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ドキドキワクワクのオフ会④

俺の突然の言葉に南つばさは泡を食った顔を浮かべている。俺は懸命に南つばさを見つめる。そしてやや間が空いたあと、




「行きたい、圭ちゃんち。てかどこ」

「大井町……なんだけど……」

「割りと近いじゃん、私恵比寿だから」

「そうなんだ……」

「親とか良いの?」

「大丈夫」


俺の言葉に南つばさは、にっこりと微笑む。それはさっきまでの笑顔とは異なっていた。さっきまでの冷たい瞳に朗らかな色が戻っていく。どうにか俺の気持ちを信じてもらえたようだ。誰だって興味ない人間を家に招こうとは思わないだろうから。溌剌と微笑むその横顔を見て、俺もなんだか嬉しくなった。周囲が喧騒に包まれている中俺は、そのキンキンに冷えたコーヒーを一気飲みした。




★☆★☆★☆★☆



「へぇ〜ここが圭ちゃんちなんだ」

「うん……」

駅から10分ほど歩いた所にある低層マンションの一室、てか俺んち。いや、まさかあの南つばさを俺んちに招待する事になるだなんて……。まぁ誘ったのは俺なんだけどさ……。玄関をくぐり、リビングに案内すると早速、南つばさは真ん中のソファに座り込んで、


「圭ちゃんちは共働き?」

「ママは居なくて……パパは単身赴任……」

「そうなんだ、なんかうちの家と似てるね」

「クーラー入れたから……」



俺は南つばさの隣に座る。横から彼女を覗くとその豊かな胸の膨らみが顕著に分かり俺はドキりとしてしまう。



「久しぶりだなぁ、誰かの家に入るのなんて」

「そうなの?」

「うん、だってそういうのちょっと重いじゃん」

「そうかな……」

「人気者の私を家に招いたって、騒がれても面倒くさいし」



南つばさはそう言って、その細い足をソファから伸ばす。



「ゆちゃんは凄いね……人気者なんだ……」

「圭ちゃんは違うの? そんなに可愛いのに」

「私は……ほら……大人しいから……」

「いや、絶対うちの学校なら人気出てるよ。可愛すぎるもん」

「ゆちゃん……学校はどこなの?」

「正翔」

「あ、正翔なんだ……正翔なら……知ってる男の子ひとりいる……」



俺の発言に南つばさはややびっくりした様子でこちらを見返して、



「え、誰? 圭ちゃんの知り合いめっちゃ気になる、てか告られた人とかだったらどうしよ」




やべ、会話の流れで適当に言っただけなのに、食いつかれちまった……俺は仕方なく。




「蒼井君……なんだけど……」

「蒼井って、3組の蒼井恭二?」



は、マジかよ。俺の事認知してたのかよこいつ。一回も話した事ねぇのに。なんか怖ぇな……。



「3組かは分からないけど……その人だよ……」

「へぇ、圭ちゃんあいつと知り合いなんだ」

「うん……」

「優しそうだからか地味に女子人気あるんだよねあいつ」

「そうなの……?」


俺は驚いて、すぐに言葉を返してしまった。俺が人気とかどこの世界線の話してんだこいつ。すると俺の疑念をよそに南つばさはひとりでうなづきつつ、



「圭ちゃん気を付けてね、ああいう優しそうな顔した男は一番女を食いものにしてるから」

「そうなのかな……」



酷え言われようだなおい……。絡んだ事もねぇ女に、なんでそんな事言われなくちゃいけないんだよ。


「てか、あいつ彼女いたよね」

「いないと思ってたけど……」

「ううん、1年の頃からずっと付き合ってる子がいるはず……そうそう4組の片瀬さんと」

「…………」



いや、昨日もやったなこのやり取り……。なんで俺と真夏が付き合ってる前提なんだよマジで。この噂流してる奴まじでふざけんなよ……。



「まさか圭ちゃん、あいつにアタックされてんの?」

「ううん……蒼井君はただのお友達だよ……」

「男女の友情なんて、一時のもんだよ」

「そうかな……」



南つばさは吐き捨てるようにそう呟く。そして急に俺の手を握り、真っ直ぐこちらを見つめてきて、



「圭ちゃん……蒼井に酷い事されたらいつでも言ってね。私が社会的に復讐してあげるから」



心臓が高鳴る。しかしそれがどちらの感情によってなのか俺には分からなかった。それが目の前の南つばさへの恐怖なのか、それともこの重なった手の平からくるものなのか。けれども俺は懸命に言った。リアルの俺が舐められない為に、



