圭と菜月とお買い物③
絶対あれだよな。あの家の前で鉢合わせた時の事思い返してるんだよな……。気まじぃ……。菜月もあの事件の事はしらねぇしな……。
「そんなにモテないから……私……」
俺が謙遜すると、すぐに真夏は、
「えーそんなに可愛いのに」
「男の子とあんまり会話とかしないから……」
「男嫌いとか?」
「んーそういう訳でもないんだけど……恥ずかしくて….…」
「へー」
真夏と話していると女装がバレるのではないかと、自然と緊張し顔が赤くなってしまう。そんな俺の様子を真夏はじっと見つめてきて、
「あれ? ちょっと待って、圭ちゃんってつぶやき君とかやってる?」
「え?」
そう言って真夏は自分のスマホを取り出して、何やら操作した後、俺に画面を見せてきた。そこには、案の定予想した通り俺のアカウントが映し出されている。
「これ圭ちゃんだよね?」
「うん……」
「やっぱり。私、圭ちゃんフォローしてた」
「あっそうなんだ……私、相互フォローしてるかな……フォロワー多過ぎてちゃんと把握出来てなくて……」
「ううん。私、つぶやき君は見る専だから、気にしないで」
「あっ……そうなんだ」
まじかよ、真夏もつぶやき君やってたのか。なんつーかちょっと意外だな。しかもフォローまでされていたとは……。つぶやき君の圭ちゃんと知ってか、少しだけ真夏はくだけた様子に変わって、
「少し前にさ、ポニテのヘアアレンジの自撮り上げてたよね」
「えーっと……あの黒いリボンのやつかな……」
「そうそう、実は今日あれをイメージしてセットしてみたんだけど」
「あっそうなんだ。凄い似合ってるし、なんか嬉しい」
「ふふ、私もあの圭ちゃんに褒めてもらえて嬉しい」
俺が喜んだからなのか、真夏も同様に微笑む。なんか真夏とこうやって会話するのは凄い新鮮だな。お互いになんでも知ってる間柄なはずなのに、今見てるのは、俺の知らない真夏の姿なのだ。そして、何気なく俺と真夏がつぶやき君の話しを続けていると突然、
「ねぇ二人とも! 私も会話に入れてよ! この買い物セッティングしたの私なんだから!」
「ご……ごめんね……菜月ちゃん……」
「あー、なっちゃんが圭ちゃんの事いじめてるー」
真夏がからかうような声色で菜月を茶化す。
「だって真夏が圭ちゃんの事独り占めするからじゃん! 私も圭ちゃんと話したいのに!」
「違うよねー。圭ちゃんは、なっちゃんより私の方が好きだもんねー」
真夏が楽しそうに俺の方を向いてくる。俺もこのノリにあえて乗っかり、
「うん……菜月ちゃんより真夏ちゃんの方が……好きかな……」
「ちょっ!! お兄っじゃなかった……圭ちゃん!!」
「ほらー、やっぱり私の方が仲良しだった」
「あはは……」
菜月がこの世の終わりみたいな表情をしている為、フォローを入れるとすぐさま表情に笑顔が戻る。そして、タイミングよく電車がやってきた為に、俺たちは電車に乗り込んだ。
★☆★☆★☆★☆
「うっはー! ここが新宿IZETANかぁ! おしゃれー!」
「なっちゃん。ちょっと声のトーン落として」
「あはは……」
新宿に着いた俺たちは、老舗の百貨店にきた。とりあえず、百貨店に行けば色々見れるだろうと俺が提案したのだ。ぶっちゃけデパコスも見てみたかったしな。
「凄いよ圭ちゃん! ほら見て! 店員さんがみんなモデルみたいで可愛いよ!」
「ねー、みんな可愛いね……」
菜月の言う通り、ハイブランドだらけでガラスケースの並ぶ整然とした店内は、確かにどこを見渡しても、綺麗な女性ばかりだった。俺たち兄妹が入口付近ではしゃぐ中、相変わらず真夏が落ち着いた様子で、
「どうする圭ちゃん? 見たがってたし、最初はコスメでも見る?」
「うん、コスメ見たい……」
「オッケー、じゃああっちかな。私も見たいし」
真夏が俺たちを先導する。俺は女装してる為に当たり前だが真夏も女の中では背が高く、スタイルも良いから店員さんに雰囲気自体は負けてない。
「圭ちゃん、どのブランドが見たいとかある?」
「んーせっかくきたし……色々見たいな……」
「じゃあ適当に見て行こっか」
「うん」
終始、真夏が俺のペースに合わせてくれている。小さい頃もそうだったが、こいつの世話焼き気質は誰が相手でも変わらないらしい。コスメゾーンに入ると真夏が気を使って、歩くペースを落として俺を先頭に立たせてくれた。好きに見てくれとの配慮だろう。俺はせっかく来た事だし遠慮せず、直近にあったハイブランドの店員に、
「すみません。こないだ出た新作のアイシャドウって……」
「ご来店ありがとうございます。少々お待ちくださいね」
店員は慣れた手付きで、ガラスケースの鍵を開け、中で飾られているコスメを取り出した。
「これが、7月に発表された新作ですね」
「可愛い……エンスタの広告で見たやつだ……」
でかでかとブランドロゴが張り出された可愛いケースがいかにもデパコスって感じで、俺は自然とテンションが上がる。
「はい。エンスタにも広告が流れてますよね。お客様ですとこちらのカラーは如何でしょうか?」
「凄い……可愛い……」
「宜しければ、手の甲にでも付けてみますか」
「はい……」
「えーっ! 圭ちゃんずるい私もー!」
菜月が横からちゃちゃを入れると、店員は苦笑しながら、
「ふふ、どうぞお客様もお試しになって下さい。でもお客様だとこちらのカラーの方が良いかと」
「圭ちゃんと違うカラーで試させてください!」
俺たち兄妹は揃って新作の化粧品を手の甲に付けさせてもらう。自然な発色でかなり可愛く自然とニヤけてしまいそうになる。さすがはデパコス。いつもプチプラしか使ってないからな俺。菜月も同じくテンションが上がって、
「うっはー! なんか上品! 見て真夏、凄くない?」
「なっちゃんに良し悪しなんて分かるの?」
「いや分かるから! ねぇやめて真夏! 店員さんの前で恥ずかしい」
「あはは」
真夏がいつものノリで菜月を茶化す。店員の前でイジられたのが恥ずかしかったのか、菜月が少しガチめに反応してて面白い。そんなやり取りを見てか店員が、
「ふふ、仲良いですね。失礼ですが皆さん、背も高くて可愛らしいし、モデルさんとかですか?」
「いえいえ! 私と真夏はただのJKです! でも圭ちゃんはJKの間ではカリスマモデルみたいな感じです!」
「ねぇやめて……菜月ちゃん……恥ずかしい……」
菜月が誇らしげに俺の肩を掴んで店員に紹介する。やめてくれ……まじで。




