花火大会!⑥
街灯が切れかかっているのか、やや薄暗い三叉路の中、浴衣を着た圭が俺達の前に現れた。南つばさも真夏も目を丸くして驚いている。いや、一番驚いているのは勿論この俺だった。何に驚いているかって、この完成度の高さだ。俺からすれば目の前にいるのは明らかに変装した菜月ではある。しかし、その化粧といい、厚底の下駄で背を嵩上げした機転の良さといい、俺が先程自室で取り外したウィッグをそのまんま被ってきた為だろう、そのヘアアレンジといい、全て南つばさが今日見た圭の姿を見事に再現していた。ちなみに香水までも同じものを付けてきたようだ。
「圭ちゃん!」
「あ、つばさ……」
「無事帰れたんだね!」
「う……うん」
南つばさが勢い良く反応する。いやマジかよ……。声も俺にそっくりだ。さすが血を分けた妹なだけある。だけど絶対、何の話か分かってないだろうな。俺はこの偽物の圭がボロを出さないように、間に入った。
「おお、圭。久しぶり」
「蒼井くん……連絡返してくれないから……今……蒼井くんの家に行ったんだけど……いなくて」
「あぁ…悪いちょうど出てた……」
「あの……浴衣姿……見てほしくて……」
そうか……圭が実際に現れて俺ん家に行ったと言えば圭と俺は確実に別々の家にいるものだと思い込む。助けてくれようとしたのか……考えたな菜月の奴……。ただなんか……菜月なりの設定も作って来たようだが、大丈夫か……? けれども南つばさも真夏も目の前の圭の存在を信じ込んでいるようだ。
「ど……どうかな……? 蒼井君……私の浴衣姿」
恥じらいを残した控えめな様子でこの偽物の圭は俺に問いかける。まぁ圭っぽい感じではある……。妹であるはずなのに、なんかよく分からんが、よく分からん過ぎて逆に少しドキドキしてしまう。
「え…ああと……似合ってるんじゃないか……」
「良かった…気に入ってくれて……」
「……」
「蒼井君に喜んでもらいたくて……頑張ったから……」
偽物の圭は横目で目を泳がせ、両手で口元を隠す。おい、菜月……ちょっとやり過ぎな気がするぞ……。
「ちょっ……圭ちゃん……意外に積極的……」
南つばさも俺を前にした圭がこんな感じでかなり驚いている様子だ。真夏も言葉にはしないが、どこか気まずそうにしている。偽物の圭はといえば、視線を俺たちから絶えずそらしたまま、
「これで……前に言ってた……浴衣の帯をグルグル……解くのも一緒にできるね……」
「……は?」
いや……何いってんだこいつ……。
「えっ、蒼井くん……やっぱり圭ちゃんとそういう関係っ?」
「うわ……恭二……そっち系なんだ……」
女子二人が騒いでいるが、俺はこの偽物の圭の顔色を観察する。
「……」
顔を上手に背けてはいるが、明らかに半笑いだ。菜月のやつ……完全に圭を利用して遊んでやがる……。しかし、たちが悪いことにこの状況では俺は菜月に対し何もできやしない。
「おい……圭……俺そんな変な事言った覚えないんだが……」
「え……覚えていないの……?」
系の格好をした菜月は見事に瞳をうるませて、儚い表情をして見せる。
「おいっ……妙な反応をするな!」
「満足……出来なかったかな……?」
「なんの話してんだ!」
「気持ち良くなかった?」
「おいっ! 菜月……じゃなくて圭いいかげんにしろよ!」
俺が語気を荒らげると、菜月は過度に怯えたふりをする。完全に舐めてやがる……。けれども圭の格好をしているためか、南つばさも真夏も、
「ちょっ……ちょっと圭ちゃん……その話……二人の時にしてくれる……? 聞いてられない……」
「恭二……そんな感じなんだ……」
と、怪訝な顔を俺に向ける。それでも菜月の半笑いは収まらず、
「蒼井君なら……この浴衣を好きにして良いから……」
「なっ……」
目の前にいるのは、菜月なのに圭にしか見えない。だからか、俺も南つばさも恥ずかしくなってしまう。
「なーんて……」
「は……?」
一通り満足したのか、この偽物の圭は苦笑交じりにそんな事を言った。表情から察するに満足したのだろう。俺は嘆息を一つこぼす。
「蒼井君……びっくりした……?」
「あぁさすがにな……」
「久しぶりだから……ちょっとイタズラしたくなって……ごめんね?」
「まじで心臓が止まりそうだったわ……」
なんて、俺たちの会話を南つばさはキョロキョロと交互に見つめて、
「えっ! 嘘!? もぉー圭ちゃん! 私もびっくりした!」
「ごめんね? つばさ。蒼井君が思ったより面白くて……」
「もぉーそういうらしくないボケはやめてよね! 本当に…びっくりしたんだから!」
「やりすぎちゃった……」
この偽物の圭は微笑みを浮かべつつ、
「でもどう……? 蒼井君……私の浴衣……」
「あぁ、似合ってるって」
「蒼井君に見てもらいたかったのは……本当だから……あはは……」
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