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お誕生日を祝い合おう!①

いつも人がごった返している夕暮れの恵比寿駅もこうなんども来ていると、自然とこの人混みにも慣れてくる。俺はこないだ買った夏用のややきれいめデザインのセットアップが乱れていないか確かめながら改札口に向かう。下の丈がやや短く、予想していたよりも太ももが露出しており少し恥ずかしい。ただ上品で控えめなピンク色の生地は俺の雰囲気にかなりマッチしている。



「圭ちゃん! こっちこっち!」

「あ、ゆちゃん」



改札の向こう側に、南つばさが出迎える。白のブラウスに水色のミニスカと夏らしいシンプルな服装で可愛いらしい。今日8月5日は南つばさの誕生日だ。そして、明日8月6日は俺の誕生日でもある。南つばさから、私の家で二人の合同誕生日会をやろうとの提案を受けた為に、俺は恵比寿駅に降り立ったのだ。




「あっ、圭ちゃんなんか用意してる」

「これは……まだ触れないで……」

「ふふ……」



早速、南つばさが俺の持ってきたプレゼント入りの紙袋に触れてくる。まぁこいつももう分かりきってるだろうが、そこはあえて視線を外してくれた。俺たちは駅から家まで歩きながら、





「圭ちゃん、ちゃんとお腹減らしてきてくれた?」

「うん、朝から何も食べてないから……お腹減って死にそう」

「さっすが圭ちゃん! ストイック」

「私本当に……全部ご馳走になっちゃって良いの? ゆちゃんの誕生日会でもあるんだし……」

「良いの良いの! 私が圭ちゃんの誕生日を祝いたいんだし、そもそもこれは合同誕生日会なんだから!」

「良いのかなぁ……」




事前に南つばさから、ケーキも料理も用意しなくて良いとの連絡を受けていたため、俺はプレゼント以外は手ぶらだった。やや罪悪感を感じつつも俺は、




「でも、こんなにおもてなしされる誕生日会なんて初めてだから楽しみ」

「えー、圭ちゃんいっつも誕生日とかどうしてるのー?」

「ゆちゃんも薄々気付いてると思うけど、私根暗だから、いっつもひとりで過ごしてた」

「あはは、私と同じだ」

「え、ゆちゃんもそうなの?」

「うん。なんか面倒で、家でママだけに祝ってもらう方が楽だなって」

「なんか似てるね〜」





なんだよこいつ……。去年信道が、つばさちゃんの誕生日会に参加させてくださいって直談判したのに仲間内の女子会だからごめんねって断られたとか言ってたけど、それも嘘だったんかよ……。マジで徹底してんな本当に……。




「そういや圭ちゃん、今更なんだけど苦手な食べ物とかある?」

「うーん……食べ物自体はないかなぁ……。強いて言うなら温度のぬるいのが……」

「あー、なるほど圭ちゃんねこ舌なんだ」

「ううん……違って……ぬるいのが嫌いで……」

「え、熱々信者って事?」

「そうなの……」

「へー、なんか意外」

「変かな……」

「全然! 私も熱々信者だし」




駅から離れ、夏の夕焼けに照らされた橋を渡ると少し離れた公園で小学生が楽しそうに遊んでいる。




「じゃあ圭ちゃん、ラーメンとかも熱々が好きなんだ」

「うん……二郎系とかスープの温度が冷めないように……油マシにする……」

「え待って!? 圭ちゃん二郎系行くの!? マジ意外なんだけど」

「たまにね……」

「ひとりじゃ行かないもんね、男の子と?」

「うーん……」

「あ、わかった。蒼井だね?」




本当は信道に連れてって貰ったのが最初なんだけどな……。




「うん……蒼井君と……」

「あいつもセンスないなぁ……圭ちゃんとご飯ならもっとおしゃれな所連れてけば良いのに……」

「あはは……でも最初は私が行きたくてお願いしたから……」

「え、まじ?」

「うん、食べてみたくて」




会話の流れからなんだか試してみたくなり、あえてこんな事を言ってみたが、南つばさは焦った様子でまんまと、




「圭ちゃん……実は私もこないだ蒼井と二郎系行ってきたんだ」

「あー、こないだ蒼井君とご飯行ってくるって言ってたやつ?」

「そう、実は私も二郎系食べてみたくて蒼井について来てってお願いしちゃったんだよね」

「えー、ゆちゃんからそんな事言われたら蒼井君もびっくりしてたんじゃない?」

「うん、ちょっと顔引き攣ってた。まぁ無視したけど」

「あはは、ゆちゃん面白い」




意外にこいつ、あん時の俺の反応見てたんだな……。てっきりラーメンの事にしか意識行ってないと思ってたんだが……。




「でも、ゆちゃんと蒼井君が仲良くなってくれて嬉しいな、ありがとうゆちゃん……」




とそう言って俺が微笑み掛けると、




「ぐはっ! 圭ちゃん可愛い過ぎ! やばい! まじ私だけのものにしたい!」

「もうほとんどゆちゃんだけの物だよ……私」

「ううん、蒼井がまだいる。あいつが居なければ圭ちゃんを私の世界に閉じ込めておけるのに」

「こ……怖いよ……」

「なーんて、あはは」





南つばさは並んで歩きつつ、楽しげにその凛々しい瞳を潤ませる。夏の夕暮れにその艶やかなボブカットが反射する。いつもまにか、バイト先のビルも通り過ぎて閑静な住宅街に入っていた。南つばさの家はもう目と鼻の先だ。




「ちなみに今日ママは仕事で遅くなるみたいだから、気兼ねしなくて良いよ」

「相変わらず、忙しそうだねママさん」

「ねー、仕事命って感じだよね」

「ママさんはゆちゃんの事も大事にしてるよ」

「まぁそうだとは思うけど、最近は圭ちゃん推

しだからうちのママ」

「あはは……」



俺が苦笑いすると南つばさは、さらに




「一緒にご飯食べてても、次はいつ圭ちゃんと遊ぶのーとか、あんたわがままなんだから圭ちゃんに優しくしないとだめよーとか、変な事ばっかし言ってくるんだよね」

「ゆちゃんは凄い優しいよ」

「だよねー」

「あと面白い」

「え嬉しい」

「男の子の話は愚痴がほとんどだけど……」

「だって男子ってキモくない?」

「あはは……」





なんて話をしていると、南つばさの家に到着した。つか相変わらず凄え家だよな……。コンクリート打ちっぱなしの外壁とか、芸能人の家かよ……。

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