圭と菜月とお買い物②
「お兄がつまんないから、ご飯おかわりするー」
「唐揚げもまだ食うか?」
「食べる〜」
菜月が即答した為俺は立ち上がり、キッチンにある残りの唐揚げを皿に取り、テーブルの上に置いた。菜月はご飯を片手に持ちながら、冷蔵庫の中を覗いている。
「おい菜月、行儀悪いぞ」
「ねぇお兄ちゃん卵焼いてよー。久しぶりにお兄ちゃんの卵焼きも食べたい」
「面倒くさいからまた今度な」
「えー、まぁ良いや」
相変わらずよう食うなこいつ……。それでいてこの細身な体型をキープ出来るのも羨ましいが。
「実家は良いねーやっぱり。ふふ……」
菜月は美味しそうに湯気の立ち上がった白米をほうばりつつ、嬉しそう微笑んでいる。
★☆★☆★☆★☆
「ねぇお兄ちゃんまだー?」
「もうちょいだけ待ってくれ……」
「もうー早くしてよー」
化粧や髪型のセットも終わり、自室で最後の服装の確認をしていた所、菜月が待ちきれなかったのか、催促して来た。確かに結構待たせてしまっていたのかも知れない。ちなみに今日は袖口のレースとリボンが可愛い白のブラウスに、同じくレースが可愛い黒色のショートスカートの格好だ。ヘアスタイルもたまには変えようかとも思ったが結局、いつもの耳の下で結んだツインテールの髪型にし、結び目の下はヘアアイロンとワックスでクセを付けた。やっぱり圭はこの髪型が一番可愛いのだ。俺はバックを持ち自室を出る。
「悪い待たせた」
「もー遅いお兄ちゃん」
廊下には既に菜月が待っており、準備万端な様子だった。菜月は、ゆるい白のカットソーにデニムのショートパンツとシンプルだが、おしゃれな服装だ。今日はいつもの黒髪ロングとは違い夏らしく前髪を上げて、おでこの上で前髪を結ぶヘアアレンジもしておりかなり似合っている。
「じゃあ行くか」
「うん」
菜月が動かずにじっと見てくる。
「な……なんだよ」
「可愛い圭ちゃん……。やっぱり別人だ」
菜月が嬉しそうな表情を浮かべるのが妙に恥ずかしい。妹だからだろうか。
「あんまり見んなよ……ほら行くぞ」
「はーい」
俺と菜月は外へと出る。蝉の音が聞こえ、今日も清々しいくらいの良い天気だ。俺は声色を変え念の為、菜月に向け言った。
「外では女声だから……」
「え? ねぇおもしろ〜い。いきなり変わって」
「……」
完全に楽しんでやがるな、菜月のやつ……。俺たちは最寄りの駅まで向かいつつ、
「とりあえず……新宿に行くから」
「うん! 圭ちゃんの行きたい所で良いよ! あはは」
「なんでそんなに笑ってるの……?」
「え? だってそりゃもう……可愛いし……ギャップが凄すぎて……」
「……」
兄としての立場と圭としての可愛らしさの間で俺の自尊心がぐらぐらに揺れている。菜月は今までにないくらいに上機嫌で溌剌とした笑みを浮かべている。菜月にいじられながら歩いていると駅に着き、俺たちはエスカレーターで駅の構内まで上がって行く。
「新宿だったら……確かりんかい線の改札だよね……」
「ちょっと待ってお兄……じゃなかった圭ちゃん。ここでお友達と待ち合わせてるから!」
「えっ?」
菜月はエスカレーターで突然俺を追い越して、先に上がりきり、
「真夏ー! 久しぶりー!」
は? 真夏? 一瞬で嫌な予感が胸の内に広がっていく。そして、エスカレーターを上がり切ると、
「おはよ、なっちゃん。久しぶり」
女の中では落ち着いた低い声。見覚えのある切れ長な瞳に綺麗な黒のポニテ。すっとした綺麗な鼻筋。案の定、そこには私服姿の真夏がいた。
「…………」
菜月の野郎……。はめやがったなまじで……。ああ……まじ面倒くせぇことになるぞこれ……。俺がしぶしぶ菜月に近づいて行くと、真夏はこっちを見た。
「あれ、なっちゃんこの子……」
「そうそう! この子が私の言ってた友達! 名前は圭ちゃん! すっごく可愛いでしょ!?」
「圭ちゃん……」
真夏は俺の方を見て少しだけ会釈し、
「こないだぶりですね」
「はい……」
「なっちゃんとも友達だったんですね」
「はい……」
「びっくりしちゃいました」
「私も……です……」
俺が気まずそうにそう言うと、真夏は苦笑する。びっくりだよな本当に。真夏のリアクションからして、あっちも俺が来る事なんて知らなかったようだし。くっそ……マジで菜月のやつ、一人だけ楽しみやがって……。
「あれなに真夏!? 圭ちゃんと顔見知りなの?」
「んー顔見知りって程でもないけど、ちょっとだけ知ってるって感じかな」
「えー! そうなの圭ちゃん!?」
「う……うん。そんな感じ……」
「えー! 超偶然じゃん!」
菜月が駅の構内に響くほどのリアクションを上げる中、俺は真夏の方を見る。何気に真夏の私服なんて久しぶりに見た気がする。胸元の白いリボンと二の腕のフリフリが可愛い薄紫のワンピースに黒のギャザーサンダル、それと黒のバックと可愛らしい格好だ。見慣れたポニテもよく見ると毛先にかけてアイロンを当てて巻いており、可愛くアレンジされていた。真夏も結構オシャレが好きなんだろうか。今日はしっかり化粧もしているし。すると俺が居心地悪そうに立ちすくんでいたからか真夏が言った。
「ほらなっちゃん、圭ちゃんが困ってるから。とりあえず、新宿行くんでしょ?」
「あ、うん」
菜月を先頭に俺たちは駅のホームまで向かう。歩きながら菜月は楽しそうに、
「ちなみに真夏、今日は圭ちゃんがお友達にプレゼントを買うみたいだから、一緒選ぶの手伝ってあげて」
「あっそうなんだ。ちなみに相手は男の子? 女の子?」
真夏が話を振ってきた為に俺は、
「女の子です……」
「あれ? 圭ちゃんって高二?」
「はい……」
「じゃあタメ口で良いよ。同い年だし」
「う……うん」
「ふふ……可愛い……」
真夏がそんな事を呟くと、菜月がすぐに食いついて、
「でしょ真夏! 圭ちゃん可愛いんだよねー! これで彼氏いないんだよ? 信じられなくない?」
「へーそうなんだ」
真夏が試すような笑みを浮かべながら、こちらを見てくる。絶対あれだよな。あの家の前で鉢合わせた時の事思い返してるんだよな……。気まじぃ……。菜月もあの事件の事はしらねぇしな……。
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