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生配信!①

「うぅ……手が痛い……貼り絵なんてやらなきゃ良かった……」

「でも、綺麗に出来たんじゃないのか」

「まあ、そうだけど……」




午前中に書いた文字の背景に、様々な色をした鳥の切り絵が無数に貼られている。玉井曰く、正翔高校の翔という文字を表現したとの事だ。本当はただの絵で表現しようとしてたらしいが、急遽玉井の独断で切り絵に変更して、こんなに時間がかかってしまった。俺は俺で細かい背景の色塗りや、貼った鳥の切り絵に臨場感を出す為、似た色をあえて重ね塗りしたりと、かなり地味な作業を手伝わされた。




「よし、終わったぞ玉井」

「ん……っし私も終わった!」




俺は丸まった腰を伸ばしつつ、立てかけてある看板を見つめる。



『第63回正翔高校文化祭』



看板に大きく掲げられた黒いその文字の後ろには、無数の鳥の切り絵が空に向け翔ける姿が描かれている。窓から差し込む西日が眩しかったが、何故だか嫌な気分にもならなかった。廊下には誰もいない。玉井も疲れたのか、腰に手を当てて伸びをしつつ、




「良い感じに出来たね」

「あぁ、さすがだな玉井」

「蒼井君のおかけだよ、私一人じゃ出来なかったから」

「役に立ったのなら良かったよ」




玉井は俺の方を見た。その正義感の強さが滲み出た大きな瞳は西日に優しく染まる。ヘアピンでサイドに留めた前髪や、セミロングヘアの両サイドをゆるく結った艶のある三つ編も西日に照らされ、赤く輝く。普段のきっちりとした制服の着こなしとは異なり、作業に集中していたのか、首元のボタンは緩めている。ったく学級委員としては失格だな。3組の学級委員はお前しか出来ないのに。




「腰も痛いよ蒼井君」

「明日筋肉痛だなこれ」

「えー、いやだよ」




玉井はくすくすと笑い、その八重歯が夕日に光る。




「でも……本当にありがとう蒼井君」

「別に、約束したしな」

「この鳥みたいに、蒼井君の人生もここから羽ばたいていけるようにって願いも込めたから」

「俺だけじゃなくて、生徒全員だろ」

「そうだけど、蒼井君は特別」

「そりゃ縁起が良いな」




玉井は自分の三つ編みを撫でながら、感慨深げに看板を改めて見つめる。




「ねえ……蒼井君」

「ん?」

「私さ、蒼井君の事……好きかも」

「え……」

「多分、去年からずっと……」

「えーっと……」



玉井は目を合わさない。西日がやけに眩しい。看板を見て、目を合わさないままに玉井は笑って、




「困ってるね」

「いや……まぁ」

「安心して。これ、告白じゃないから」

「……」

「ただ、伝えただけ」

「あぁ」




窓の外から、運動部員の声が聞こえる。夏のど真ん中ともあり、夕焼けはまだまだ沈まない。ずっと目を合わさなかった玉井が俺の方へと振り向くと、西日を跳ね返すようにニッコリと笑い、



「うん……。蒼井君の事大好きだ私……!」

「……」

「はい! この話終わり! 片付けするよ! って……あっ! 制服のボタン外しちゃってた……」



玉井は床に置いてある塗料を持ち、片付けを始める。



「ほら、蒼井君も動いて! 日が暮れちゃうから!」

「お……おう」

「看板もまた、備品庫に戻すからね!」




玉井はさっきまでの事が嘘みたいなように、溌剌と片付けを始める。玉井に倣って片付けを始める中、俺はずっと歯切れの悪い反応しか出来なかった自分の事を思い返していた。




★☆★☆★☆★




「み……みんな聞こえる……? 見えてるかな……?」




玉井の手伝いから一日経った日の夜。そう俺は今、フォロワーからのかねてからの要望だった生配信を自室にて行っている。ゆちゃんに会う前は自分の女声に自信がなかった為、要望を受けても断っていたのだ。しかしバイト先でも完全に女として仕事をしており自分としてもだいぶコツを掴んできたため、フォロワーへの感謝も込めて生配信を実施することとした。バイト終わりで少し疲れているが少しくらいなら大丈夫だろう。




「見えてる? 良かった……。うわ、コメント凄い……読みきれない……」




あまり期待していなかったが、もう同時接続者が2000人もいる。俺の低スペックPCが落ちないか心配になってきた。そんなに楽しみにしてたのかよみんな……。流れているコメント欄を見ると、みんな肯定的なコメントを投げてくれており、優しいフォロワーに囲まれていると実感して嬉しくなる。




「えっと……今日は……みんなと雑談みたいな感じで……いろんなお話をできたらって思うので……聞きたい事とかコメントしてくれたら嬉しいです」




開始して1分も経ってないのに、鬼のようにスパチャが飛んでくる。スパチャのコメントを優先して読んでいくしかないか。ちなみに今日も、耳の下で結んだツインテである。今度は真夏にみたいなポニテも良いな。




「えっと……こないだ渋谷で見かけました、街中で声かけても良いですか、めるる@美容垢さん……。あっ、はい! それは全然、でも私……人見知りなんで対応悪く見えちゃうかもですけど……それでも良ければ全然対応します……。フォロワーの方にリアルで会えたら嬉しいですし……」




こんな感じで良いのだろうか……。つかまじで恥ずかしい……。顔が赤くなっていないか心配だ。




「じゃあ次のスパチャ行くね。うわスパチャ……五万円もありがとうございます……。えっと……圭ちゃんのプライバシーもあるから街中で声かけるのはやめようよ、ゆちゃん@フォロワー第一号さん……」




…………。

絶対あいつだろこれ……。他のフォロワーに喧嘩売るなよ……。勘弁してくれ……。俺は空気が悪くなる前に慌ててフォローする。



「あっ……みんな喧嘩しないでね……。さっきも言ったけど、街中で見かけたら気軽に声かけてくれて良いから……」




早速コメント欄が若干ピリピリしているが、俺はとりあえず先に進む。



「次行くね。定期的に生配信して欲しいです、かにかまさん。んー……定期的にやるのは考えてないです……。ごめんね……」




定期的にやるのはしんどいだろこれ……。




「みんな、コメント凄いね……。目が回りそう……。えっまた5万円……! えっと、バイトもあるし定期的に生配信するのはヤダ、ゆちゃん@フォロワー第一号さん……」

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