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花火大会!⑤

「あれ? 待って、お兄ちゃん!?」



反射的に声の方へ振り返ると、そこには浴衣姿の菜月と真夏の二人がいた。




「おう……帰りか菜月」

「うん。あれ? この人は?」



菜月が南つばさの事を不思議そうな目で見つめている。南つばさの方もすぐに外向きの顔へと切り替えたが、その顔は少しひきつっているようにも思えた。




「ああ、隣のクラスの奴。たまたま会ってな」

「お兄に、こんな可愛い知り合いがいただなんて……」

「舐めてんのかお前……」




俺が菜月にツッコむと南つばさは早速、



「蒼井君の妹さん?」

「はい! 蒼井菜月です! いつも兄がお世話になっております!」

「あはは……お世話って程の仲でもないけど同じ学校の南つばさです」

「可愛い……」



なんてつぶやき、菜月が南つばさの事を呆然と眺めていると、南つばさは苦笑いをして、




「片瀬さんも偶然だね!」

「うん。南さんも花火大会行ってたんだ」

「そう! 仲良い女の子と行ってたんだ」

「そうだったんだ。南さんも大井町なの?」




真夏の問いかけに、南つばさは自然な感じで、



「ううん、他の友だちと大井町のカフェでちょっとおしゃべりして解散した所に、たまたま蒼井くんを見つけてね」

「あっそうだったんだ。で、金魚すくいの金魚」

「そうなの! 家に持って帰ってもなぁ……って思ってたから」



相変わらずの嘘つき具合だ。安定した嘘つきであるこいつにはある種安心感すら感じてしまう。まぁ俺も南つばさと、変に関係がある事を周りに見られたくない考えは一致しているため、首は突っ込まないでおこう。真夏と南つばさの表面上のやり取りは、まさに女子な感じで少し怖くも感じる。





「片瀬さんも蒼井くんと同じ大井町なの?」

「そうそう。私も恭二の家もあの線路沿いに行って少し入ったところなんだ」

「え、蒼井くんの家って駅の向こう側じゃないの?」




南つばさは俺の顔を見てくる。やべ……。俺は必死に頭を回転させる。




「いや、えと……」

「あはは南さん、恭二の家はこっちだよ。一本裏手に入った坂の白い三階建てマンション」

「え、それって圭ちゃん家……」




南つばさは不意に俺の顔を見つめてくる。やばい……。おい待て……。そしてその言葉を真夏は逃さない。




「南さん、圭ちゃんってあのインフルエンサーの?」

「え、あうん……」

「ふふ、南さんも圭ちゃんが恭二の家に入るの目撃したの?」

「え、蒼井くんが圭ちゃん家に行ってると思ったけど……」



真夏も南つばさも怪訝そうな顔に変わる。頭がぼーっとしてくる。いや考えろ……。考えろって何をだ。家をどうごまかすんだ……。俺は懸命に菜月に視線で助けを求める。しかし菜月の方こそ、俺よりも青ざめて深刻そうな顔をして、頭を抱えている。





「えやっば! Mライブ録画し忘れた……! 真夏ごめんっ! 私ダッシュで帰る!」

「え、ちょっとなっちゃん」




真夏の言葉など聞かずに菜月はこの場から逃げ出した。あの野郎……薄情者が……。つか足早すぎだろ……。伊達に陸上やってねぇな……。嗚呼……俺もあいつみたいに、もう何もかも置いてこの場から逃げ出してしまいたい。菜月が消えたというのに、一度場に生まれてしまった妙な、空気は消えてはくれない。




「え、ねぇ恭二。圭ちゃんもこの辺に住んでるの?」

「え、まぁ……その……」

「圭ちゃんはこの辺だよ、片瀬さん」

「あっ、そうだったんだ」



南つばさの言葉に真夏は俺の方を見つめる。




「じゃあ、圭ちゃんも近所に住んでたんだ。そっか、この辺りの白いマンションっていっても結構あるしね」

「俺ん家は……その……俺ん家で、圭の家は圭の家……」

「なに当たり前なこと言ってんの恭二」




普通にツッコむ真夏に俺は余計に何も言葉が浮かばなくなってくる。いや、まだ諦めるな……。うまくはぐらかせるかもしれない……。やや重い空気に気遣ってか真夏は南つばさに、




「私も、少し前に圭ちゃんとたまたま遊んだ事があって、その時はどこに住んでるか秘密にされちゃったんだよね」

「あっそうだったんだ」

「さっきまで居た、なっちゃんと圭ちゃんが仲良くて、たまたま一緒に遊んだんだけどね」

「あ、そっか。菜月ちゃんは蒼井君の妹だしね」

「私が知らなかっただけで近所に住んでたのかも」





真夏は苦笑して場を和ませる。良いぞ真夏、その調子だ……。南つばさも真夏に同調している。



「私、実はさっきまで圭ちゃんと一緒に花火大会行ってたんだよね」

「え! そうだったの南さん」

「そうなの。で、圭ちゃんファンに囲まれちゃってさ」

「えー全然気付かなかった。大変だったんだね」

「うん、私もびっくりしちゃった」




良いぞ……なぜだか良い感じに家の話から逸れていってる。このまま解散しろ……。つか珍しいな。南つばさが自分の事を俺以外の奴に話すなんて。でもそうか、お互いに圭とプライベートで遊んでるんだもんな。南つばさからしたら、圭が俺に話して俺から菜月や真夏に花火大会の話が知られる可能性もあるだろうしな。




「それで恭二は、圭ちゃんの事花火大会に誘ったの?」

「はぁ?」




圭の話題になってか、真夏が毎度のイジリを込めた、くだらない事を聞いてくる。



「誘う訳ねぇだろ」

「ふーん」

「あはは、片瀬さんと蒼井くんって本当に仲良しだね」




南つばさが、自然な感じでツッコミを入れる。よし! 今がチャンスだ。




「ほら、もう良いだろ二人共。俺も眠いし、帰るぞ」

「うん、そうだね」

「蒼井くん、たしかになんか疲れてる」




俺たち三人はコンビニから離れ歩き出す。よくやった俺……。まぁ運が良かっただけだが。




「南さんはもう宿題は全部終わった?」

「うん! 初日で全部終わらしちゃった!」

「やっぱ凄いなぁ南さんは、恭二も見習ったほうが良いよ」

「俺より信道だろ。あいつはそもそも宿題すらやらねえんだから」

「え恭二よりやばいじゃん」

「夏休み明けの一週間は先生に交渉すれば許されるって平気で言うからな」

「あはは川島くん面白いなー」




先程とはうって変わり、和やかな雰囲気で歩いていくと、三叉路の岐路に差し掛かる。駅へ向かう南つばさだけここでお別れだ。危なかった。本当にさっきはぎりぎりだったぜ……。俺は肩の力をそっと抜く。




「お前はあっちだろ」

「うん」

「南さん気をつけてね」

「うんまた二学期からもよろしーー」




瞬間。




「あっ……蒼井君!」




背後からの呼びかけに俺たち三人は同時に振り返る。するとそこには何故か、浴衣姿の圭がいたーー

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