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圭と菜月とお買い物①

「うん……って、なんであんた私の最寄り駅を知ってるわけ?」

「……」




またやっちまった……。俺はすかさず、





「あぁ、圭から聞いた……。こないだお前んちに遊びに行ったってな……」

「あぁそう言う事ね。仲良いわね本当、てかこれじゃ私のプライベートあんたに筒抜けじゃない」

「行ったって事しか聞いてねぇから安心しろ」

「まぁ良いわ」




やや怪訝そうな顔を浮かべつつ南つばさはコーヒーを飲み干す。こいつが飲み干した為に俺も自分のコーヒーを一気飲みする。




「じゃあまた、日程は連絡するわね」

「あぁ」

「今日は助かったわ、色々相談に乗ってくれて。念願だった二郎も食べれたし」

「言っとくが二郎はしばらく無しだからな」

「ふふ、分かってるわよ」




そして、俺たちは喫茶店を出た。するとうんざりするほどの夏の日差しが容赦なく襲いかかる。



「私、食べ過ぎちゃったしこのまま歩いて帰るから」

「近くて良いな」

「暑っつ……夏ね、本当に」

「あぁ」



南つばさはそっと手をかざしながら、頭上の青空を見上げる。その真っ白な肌が少し赤み掛かる。





「一生に一度の高二の夏……か……」

「……」




南つばさは物思いに耽ったような顔を浮かべる。その長いまつ毛が揺れている。





「じゃあね、今日はありがと。蒼井」

「あぁ、じゃあな」



南つばさは背を向けて颯爽と歩いていく。大切そうにその指輪の入った紙袋をぶら下げて。




「帰るか俺も」





★☆★☆★☆★☆




「おーい菜月! 晩飯出来たぞー」

「はーい!」




晩飯を作りながら俺はそう呼び掛ける。すると廊下からバタバタと菜月の足音が聞こえ、リビングの扉が開かれると上機嫌な様子の菜月が出てきた。女の中では高い身長。ややつり気味だが大きな瞳と白く健康的な肌に、俺と同じやや低めな鼻筋。先ほどシャワーも入っていた為か、薄手のパジャマで出てきて、すっかりリラックスしてる様子だ。その長い黒髪もトリートメントをかけた後なのか艶めいている。




「やっぱり実家は良いよねーお兄ちゃん。なんせ自動的にご飯が出てくるんだもん」

「自動的にってか俺が作ってんだよ……」

「あぁ! ねぇ今日唐揚げじゃん! 丁度、お兄ちゃんの作った唐揚げ食べたかったんだよねー!」




菜月は俺の話なんて聞かずに、テーブルのイスに座った。



「ご飯はおかわりある!?」

「あるけど、それは自分でよそえよ」

「オッケー!」




テーブルには簡単なサラダと漬物、そして味噌汁にメインディッシュの唐揚げ。菜月は待ちきれないのか、





「ねぇお兄ちゃん早くいただきますしようよー」

「あぁ、もう終わるから」



俺は冷蔵庫からサラダ用のドレッシングを取り出して、イスに腰掛けた。




「いただきまーす!」

「いただきます」





菜月は勢いよく唐揚げに箸を伸ばし、




「んーっ、美味しい! これこれ」

「良かったな」





菜月があまりにも美味そうに食べるから、こちらも自然と微笑んでしまう。




「この醤油とにんにくが効き過ぎた味付けが最高だよねー、男の料理って感じで」

「…………」




いやそれ、ディスってるだろ間接的に……。




「まだ唐揚げ作ってあるから、遠慮せずに食って良いからな」

「遠慮なんてしないよー、だって今日はなんだってお兄ちゃんの都合で帰って来てるんだから!」

「俺の都合って、予定よりたった一日だけ早く帰るようにしただけじゃねぇか……」

「またまたぁ、そんなこと言って良いのお兄ちゃん? お友達のプレゼント選ぶの手伝ってあげないよ?」




そう言って菜月が意地の悪い微笑みを浮かべる。こうなるとは思っていたが、案の定調子に乗っているようだった。



「でもびっくりしたよー、お兄ちゃんからいきなりフォロワーのプレゼント買うから、一緒に選んでくれーなんて」

「こんな事を頼めるの菜月しか居ないんだから仕方ねぇだろ……」

「でもまぁ、私もインフルエンサー圭ちゃんの頼みなら満更でもないんだけどねー」

「ったく……」



菜月は大きく口を開けて唐揚げを頬張つつ、




「でも楽しみだなぁ、明日圭ちゃんと一緒に遊びに行けるだなんて!」

「別にいま目の前にいるのもある意味、圭だろ」

「違うよー、今目の前にいるのはただのお兄ちゃん。圭ちゃんはもっと可愛いもん」





そう、俺は菜月に南つばさへと渡す誕生日プレゼントを一緒に選んでもらうように依頼したのだ。明日はバイトも休みにして、圭の姿で菜月と買い物に行く。ちなみに本日は8月2日だが、バイト先に迷惑も掛けられないので、月初の処理は今日の勤務で全て終わらせてきた。準備は万端だ。





「てかさー、お兄ちゃんって彼女とか作らないのー?」

「なんだよいきなり……」





味噌汁をすすりながら、菜月がそう呟いた。





「え、だって夏休みだし。高二の夏って超大事じゃない? 一年後になったらもう受験でそんな雰囲気でもないだろうし、遊ばないのかなって」

「…………」




なんだよ、こいつも信道みてぇな事言ってんな……。もしかして、高二の夏を何も思ってない俺と南つばさだけが異端なのか……? 俺が何も言わないでいると菜月はニヤニヤと笑いながら、





「まぁ、確かに? 一番身近な異性であるこの私がアイドル級に可愛いのは分かるんだけどさ〜、やっぱり妹としては? いい加減お兄ちゃんにもちゃんと妹離れして恋人でも作って欲しいわけよー。お兄ちゃん女子受けする見た目なんだしさー」

「アイドル級に可愛い? いつもでかいいびきかいて寝てるのにか?」

「え待って、お兄ちゃん理想高っ! アイドルだっていびき位かくでしょ人間なんだから。あと、お兄ちゃんに言ってないだけで中学の時とか男子に人気だったから! 結構、告白とかされてたし」

「へー」




それは初耳だな。どうやら菜月も結構モテるらしい。あと、相変わらずリアクションがでけぇ……。




「でも告白されてなんで付き合わなかったんだ?」

「え、それは……」




菜月は箸を伸ばしたまま、止まった。




「好きじゃなかったから……」

「まぁ、そうか」

「あと、お兄ちゃんの方が良いって思ったし……」

「あっそ」

「照れてる?」

「全然」

「ねぇつまんなーい」




菜月が激しく首を振って悔しそうにする。その長い髪の毛が揺られ残り香が広がる。こいつのイジリも毎度ワンパターンだよなしかし……。

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