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花火大会!③

「あのーすいません、圭ちゃんですよね?」

「あっ……はい」





捕まってしまった……。いや、嬉しいんだけどさ……。タイミングってもんがあるだろ……。いや嬉しいんだけどな……。フォロワーに親しみを感じてもらえてるのはさ……。くそ南つばさも今はいねぇし……。ちゃんと対応するしかないか……。芸能人ってこんな気分なんだろうか……。




「やばっ……めっちゃかわいい……。上げてる写真そのまんまだ……」

「あ……ありがとうございます……」




浴衣姿の女の子。俺よりも少し上だろう、大学生だろうか。その女の子に釣られあっという間に俺はその集団に囲まれてしまった。



「マジ超可愛い……。私達こないだのライブ配信見ました」

「あ…ありがとうございます……」




浴衣姿の女の子が7人と、男も6人ほどいる。みんなじっくりと置物を見るような視線で俺を見ている。くそ……恥ずかしい……。




「圭ちゃん? やべ俺知らねぇわ」

「まぁ女子しか知らないかもね」

「でも確かに超可愛い、俺もフォローしよ!」

「スタイルめっちゃ良い……」




集団が勝手に喋りだしている……。やべぇ知らない人ばっかで目が回りそう……。早くゆちゃん帰ってきてくれ……。




「すみません、写真とか一緒に良いですか?」

「あ…….えと、はい……」

「ありがとうございます! ほらみんなも!」




さっきの子と一緒に取ってしまった以上、ここで断るのは話が違うか……。俺が女の子と共にポーズを取ると、集団の子達も一緒に画角に収まろうと、近づいてくる。




「じゃあ、取りますね!」

「はい……」

「すみません! もう一枚良いですか?」

「はい……」




写真を撮る人が入れ替わり、またも写真を撮られる。近付かれて分かったが、全員ほのかに酒臭いなこいつら……。大学生のサークルとかの集まりだろうか。




「すみません! ありがとうございました! 圭ちゃん頑張って下さい! また可愛い写真上げて下さい!」

「あ……ありがとうございます……」



浴衣姿のイケイケ女が俺に感謝の言葉を口にする。するとその集団にいた、ガタイの良いTシャツの男が、


「圭ちゃんさん! 俺っ、亮1107ってアカウントでつぶやき君やってるんで! 後でリプ送ります! 圭ちゃんさんまじ惚れました!」

「えーっと……返信出来るかは分からないんですけど……なるべく返すようにします……。ありがとうございます……」




俺の言葉に、男は嬉しそうにガッツポーズをしている……。その集団も俺の返事に妙な期待をしたのか、あるいは酔ったノリなのか、全員変な盛り上がりをしつつ、引き上げていく。つか、基本男のアカウントはフォロバしてないんだけどな……。そもそも化粧とかファッションのアカウントだし……。そして、俺が手を振って見送っていると、




「圭ちゃんさん……私たちも写真良いですか?」

「…………」




浴衣姿の女。やべぇ……。これ無限ループだ……。俺のファンってこんなにいたか……? つか、いつの間にか浴衣姿の結構な人集りが出来てるし……。まじでこれじゃあらち明かないぞこれ……。



「一枚だけで良いんで、写真良いですか?」

「えーとっ……どうしようかな……」




その瞬間だったーー




「すみません、彼女次の予定があるんで」




強気で勝気な声色。その声に俺は少し安堵した。




「行こ、圭ちゃん」

「う……うん」

「あの、一枚だけいいんです」

「彼女プライベートなので、やめて下さい」




釘を刺すような一言。ファンの子はそれ以上何も言うことはなかった。そして俺は南つばさに手を引かれかつ、人集りを掻き分けて、どんどんと公園を離れていく。南つばさの手に吊り下げられた金魚が、勢いよく揺れており少し可哀想だ。っていや待て……こっち駅の方じゃなくね?




「ゆちゃん……駅……あっちだよ……」

「私が出すから、圭ちゃん今日はタクシーで帰りな」

「え?」

「あの感じじゃ多分、電車でも付き纏われちゃうから」

「いや……お金掛かっちゃうし……」

「ううん、変な人に絡まれる方が怖いからそうさせて、圭ちゃん」




諭すようなトーン。俺はうんと、うなづく事しか出来なかった。




「いやー、さすがに花火大会はバレちゃうね! 若い子ばっかだし密集してるし」




俺をフォローするように南つばさは明るい声でそう言う。



「うん……。こんなの……初めてだったよ……」

「ねー、圭ちゃん大人気」




二人して公道へと出るとすぐにタクシーは捕まった。捕まえるとすぐに南つばさがタクシーの運転手と話をしていた。俺の家までだといくらになりそうか確認しているようだ。そして後部座席のドアが開くと、




「圭ちゃん次会う時、お釣りだけ返してくれれば良いから」

「う……うんごめんね」



南つばさが俺にお金を握らせてくる。



「ほら乗って!」

「ゆちゃんは?」

「実はまだお手洗行けてなくて……お手洗したら電車で帰るから良いよ」



そうか……。やっぱりまだ並んでる最中だったのか……。それなのに来てくれただなんて……。


「ごめんね……本当……」

「ううん! 後で写真送るね! また遊ぼ!」

「うん……」



どこか後ろ髪を引かれる中、俺はタクシーに乗り込む。そして閉まる扉を隔て俺は南つばさにへと手を振った。南つばさもにっこりと笑う中、その手元に吊るされた金魚がやけに印象的だった。




★☆★☆★☆★☆



「なんだってんだよ……」



同じ花火を見ていたであろう浴衣姿の女が各々に帰宅する中、俺は家を出て、最寄りの駅前に向かっている。あの後タクシーで南つばさと別れ、一足先に家についた俺はシャワーを浴びてリラックスしていたところ、スマホに一見の通知が来たのだ。



『あんた、今どこにいる?』

『家』

『最寄りどこ』

『大井町』

『へーあんたも大井町なんだ。渡したい物があるから30分後に駅前に集合ね』

『は?』

『来なさい絶対。中央口ね』



相手は決まってる。もちろん南つばさだった。

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