通り、ベッドの下を覗く、ベッドフレームの足も高く、容易く見渡す事が出来た。しかし、ターゲットの姿はここにも見当たらない。




「いない」

「は? 嘘、ちゃんと探して」

「いねぇよ」




俺はスマホのライトで改めて探すもやはり目的のアレは見つけられない。




「どこ行ったのかしら」




南つばさの顔色が強張る。口元に手を当てて思考を巡らせている。




「まさか、ベッドの中とかはないわよね」

「知らん。でもない事はないだろ」

「ベッドだったら、マジで一式買い替えるわ」

「見るか?」

「ええ」



俺は南つばさのベッドにある、薄手の掛け布団をはぐった。瞬間、少しだけ石鹸の匂いがしたが、そんな事を思ったら怒られると思い、すぐに思考を払う。




「いないか……」

「逃げたんじゃね」

「な訳ないでしょ。あんた本当他人事ね」




ゴキブリ退治如きで、当事者意識を持てって言われてもなぁ……。俺の部屋でもねえし……。そもそも、半ば強引にやらされてる訳だし……。俺は呆れつつおもむろに、部屋を見渡す。




「クローゼットは開けて良いのか?」

「ええ」




俺は慎重にクローゼットを開ける。中は、服が多く掛かっており、足元には小さなタンスもあった。さすがはゆちゃんだ。ぱっと見でもめちゃめちゃ可愛い服が数多くある。しかしながら、目的のアレは見当たらなーー




「いた!!!」



南つばさが指で指し示す方向を俺は見る。服の死角に隠れて見えていなかったが確かに、床の端の方に黒い影が見えた。




「くらいやがれ!」



俺は迷わず、そのうごめく黒い影に最強の武器である殺虫剤を射出する。

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