花火大会!①
「おはよゆちゃん、浴衣可愛いね」
「えへへ、ありがと。圭ちゃんも可愛いよ」
南つばさは、薄いピンクを基調とした花柄の浴衣でこちらもかなり可愛い。お決まりのボブカットもいつもとは違ったクセを付けて、散らせており浴衣に合ったヘアアレンジになっている。つか、浴衣でもやっぱりその胸の大きさは目立つんだな……。
「指輪……嬉しい……」
「うん、付けてきた」
互いの小指の付け根には、同じデザインの指輪が付けられている。そう、今日はこいつと遊ぶのだ。あの日貰ったペアリング、付けてきたに決まっている。
「テレポート駅から歩いて行くんだよね……」
「そうそう、海浜公園」
「久しぶりだな……花火大会なんて……」
「だよねー。私もそう」
「出店とかあるのかな?」
「少しはあると思う。何が好き?」
「うーん……牛串……」
揺れる車内の中、南つばさは控えめに笑って、
「ワイルドだね、圭ちゃん」
「ゆちゃんは?」
「りんご飴かな。なんか出店って感じだし」
「りんご飴……買った事ないかも……」
「えー、そうなの。買わなかった? ちっちゃい時」
「うーん、フランクフルトとか焼きそば?」
「あはは」
りんご飴か……。昔、家族で祭りに行った時、菜月がよく食べてたな。りんご飴の後に綿飴も買って、終いには俺がトイレ行くからって渡した唐揚げも食べ尽くされて、喧嘩したっけか……。姉貴になんで止めなかったか聞いても、ケラケラ笑ってるだけだったしな……。
「圭ちゃん、こういう祭り事はナンパも多いから気をつけるんだよ」
「うん……」
「なにか話しかけられても無視が基本!」
「うん……」
南つばさが得意げに話をしている。とはいえ言っても男だからなぁ……。そこまで警戒する必要もないだろう。むしろ危ない時は俺が南つばさを守らなければならないくらいだ。
「学校の子達と会わないと良いなー」
「あはは……来てる子いるの?」
「知ってるだけでも、15人は確実に来るはず」
「友達沢山だね……」
「ただの知り合い」
「あ、そっか」
「私の友達は圭ちゃん」
「やったぁ」
「いや……圭ちゃんは親友か」
「じゃあ友達は?」
俺の言葉に南つばさは少し考えこんで、
「蒼井はギリ友達かも、一切恋愛感情はないけど」
「え嬉しい……! ゆちゃん蒼井君と仲良くなってくれたんだね」
「まぁ、仲良くはないけど、学校のメンツなら一番信頼出来るかな」
「ふふ……ゆちゃんが蒼井君と仲良くなってくれて嬉しい」
「で圭ちゃん。蒼井との関係に進展は?」
「蒼井君はお友達なだけだから……」
南つばさが俺をからかって楽しそうにしている。好きだよなこいつ、このイジリ……。進展も何も、俺と圭が仲良くなるなんて事は不可能なのに……。
「あはは、青春してるねー圭ちゃん」
電車が揺れる中、南つばさはにっこりと微笑んだ。
★☆★☆★☆★☆★
「あっ! 出店あった!」
「ねー、結構あるね」
頭上には澄み切った夏の夜が降りている。やはり海沿いともあってか、夜風に少しだけ潮の匂いがした。目的の駅から、人の流れに沿って歩き続けると、会場の公園に着いた。まぁ公園って言っても砂浜なだけなんだけどな……。たださすがに最前列の方はもう場所取りがされており、俺たちは必然的にだいぶ後ろのほうになってしまう。まぁ別に見えるだろう。花火は上に打ち上がるのだから。
「どうする圭ちゃん? まだ時間あるし出店でも見てみる?」
「うん」
打ち上げ開始は19時半。まだ30分ほど時間がある。俺たちは人波に揺られつつ、会場の後ろの方に立ち並んでいる、出店の方へと向かう。
「牛串はないね、圭ちゃん」
「牛串ないか……食べたかったな……」
「フランクフルトはあるよ」
「うーん……」
「あっ! 金魚すくい!」
隣にいる南つばさが勢いよく声を発し、指を差す。その方向を見ると、確かに金魚すくいの出店があった。
「ゆちゃん……金魚すくい好きなの……?」
「ううん、むしろやった事ない」
「やってみたら……?」
「出来るかな」
「私は出来ないけど……ゆちゃんセンス有りそう」
「え、私センス有りそう?」
「うん、ぴょーんって取りそう……」
「あはは」
俺のおだてに乗っかったのか、南つばさはそのまま、金魚すくいの出店に行く。そして店員を呼ぶと、お金を払い金魚すくいを始める。ポイは3枚か。周りの子どもに囲まれつつ、南つばさは本気の目でタライの中を泳ぐ金魚を睨み付けている。
「なるべく大きいの……」
「頑張ってゆちゃん」
「そーっと……あっ!」
手つきは悪くなかったように見えたが、呆気なくポイは破れた。うわ……なんかイラついてるよこいつ……まぁそうか……そもそも負けず嫌いだしな。南つばさは浴衣の袖を捲り、気合を入れ直している。
「ゆちゃん落ち着いていこ……」
「うん、冷静に」
「そうそう」
「入れたらすぐ……良しっ……あ!」
惜しい。ポイの中で金魚が暴れ破けてしまった。隣の小さい子どもも、惜しいーと言っており面白い。
「ゆちゃん、ラスト頑張って!」
「分かった、尻尾は外すのね……」
南つばさはどこかコツを掴んだのか、顔付きが変わった。そして、そっと金魚をすくい、
「取れたー!」
「わーい……!」
「ほら見て圭ちゃん!」
南つばさが子どものようにはしゃぎながら、俺にお茶碗に入った金魚を見せてくる。
「うん、見てた……凄かった」
「良し! この調子でって……あれ?」
呆気なくポイは破れた。南つばさは苦笑いをして俺を見返す。すると店員さんが、
「はいお嬢ちゃんは一匹ね、ほら器」
「はい、ありがとうございました」
南つばさが店員にお茶碗を渡すと、店員さんは透明な袋に水と取った金魚を入れて南つばさに渡す。すると南つばさは不思議そうな顔をして、
「え何これ、なんか貰っちゃった」
「すくった金魚は貰えるんだよ」
「あ、そうなんだ。どうしよ荷物になっちゃった」
「持つ?」
「ううん、大丈夫。ねぇ写真撮ろ」




