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学級委員のお手伝い③

「つばさちゃん、最近結構うちのクラスに顔出すんだけど来る時は絶対、蒼井君が居る時なんだよねー」

「偶然だろ」

「しかも来た時はずっと蒼井君の机の方を確認してる」

「……」




よく見てんな、我らが学級委員は……。




「前までつばさちゃんはうちのクラスに来ても加奈子しか絡もうとしなかったし、男子の方なんて見てなかったから」

「特に何もねぇよ、本当に」




無駄に鋭いな……。ドライなあいつの事だから本当にそんな感じだったんだろうし……。俺はこれ以上面倒にならないように玉井の言葉を跳ね除ける。




「どう? 名探偵玉井の推理は」

「間違いだ」

「えーっ」




面白いのか、くすくすとした声と共に玉井の背中が揺れている。




「そっか。でも……間違いで良かった……」



ひとしきり楽しんだ後、玉井はぼそっとそんな言葉をつぶやいた。



「な……なんだよそーー」

「左側、書けたから塗り始めて良いよ」

「え? お……おう」




玉井に言葉を遮られた流れで、俺も無条件で身体が動いてしまう。




★☆★☆★☆★



「よし! 文言の方はほぼ終わったし一旦お昼にしよっか!」

「ああ」




玉井の言葉に俺は刷毛を紙皿の上に置き、大きく伸びをする。あーまじ腰痛え。




「うん、蒼井君意外と塗るの上手。センスある」

「下書きの線に沿って塗っただけだけどな」

「じゃあ、やっぱり私のセンスか」



玉井は腕を組み、うんうんと勝手に誇った様子だ。俺は固まった腰を叩きつつ看板を見下ろす。始める前、ただの白い板に過ぎなかったが半日で、見事に言葉が追加された。


『第63回正翔高校文化祭』


黒く刻まれたなんて事のない、その文言を見ていると、隣に玉井がいる事もあってかなんだか俺まで少し誇らしく思えた。




「蒼井君はお昼どうするの?」

「コンビニ行って、なんか買って来るかな」

「良かったら、お弁当食べる? 私、蒼井君の分も作ってきたから」

「まじで、良いのかよ?」

「うん、手伝ってもらってるし全然」

「じゃあ遠慮なく」

「うん。じゃあ教室戻ろっか」




そう言って歩き出す玉井の後ろを俺はまたもついて行く。しかし、誰もいない学校ってのは本当に不思議な感覚だ。まぁ厳密に言えば外や体育館には運動部がいるが校舎の中は誰一人として歩いていない。



「あっ玉井」

「うん?」

「肩」



玉井の制服の肩に看板のささくれが付いていた為、俺は払ってやった。



「あ、ありがとう」

「あぁ」



しかしこうして見ると、玉井は本当に華奢な体格をしている。背は小さめではあるが、これなら可愛い系のタイトな服もかなり似合いそうだ。信道が言うには3組の中ではかなり上玉みたいだし、意外にモテてるのだろうか。




「蒼井君は購買派だっけ」

「基本はな。たまに作ったりもするけど」

「へー、蒼井君も料理するんだ」

「夜は作ってるからな」

「意外」





二人して階段を上がり、教室へと戻って来た。玉井は、自分の机に置いてあるスクールバッグから弁当を二つ取り出す。



「せっかくだし、一緒に食べようよ蒼井君」

「あぁ」



玉井は自分の机を反対側に向けて、後ろの机と連結させた。少し暑いか、俺は教室の窓を何枚か開ける。生ぬるい風が室内に入り込む。まぁ開けないよりはましか。そして俺も、玉井の対面の机に腰を下ろす。




「お茶もあるから、飲んで」

「あぁ、ありがと」




ペットボトルのお茶も買っておいてくれたようだった。なんか甘えっぱなしで申し訳ないな。



「いただきまーす」

「いただきます」




面前に置かれた黒い2段弁当を俺は開ける。おかずは卵焼きにウインナー、ベーコンアスパラに冷凍グラタン、あとはミートボールか。そして、ご飯の方にはシソのふりかけが掛けられていた。おお、このふりかけ好きなんだよな。俺は早速、卵焼きに手を付ける。




「どうかな……」

「美味い」

「本当?」

「あぁ」

「良かった。てか蒼井君リアクション薄い」



俺が困っていると、玉井はくすくすと笑う。甘い卵焼きは久しぶりに食べた。玉井は甘い卵焼き派なのだろう。俺はいつも塩コショウで作ってしまうから、なんだか新鮮だ。




「毎日、自分で弁当作ってるのか?」

「うちは両親共働きだから、私とママとお姉ちゃんの持ち回りで作ってるんだ」



夏の風が吹き込む誰もいない教室で、俺たちは弁当を食べる。



「へー、良いなそれ。うちの妹にも聞かせてやりたい」

「はは、妹さんは料理しないんだ」

「しないし、食った食器下げない事多いし、作ってる時に横からつまみ食いする」

「仲良いんだね」

「普通だな」




玉井のそのやや強気な瞳が和らぎ、長いまつげが揺れる。




「でも蒼井君と川島って凄い仲良しだよね」

「別にそうでもねぇよ」

「川島、もっと勉強頑張れば良いのに」

「俺からも言ってんだけどな」

「それでもやらないんだ」

「あぁ」

「じゃあダメじゃん。あはは」




玉井は、俺を見つめて微笑む。その八重歯が白く輝く。俺はお茶に手を伸ばしつつ、




「玉井の方は夏休みなんかするのか?」

「んー、他にも色々な実行委員も掛け持ちしてるから、忙しいんだよねー」

「良いのか、信道が言うには人生一度きりの高二の夏みたいだぞ」




俺の言葉に玉井は目を丸くしている。




「あっはは! 確かに! それ川島言ってた!」



ケラケラと笑いながら、玉井は自らの三つ編みを撫でる。




「じゃあ、私も恋人作っちゃおうかなぁ?」

「玉井はそういうの興味あるのか?」

「そりゃ私だって女の子だもん。まぁ他校の女子に手を出してる蒼井君程じゃないけどさ?」

「あれはただの友達だっつの」

「ふふ……そっか、高二の夏かぁ……」




玉井は俺の目を見た後に大きく伸びをして、




「ちゃんと最高の夏休みだよ」

「はぁ? なんだよそれ、看板作りが夏の思い出で良いのか」

「うん!」

「あんまり自分を犠牲にしすぎんなよ」

「あはは、違うよそうじゃない」




玉井は嘘のないその聡明で強気な瞳を潤ませて、



「そうじゃないよ、蒼井君」




★☆★☆★☆★☆



「蒼井君、塗れた?」

「ああ、もうちょい」

「オッケー、こっちももう終わる」




気がつくと夕焼けが誰もいない廊下の一面に差し込んでいた。午前中の時点ではすぐに終わるものだと思っていたが、俺も玉井も返って凝り出してしまい、もう夕暮れになってしまっていた。




「うぅ……手が痛い……貼り絵なんてやらなきゃ良かった……」

「でも、綺麗に出来たんじゃないのか」

「まあ、そうだけど……」

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