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番外編:川島信道の夏休み①

夏休みを迎え、二日経った夜。川島信道は自室のベッドに寝転がりながら、スマホを見つめ、一人あぐねていた。




「マジきただろこれ……」



スマホの画面に写るのは、バイト先の仲間達と撮った写真。



「ハルさん……」




3つ上のフリーターであるハルさん。そう、信道は明日、バイト先の先輩であるハルさんと遊ぶ約束を取り付けたのだ。




「綺麗だよなぁ……ハルさん……」




信道はアタックする気満々だった。明日の午後から水族館で遊んだ後、帰り際の雰囲気が良かったら、そのまま告白する算段だ。




「うしっ……もう、圭ちゃんの事は忘れよう。俺は次に進むんだ」



この夏、俺は絶対に後悔のないように遊んでやる。信道はそう思い眠りについた。



★☆★☆★☆★☆




「でかいっすねー東京スカイタワー!」

「ね! こんな近くまで来たの初めて」

「自分もっす! いつも遠くから見てただけだったんで」





川島信道は、スカイタワーのそばに来ていた。目的地はスカイタワーではなく併設されている水族館だ。隣には目的の人物であるハルさんの姿もあった。バイト中は、そのセミロングの茶髪を頭の上で結っているが、今日は黒いシュシュを結んだポニテであった。いつもバイト先で会っているはずなのに、その大きい瞳と同世代からは感じられない大人らしい雰囲気に信道はやや緊張してしまう。



「信道君、決まってるね今日! いつもバイト入りの時のジャージ姿の印象だったから不思議」

「そりゃあ、ハルさんと遊べるんすから当然すよ!」

「えーなんで? 信道くん仲良しだし全然遊ぶよ」




信道は、楽しそうに微笑みながら、水族館へと歩いていく。ハルの格好は黒い薄手のブラウスにギンガムチェックのスカートとローファー、信道の好きな可愛い系であり、思わずニヤけそうになる信道はいかんいかんと、くっと顔を引き締める。




「信道くん……腕すごいね」

「あぁ、最近少し前から筋トレしてるんす自分」

「へぇー」



ハルは信道の二の腕に触れる。紺色のオーバーサイズシャツから露わになるその腕は、最近信道が自信を持っている部分でもあった。嗚呼良かった……。本当に筋トレしててよかった……。恭二の野郎にずっと馬鹿にされてきたけど、この一瞬のために自分を信じてきて良かったぜ……。と、ハルの指の感触を存分に味わっている。




「え、なんか信道くん……感じてない? ウケる」

「いや全然っ! 感じてないっす!」

「なんか、にやにやしてたじゃん」

「してないっす!」

「面白いなぁいつも」




二人は階段を上がり、チケット売り場へと並ぶ。夏休みでありやはり買い場には列ができている。しかし窓口も多いためか、ものの数分で順番が回ってきた。




「ハルさん! ここは自分出すっす!」

「え良いよ。信道くんより私のほうが全然お金持ってるし」

「いや! 大丈夫っす! 出させてください!」

「良いんだけどな別に」




ハルの言葉を聞かずに、信道は強引に財布から金を出して二人分のチケット代を出す。




「じゃあ行きましょう!」

「ふふ、なんか頑張ってるね」




☆★☆★☆★☆★




「はぁ涼しい……」

「涼しいっすね本当」





水族館の中へと入ると、やや薄暗い館内の中、早速両手を広げたよりも大きな水槽が視界に入る。二人は自然と吸い寄せられるように、その水槽に近づいていく。




「えぇ可愛い! 可愛くない!? 信道君!」

「ちっちゃいすね、熱帯魚かなんかすか?」

「カージナルテトラって書いてあるよ」




胴体が青く光る小さい魚の無数の群れが目の前でキラキラと気持ちよさそうに泳いでいる。信道は水槽に反射した目を見開くハルの顔の方に目が向いてしまう。やっべぇ……。超楽しい……やっぱり落ち着いてるんだよなぁハルさん……これが年上の魅力ってやつか……。




「あ、ほら見てください水草にエビも居ます」

「あ、ほんとなんかヒゲがピクピクしてる」

「シュールっすね」

「可愛い」




俺たちはゆっくりと周りの流れに合わせ、館内を進んでいく。すると打って変わっていきなり視界がかなり暗くなった。



「足元、気を付けてくださいねハルさん」

「うん」




暗い館内を進むと、目の前に青く輝く水槽が現れ、優雅に海月が一面漂っている。




「わぁ……凄いね……」

「これは綺麗っす……」




海月の優雅さに言葉を失い、二人はただただ長い間、海月を眺めていた。




「オワンクラゲ……アカクラゲ……ミズクラゲ……いっぱいあるんだね」

「ライトアップされると……こんなに変わるもんなんすね」

「良いなぁ……ゆったりしてて」




暗い館内の中、海月が青い光に照らされて幻想的に泳いでいる。自分よりも頭一つ分も低いハルの姿を信道は見つめてしまう。その瞳には漂う海月が映し出されている。




「信道君」

「はい」

「暗いから」

「っ!」



瞬間、ハルが信道の手を握ってきた。信道の心臓が一気に早く脈打つ。は……? ハルさんまじかよ……。いや待て大人になるとこういうのは当たり前なのか? 手繋ぐのなんて普通じゃん的な……? わかんねぇ……。恭二なら知ってっか? いや、あいつがそんな事知ってるわけねぇよね……。つかハルさんの手まじで小せぇ……。




「ここ……ずっと見てられるね」

「そうっすね」

「周り……カップルばっかだね」

「そうっすね」

「恥ずかしい?」

「いえ、カップルかどうかなんて、周りはわかんないすから」

「確かにね」




満足した二人は手を繋ぎながら、さらに奥のフロアへと進んでいく。

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