「ゆちゃん……心配してくれるのは嬉しいけれど……蒼井君はそんな……不誠実な人じゃないと思う……」

「え」

「蒼井君は私の友達だから……そんな悪く言わないで欲しいな……」

「ごめんね……圭ちゃん」



南つばさはそっと俺から手を離した。そしてバツが悪そうに視線を逸らす。つい言い過ぎたかも知れない、そう思って俺はフォローするように、



「ゆちゃんも……蒼井君も……私の大切な友達だから……ちゃんと大事にしたいんだ……」

「圭ちゃん……」

「ゆちゃんも傷付けたくないけど、それと同じくらい蒼井君の事も傷付けたくないから…….」

「…………」




南つばさがこちらを見返してくる。ゆるふわなボブカットが控えめに揺れる。その気の強そうな瞳が虚をつかれたかのように移ろう。その瞬間、



「きゃっ……!」



俺は南つばさに抱きつかれ、ソファに押し倒された。



「嬉しい! 圭ちゃんが友達って言ってくれて! もう大好き圭ちゃん!」




南つばさの豊かな膨らみが何度も何度も、俺の身体に擦られる。薄荷のような良い匂いが鼻腔を抜ける。まずいまずい……。今は女なんだ、そう女なんだ。俺は必死になって自分に言い聞かす。



「ゆちゃん……ちょっと……髪型崩れちゃう……」

「ご……ごめんね、嬉しくてつい」

「心配しなくても……私はゆちゃんの前からいなくならないから……安心して?」

「うん……」



南つばさは体を起こし、俺から離れる。若干名残惜しいって、いやそんな事は考えない。俺も体を起こし、乱れた髪を手櫛で整える。



「だけど圭ちゃん、そんなに蒼井の事信頼してるんだ」

「友達だから……」

「友達……ね」



南つばさは噛み締めるようにそう呟く。男女の友情、おそらく彼女はそこに引っかかっているのだろうか。




「ゆちゃんも……学校で何かあったら……蒼井君に相談してみると良いよ……蒼井君は絶対に裏切ったりしないから……」

「喋った事ないんだよねー」

「あはは、蒼井君は人見知りだからね」

「蒼井……か、圭ちゃんが大切にしてる人……」



俺が笑うと、南つばさもにっこりとして見返す。



「圭ちゃんはさ、蒼井の事……多分……好きなんだね……」

「え?」

「態度で分かるよ、蒼井の事になった時だけリアクションが違うもん。本気になってる」

「そうかな……」



そりゃ、自分自身の事を目の前で言われたら、本気になるだろ誰だって……。



「蒼井の事、好き?」

「蒼井君は……お友達……」

「可愛い……圭ちゃん」


なんだ……このやり取り……。なんて返せば良いんだよ……。



「なんか羨ましいなー蒼井が。こんなに圭ちゃんに愛されててさ、ちょっと嫉妬しちゃう」

「ゆちゃん……やめて……恥ずかしいよ……」

「誰もいないから大丈夫だよ、圭ちゃん」

「ゆちゃんは……好きな人とかいないの?」

「いるわけないじゃん、好きなのは圭ちゃんだけ」



すると、南つばさは急に改まった様子で、


「ねぇ、圭ちゃん……」

「うん……」

「また……圭ちゃんち来ても良い?」

「うん……良いよ、事前に連絡くれればいつでも……ゆちゃんは私の大切な友達だから」



そう言って俺は少し小っ恥ずかしくも感じながら、南つばさを見つめる。



「ありがとう……」



エアコンの音にかき消されそうな声で、南つばさは嬉しそうにそう呟いた。



今日、もう1話上げます。

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