花火大会!⑦
「でもどう……? 蒼井君……私の浴衣……」
「あぁ、似合ってるって」
「蒼井君に見てもらいたかったのは……本当だから……あはは……」
先程とは異なり、抑制された挙動で菜月は言う。まぁこのくらいなら、ギリ及第点だろう。
「でも……つばさも真夏ちゃんもごめんね……。蒼井君とお話してたのに割り込んじゃって……」
「え、良いよ全然。別れ際だったし!」
「うん、南さんを見送ってたところだったの」
南つばさも真夏もこの偽物の圭に優しく微笑む。それを見て、この偽物の圭も安心した素振りをする。
「あ、ねぇ蒼井君……そういえば……こないだ教えてくれた……ネコの動画見たよ……」
「え、あぁ……」
「とっても……可愛かった……」
何の話か分からないが、俺と前にそういう話をしてた体のようだ。
「蒼井君は私が教えたラーメンの動画見てくれた?」
「いや……見てない……」
「そっか……バイトで忙しいもんね……」
「ま……まぁ……」
偽物の圭が会話の流れで自然に密着して、顔を寄せてくる。
「絶対蒼井君が好きそうなラーメンだから……また見たら感想教えて……?」
「おぅ……」
「って言って……またどうせ無視するんでしょ……?」
「いや、返事するって……」
「本当かなぁ……? あはは……」
圭が控えめな素振りで身体を軽く接触させてくる。なんだよこの感じ……。なんかリアルなんだが……。ネコとラーメンの話とか、確かに俺と圭ならしてそうな会話ではある……。なまじ血を分けた兄妹故に、妙な所で刺さった感じだ。
「圭ちゃん……蒼井君と会うの久しぶり……だもんね」
「恭二……こんなに女の子と仲良く出来るんだ……」
南つばさはずっと苦笑いを浮かべでおり、真夏の方は少し顔が引き攣っている。
「じゃ……じゃあ、圭ちゃん私帰ろうかな!」
空気を読んだのか、南つばさは自然とその言葉を切り出した。
「うん……なんかごめんね……。また今度……ちゃんと話そうね……」
「うん! なんか蒼井君と話してた圭ちゃんも新鮮で楽しかった! じゃあね!」
「またね」
歩いて行く南つばさをこの偽物の圭は手を振って見送る。
「じゃあ俺も帰るかな」
「私も。いつの間にかなっちゃんいないし、圭ちゃんは?」
真夏は手櫛で髪の毛を整えながら、問いかける。
「私も……帰ろうかな……」
「圭ちゃんも近所だったんだね」
「えっと……」
「あ、大丈夫だよ。家を特定しようなんて考えてないし、SNSにも流したりしないからさ」
「ありがとう……真夏ちゃん……。また一緒にお買い物行こうね……」
「うん、行こ行こ。圭ちゃん可愛いし」
そう言って俺たちは、並んで歩いて行く。8月も終わりに近づいているのに、まだまだこんなにも夜は蒸し暑い。
「恭二も一緒にお買い物来る?」
「行かねえよ。女物だろ」
「ツッコむねぇ相変わらず、ふふ」
「あはは……幼馴染のノリだ……」
「ただの真夏のイジリだろ」
なんて話しながら線路沿いを進むと、真夏との分かれ道に差し掛かる。
「じゃあ、私こっちだから」
「うん……またね……真夏ちゃん……」
「じゃあな、真夏」
「またね、二人とも」
真夏はカツカツと下駄の音を鳴らしつつ帰路に向かった。
「……」
「……」
そして、俺たちは線路沿いを進んでいく。なんかこのシュチュエーションっていつぞやもあったよな……?
「お兄……これで良かった……?」
「まぁ……来なくても行けたかも知れないが……多分オッケー」
「マジ? やった! 私めっちゃファインプレーじゃない?」
「まぁ、助かったっちゃ助かった……」
「こんな時のために圭ちゃんメイク練習しといて良かった!」
「マジ、圭そのまんまだったなしかし……」
「圭ちゃんは作れる! って事だねお兄!」
なんか、嬉しいやら悔しいやら……。南つばさも真夏も本当に信じてた感じだし……今後どうなる事やら……。頭上の白い夏の満月を覗きながら、俺は少しだけこの状況を考えてみたが、そんな事をしても答えなんて出るはずもなくすぐに面倒になり、あくびに思考を委ねることにした。




