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学級委員のお手伝い①

「うん……ゆちゃん……気持ちは嬉しいんだけど……お泊まりはパパがダメって言ってるから……」

「圭ちゃんのパパ、単身赴任なんでしょ? バレないよ」

「まあそうだけど……約束だから……」

「こら、つばさ。いい加減にして、圭ちゃん困ってるじゃない」

「えーだって、圭ちゃんと一緒に寝たいんだもんー」




ママさんが気を遣って間に入ってくれた。ちなみにずっと俺を送ろうと、ママさんは仕事終わりのスーツを脱がないでいる。俺は立ち上がり南つばさの頭を撫でつつ、




「また今度ね、ゆちゃん」

「お泊まりはいやなの?」

「準備もしてないし」

「下着なら、貸すから」

「いや……それは……」




色々と勘弁してくれ……。どんだけ泊まって欲しいんだよこいつ……。つか、ママさんの前であんまり過激なこと言うな気まずいから……。南つばさがぐだぐだと文句を言ってるのを聞きながら、俺はそそくさと荷物をまとめる。




「準備はできたかしら? 圭ちゃん」

「はい、すみません。迷惑かけます」

「ふふ、じゃあ行こっか」




俺とママさんが玄関へ向かうと、しぶしぶ南つばさもその重い腰を上げて付いてきた。俺は玄関で靴を履きながら、




「ごめんね……ゆちゃん」

「ううん、後で写真送るね」

「うん、待ってる」

「今度お泊まり会しようね」

「パパにお願いしておく」

「うん、おやすみ。楽しかった」

「私もだよ、ゆちゃん」




そして、俺はママさんと二人で家を出る。外に出た途端、夏の夜の湿気が毛穴に張り付く。玄関の階段を下るママさんのハイヒールの音が静かな住宅街に響いている。そして、真下のガレージにある高級車に案内される。




「助手席に乗っちゃって」

「はい、すみません」




車の扉に手を掛けると、その重厚な感触が広がる。これが高級車ってやつか。俺はその夜空よりも黒い高級セダンに乗り込み、扉を閉めた。





「うわぁ……」

「そんなに物珍しいかしら? ふふ」




車内の独特な匂い。おそらくはシートの革の匂いだろう。俺の挙動に運転席のママさんが笑いつつエンジンが掛けられ、ヘッドライトが点灯した。




「うおっ……」




ヘッドライトの明かりに意識を取られていたのもあるが、シートの背もたれがかなり倒されており、思わず声が出てしまった。




「あら、ごめんなさい。びっくりさせちゃったわね。あの子いっつもシートすごい倒すのよ」

「そうなんですね……」




いるよなー……。やたらと座席のシート倒す奴。つか、この角度とかほぼ寝てるみたいなもんじゃねぇかあいつ……。俺は調節しようとシートの側面に手を入れる。




「あれ?」

「あぁ、これボタンなのよ」

「どれ、ですかね……」

「扉のとこの」

「えーっと……」

「やるわ」




ママさんが運転席から身体を伸ばして、リクライニングのボタンを押してくれた。目の前にママさんの横顔があり、その髪の毛の甘い匂いも合わさって不覚にもドキドキしてしまう。




「このくらいかしら?」

「はい、ありがとうございます」




ママさんは、ボタンから手を離し姿勢を正した。


「あら、地声に戻すの」

「車内だし、もう良いかなと思いまして」

「駄目よ、ちゃんと続けないと。私は圭ちゃんを送ってくって言ったんだから」

「は……はい。分かりました」

「ふふ……」




怖え……。暗い車内でも分かるくらい一瞬目がマジだったな……。




「ちなみに、スカート少しめくれてるわよ」

「うわっ!? すっ……すいません……」




俺はすかさず股に手を添え、シートベルトを締める。車内にママさんの優しい笑い声が響く。




「大井町で良いのよね?」

「はい」

「近くまで着いたら案内できる?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあ出すわよ」

「お願いします」




そして、車はゆっくりと夏の夜を走り出した。




「今日は悪かったわね、遅くまで付き合わせちゃって」

「いえ、私も楽しかったので全然」

「あの子、頑固だから」

「あはは、そうですね」

「お泊まりの件は私からも釘を刺しておくわ」

「可哀想なのでヘコまない程度でお願いします」




夜中ともあり、道路はかなり空いていた。さすがは高級車、車内の静粛性が凄い。




「バイトは楽しい?」

「はい、つばさちゃんも恵理子さんも優しく教えてくれるので楽しいです」

「営業の三上君には口説かれてない?」

「おかげさまで、つばさちゃんがガッチリ私をガードしてるので大丈夫です」

「ふふ……そう。夏休みが終わっても定期的に入ってくれると嬉しいわ」

「こちらこそ、働かせてもらえるなら喜んでお受けします」




車は赤信号で止まる。ママさんは俺を見て微笑みかける。艶のある長い髪は綺麗に染められており、色っぽい。本当に綺麗な人だよなぁ。




「でも、つばさがあんなに誰かに懐くだなんて本当に信じられないわ」

「私も、少し驚いてます。学校でのつばさちゃんも最近何となく分かってきたので尚更」

「あの子、変わってるから。私も仕事ばかりでもう少し構ってあげられたら良かったんだけどね」

「ママさんが頑張ってる事は、つばさちゃんも分かってると思います」

「あら、さすが男の子ね」

「いや……」

「これからもつばさの事よろしくね」

「はい」




信号が青へと変わる。こんな充実した誕生日を過ごせたのはいつ以来だろうか。俺も南つばさと関わるようになってから、なんだかんだでそれなりに新鮮な日々を送れている。ママさんにはそう言われたが、俺の方こそあいつにもう少し感謝した方が良いのかも知れないな。




★☆★☆★☆★






「あっ! 蒼井君! おはよう!」

「あぁ、おはよう」





8月8日、夏休み真っ只中なのに、朝から俺は制服に袖を通し、いつもの教室来ていた。そう夏休み前、強引に取り付けられた玉井との約束だ。



「ちゃんとドタキャンせずに来てくれたね、蒼井君」

「まぁ、約束しちゃったしな……」

「やっぱり、蒼井君は良い人だ」



そう言って玉井は壁にもたれつつ、その正義感の強さが滲み出た大きな瞳をゆっくりと潤ませた。しかし、さすがは学級委員。夏休みで誰もクラスメイトは居ない、そんな時でも普段通りのきっちりとした制服の着こなしだ。ヘアピンでサイドに留めた前髪や、セミロングヘアの両サイドを太く、ゆるく結った三つ編は相変わらず似合っている。




「つーか何、玉井だけ?」

「うん」

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