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真夏がお泊り①

帰宅しシャワーを浴びて、軽く自室で寝た俺はリビングにへと出向く。そろそろ菜月の夜飯まだ? 攻撃が始まる頃合いだからだ。正直、俺も今日はあの買い物のせいで疲れてるし、簡単にカレーにしてしまおう。菜月もカレーなら何も文句は言わないだろうし。





「あっお兄ちゃん、やっと起きた」

「腹減ったろ、飯作るから」

「わーい」




菜月は予想してた通り、Tシャツと短パン一枚でソファに寝そべり、ダラダラしている。その長い髪の毛がソファにまばらに広がっている。壁の時計を見ると19時を少し過ぎたくらいか。俺はダイニングへと向かい、冷蔵庫から野菜を取り出す。すると、



「あっ」



インターホンと共に菜月の声が響き渡った。



「やば真夏きた」

「は?」

「あれ? 今日は真夏が泊まりに来るって言わなかったっけ?」

「ちょ……おい聞いてねぇよ」

「あれ、帰ってきた後言ったような……。まぁ良いや、お兄ちゃんとりあえず『やまと女子』のDVDをどっかに隠さないと」

「あぁ確かに、親父の部屋のクローゼットは」

「良いね! あそこなら絶対バレないしね!」



菜月がテレビ台の下にある棚から、やまと女子のDVDを抜き取り、そのままリビングを出て行った。そしてしばらくすると扉が開く音と共に、真夏の声が聞こえてくる。俺が冷蔵庫から、野菜を取り出して準備していると、廊下から足音が聞こえてきて、




「あっ恭二、おはよ」

「もう夜だろ」

「寝起きっぽいからそう言ったの、顔少し浮腫んでて可愛いね」

「…………」




寝てたのバレてたんか。怖ぇな相変わらずこいつの観察力は。昼の姿とは異なり真夏も白いTシャツにハーフパンツとラフな格好だ。化粧も落としてすっぴんでもある。つーか泊まりに来る時はいっつもこんな感じか。




「なに、ご飯作ってるの? 手伝うよ」

「いや、良いよ」

「良いから」




と、真夏は俺の隣に来て、



「ほうれん草にナスにひき肉……キーマカレーか」

「よく分かったな……」

「恭二は相変わらずカレーが好きだねー」

「楽なんだよ。簡単だし菜月も文句言わねぇし」

「あはは、優しいお兄ちゃんだね」

「優しくもねぇよ」

「ふふ、私が野菜切るから恭二は炒めててよ」




真夏が横に来ると、そのポニテからシャンプーの良い匂いが鼻を抜ける。もう風呂に入ってきたのだろう。



「なに?」

「いや……別に」




真夏が不思議そうに見返してきた為、俺は視線を逸らす。そして鍋に火をかけ、ひき肉を炒める。合挽き特有の甘い油の香りが立ち込めてくる。



「恭二は今日何してたの?」

「特に何もしてねぇよ」




野菜を手際よく切りつつ、真夏がそんな事を聞いてくる。勿論、お前と遊んでたんだよなんて言葉は言えるはずもない。




「お前は菜月と買い物だろ」

「うん」


と話していた矢先、




「なんと今日は圭ちゃんも一緒だったもんねー!! ねー真夏!」




なんて、菜月が分かってるくせにリビングに入ると同時に会話に入り込んでくる。あの野郎……。リアクションしないのも変かと思い俺は仕方なく、




「は? まじかよ、圭も一緒だったのか」

「お、恭二びっくりしてる」




真夏が少しだけ、楽しそうな表情を浮かべ、



「そうそう、一緒にお買い物してきたの」

「またえらい急だな」




真夏は菜月の方へと向き、



「なっちゃんが連れてきてくれたんだよねー」

「ねー! ツタバでお茶して超仲良しになったよねー!」

「フラペンチーノ飲んだよねー」




真夏が切った野菜を鍋に入れてくれる中俺は、




「なんでわざわざ圭を誘ったんだよ菜月」

「えーそんなの、真夏と圭ちゃんが仲良くして欲しいからに決まってんじゃんお兄ぃ」




白白しい会話だと思ってるのか、あるいは俺を振り回して楽しんでるのか、菜月が終始ニヤニヤしっぱなしで腹が立つ。本当は菜月に圭の話なんて振りたくもなかったが、ここで俺が菜月に話を振らないのもなんだか不自然に思えた。





「お節介な奴だな相変わらず」

「でも、真夏も圭ちゃんとすぐに打ち解けて楽しかったよねー?」

「ねー」




真夏も菜月の茶化しノリに加勢した。真夏は包丁とまな板を洗いつつ、




「ねぇそういえば聞いて恭二」

「なんだよ」

「私、つぶやき君で圭ちゃんフォローしてたんだー」

「へー、つかお前つぶやき君やってたのかよ」

「見る専だけど、一応ね」

「意外だな」

「メイクとかヘアアレンジとかが上手でよく見てたアカウントの子に似てるなぁって思って聞いてみたら、やっぱりそうだった」




真夏は楽しそうに、俺に語りかけてくる。




「なんか意図せずオフ会みたいになっちゃって、圭ちゃんの方も、え相互フォローしてないかもとか焦ってて可愛かった」

「へー」

「前、会った時は一瞬だったからつぶやき君の圭ちゃんだって気が付かなかったんだよね」

「ふーん」





まぁ、あの鉢合わせた時は本当に一瞬だったからな。俺も気まずくて結構顔を背けてたし。




「真夏、カップに水入れてくれるか」

「もう用意してあるよ」

「あぁ悪い」




野菜もひき肉も炒まってきた為に、俺は鍋に水を入れる。後は煮立ったところに隠し味のコンソメを一片入れてルーを溶かせば完成だ。




「てか相変わらず男の料理って感じだよねー恭二は」

「え超分かる真夏! マジでお兄ぃの料理って男だよね」




真夏の何気ない一言にソファにいる菜月が勢いよく反応する。二人は同調して、




「ねー、だって恭二炒めてる時も豪快に塩コショウ振るし、基本強火だし、なんか全部がガサツで見てて面白い」

「お兄ちゃんの唐揚げとか、まじ男の味付けでほとんど醤油とニンニクの味しかしないからねー、まぁその分ご飯進むんだけどさ」

「あはは、なんか想像つくねそれ」

「…………」



揃って俺をバカにしてくる。俺は普通に料理してるるつもりなのに。





「男の味付けで悪かったな」

「あっ、恭二がすねた。どうすんのなっちゃん」

「え? でもでもちゃんと美味しいよお兄?」

「もう作ってやらん」

「ちょっと待って! お兄が作ってくれなきゃ私、実家に帰ってくる意味ないじゃん!?」




菜月が慌てふためき、ソファで足をバタバタとさせながら、




「またハメたな真夏! 誘導尋問だろこれ! 私とお兄の絆にひびを入れたな!」

「誘導してない、なっちゃんが勝手に乗ってきたんじゃん」

「いーや! 絶対真夏だよお兄! 真夏がうちらの兄妹愛を引き裂こうとしてる!」

「してないしー」

「いやだって昼のツタバの時も見てたでしょお兄……って、お兄ちゃんは昼間は関係ないか、あっははー……」




危ねぇ……。マジ勘弁してくれよ……。

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