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お誕生日を祝い合おう!③

「ちょっとパイの様子見てくる」

「うん」




南つばさは立ち上がり、キッチンの方へ向かう。これはチャンスだろうか。俺は部屋の隅に置いておいた紙袋を目立つようにテーブルの上に置いた。中はもちろん南つばさに渡すプレゼントだ。柄でもない事をしているからか、かなり緊張する。誰かにプレゼントを渡すなんて、いつ以来だろう。




「…………」




パイの焼ける良い匂いがこっちまで漂ってくる。南つばさの足音も聞こえる。俺は小っ恥ずかしく、ジュースを一気飲みする。落ち着け、俺は女の子なんだ。自然に……自然に……。




「あと10分くらいでパイも焼ける……っておっ」



南つばさが嬉しそうに俺を見つめる為、俺も微笑み返す。そう、あくまでも自然に。




「ふふふ」

「待って圭ちゃん、私も持ってくる」

「うん」




南つばさは再度、キッチンへと戻る。どうやらキッチンの方にプレゼントを隠していたようだ。再度目にした南つばさのその手には同じく紙袋が握られていた。




「じゃじゃーん」

「おんなじ事考えてたね」




南つばさは俺に紙袋を見せつけてくる。そして俺の隣に座った。





「お誕生日おめでとう、ゆちゃん」

「ありがとう。圭ちゃんもお誕生日おめでとう」

「ありがとう」

「どうする? どっちからにする」

「ゆちゃんから見てほしいな……」

「はーい」



南つばさは俺の置いた紙袋を確かめる。その艶めいたボブカットが照明に反射する。やべぇ緊張してきた。




「あっ、このロゴ」

「ふふふ」




南つばさは紙袋からブランドロゴのあしらわれた箱を取り出す。箱にはリボンのラッピングがされている。



「このリボン可愛い。取っておこっと」

「可愛いよねー」




南つばさはラッピングを解いて、開封する。そして中から、あの日買ったコスメが出てくる。




「あっ! これ! エンスタで見るやつ!」

「うん……ゆちゃんに似合うかなってそれにしてみたの……」

「え超嬉しい……これ欲しかったから……ふふ」





南つばさはコスメを開いて色合いを見ている。その顔は純朴で楽しそうだった。学校じゃ絶対にお目にかかれない笑顔だろう。良かった。プレゼントは間違いじゃなかったようだ。




「嬉しい……ありがとう、圭ちゃん」

「これからも友達でいようね」

「うん……」



俺は恥ずかしさを懸命に隠して、南つばさに笑みを向ける。すると南つばさはニヤけ始めて、




「うっはぁ……可愛い……圭ちゃん」

「もう……またそれ」

「超可愛いんだもん」

「ねぇ……ゆちゃんのも見たい」




俺がそう切り出すと、南つばさは笑いつつもやや緊張した面持ちへと変わった。その気の強そうな目尻が少し垂れている。まぁ中身はとっくに知ってんだけどさ……。けれども普段とは異なるその健気な表情はどこか見ていて新鮮だった。南つばさは俺に小さな紙袋を渡して来る。




「あれ、このブランド……」

「察しはついた?」

「アクセサリー系?」

「ふふ……」





俺は紙袋の中から、小箱を取り出す。こちらもブランドのロゴが刻まれている。開ける前に南つばさの方をチラッと見たら目が合った。その長いまつ毛が不安げに揺れている。南つばさは少し不安の入り混じった、真摯な視線で俺を見つめる。そんな目で見んなよな……。逆に緊張してくるっつーの……。俺はなるべく自然に小箱を開けた。




「あっ可愛い……ピンキーリング?」

「うん!」




小箱の台座に置かれた小さな指輪。俺と南つばさで選んだプレゼント。俺はそれを取り、右手の小指に付けた。控えめなダイヤが一粒だけあしらわれたデザインは、圭の雰囲気に上手くマッチした。




「可愛い……」

「本当?」

「うん、サイズもぴったりだし……。ありがとうゆちゃん」

「良かったぁ……喜んでくれて……」

「丁度、こういうの欲しかったから嬉しい」




俺は指輪を付けた手を顔の前にかざして、南つばさを見る。南つばさはとびっきりの笑顔で俺を受け入れる。良かった、俺の反応に安心してくれたようだ。つかそこまで緊張しなくても良いのにな……。俺としてはもう買い物に行ってあんなに悩んでくれてた時点で、プレゼントは頂いているようなものだったわけだし。




「ねぇ、圭ちゃん」

「何?」



南つばさは珍しくモジモジと恥じらいながら、



「実は私もさ、お店でおんなじの欲しくなって買っちゃったんだけど……」

「うん」

「ゆちゃんが嫌じゃなければ、ペアリングで一緒に付けても良い?」



少し不器用なその台詞から、南つばさの切実さが痛いほど伝わった。そうだった、それがこいつの目的だったなそういえば。こんな事でこいつが喜んでくれるのなら、勿論俺に断る理由など何もない。



「全然良いよ、ゆちゃんとおそろ嬉しいし」

「本当に!?」

「う……うん」




南つばさは途端にポケットから指輪を取り出して、左手の小指に付ける。そして自らの手を俺の指に並べてかざした。



「見て! ほら、超嬉しい」

「あは……ゆちゃん可愛い」

「ふふ、お揃いだね圭ちゃん」

「うん……なんか恋人同士みたいだね……ふふ」

「あはは、たしかに。ねぇ写真撮ろ」




そして俺たちは写真を撮った。重なる二つの指輪を輝かせて。





★☆★☆★☆★☆★




「ほら、ゆちゃんグラス掲げて!」

「う……うん」




夜も深まる中、俺は南つばさにスマホを向けられている。




「じゃあ、カウントダウン! さんにーいち! ハッピーバースデー!」

「わー、あはは」




プレゼント交換の後、南つばさの作ったミートパイもご馳走になった俺は、南つばさに圭ちゃんの誕生日になるまで一緒に居たいと言われ、この時間になってしまった。




「お互い17になったねー!」

「ねー」




南つばさは続けて、スマホのインカメを起動させて、俺に顔を近づけてくる。ほんと、好きだよなー写真撮るの。まぁ、俺が言える立場でも無いのだが。俺は南つばさの真似をして頬に手を当てるポーズを取った。そして今日、何枚目なのかわからないシャッター音が切られた。




「あとで、撮ったやつ全部送るからね」

「うん」

「でも嬉しい! 圭ちゃんの誕生日の瞬間を一緒に迎えられて!」

「私もゆちゃんと一緒に迎えられて嬉しい」





俺は南つばさに微笑む。すると、横から




「はいはい、つばさ。もう良いでしょ。もう誕生日会はお終い。私、圭ちゃんを家まで送ってくから」

「えー、ママが送ってくれるならまだ良いじゃん」

「だめ、未成年なんだから節度は守りなさい」

「ねぇ圭ちゃん、やっぱり泊まっていきなよー」





二時間ほど前の事だった。仕事から帰ってきた南つばさの母親が、俺を送ろうとしたところ、こいつが日付を超えるまでは居たいとの事でここまで延長したのだ。俺はと言えば、散々南つばさに泊まっていけ攻撃を受け続けたが、俺の事情を知っているママさんも目の前にいるし、そもそもすっぴんも見せられないし、気まずいながらも断りを入れ続けかわしていた。

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