俺とつばさとお買い物③
怖っ……。なんで俺の小指のサイズ知ってんだよ……。いつの間に測ったんだ……。
「圭ちゃん、指は細いんだけど関節のところが張っててね、そう丁度あんたの手みたいな感じで。だから少し大きくなっちゃうの」
「……」
危ねぇ……。ヒヤッとした。とりあえず、怪しんではいないようだ。女の観察力って本当すげぇよな……。南つばさは吹っ切れたように、
「じゃあペアリング買いに行くわよ」
「おう」
南つばさは気が変わる事を恐れているのか、足早に街中を歩いていく。俺は追いかけながら、
「どこに行くか決めてんのかよ」
「laftよ」
「ふーん」
人並みをくぐり抜け、南つばさは目的地へと突き進んでいく。俺も早歩きしないと、離されてしまう早さだ。よく腹が痛くならねぇなこいつ。こんなに腹いっぱいなのによ……。こちとらこれ以上速度上げたら、胃の中にあるチャーシューが暴れ出しちまいそうなのに……。そんなことを思いつつ俺は必死で南つばさの背中を追いかける。そして、目的のビルの中へと入りエスカレーターに乗るとやっとこいつは止まってくれた。
「腹いてぇ……マジで」
「情け無いわねぇ……。あんたそれでも男?」
「今の時代そういうセリフはアウトだ」
「知らないわよ、そんなの」
「タフだなお前……」
「ふん、育ちが違うのよ。おつむの良さもね」
南つばさは勝ち誇ったように口角を上げてみせる。プライドが高いのか負けず嫌いなのか、何かにつけ張り合ってくるよなこいつ…….。エスカレーターを上がりフロアを少し歩くと、ジュエリー屋が見えた。この店だろう。店の前に着くと、南つばさはこちらへ振り返り黙って見つめてくるが、俺は何も反応せず見つめ返す。すると南つばさは意を決した様子で店員に、
「すみません、ピンキーリング見せてもらえませんか」
「はい、こちらになりますね」
南つばさが店員に連れられ奥のガラスケースに案内される。俺はなんとなく入りづらさを感じ、店の外で待っていると、
「ちょっと何してんの。あんたも来なさいよ」
こいつの呼び掛けに内心うんざりしつつ店内へと入ると店員の女性も微笑みつつ、
「どうぞ彼氏さんも一緒にご覧下さい。うちはカップル用のペアリングとかもありますよ」
すかさず南つばさは言った。
「彼、友達なんです」
「あらすみません……。仲良さそうだったので、てっきり彼氏さんかと」
「ふふ、違いますよ。女の子の友達とお揃いのピンキーリングを買おうと思ってて付き添ってもらったんです」
「そうなんですね」
店員はやや困惑していたが、すぐに切り替えた様子だ。つか友達ねぇ……絶対こいつ友達だとも思ってねぇだろ……。圭しか友達じゃないとか言ってたくせに、白々しい笑み浮かべやがって……。店員に案内されるとガラスケースの中には様々なデザインの指輪が飾られている。大体1万くらいか。
「最近ですと、この辺が人気ですね」
「そうなんですねー」
店員のセリフにかろうじて言葉は返すが、まるっきり聞いてねぇなこいつ……。ただただ腕を組んで真剣な表情で選んでやがる。するとこいつはいきなり俺の方を見てきて、
「ねぇあんた、これとこれどっちが圭ちゃん好きそう?」
「は? どれだよ」
「この列の奥のやつと手前の」
見ると片方は指輪の上半分にダイヤが散りばめられたデザインで、もう一つは指輪のてっぺんにのみ小さいダイヤが飾られたデザイン。正直指輪はあんまし興味ねぇんだよな……。でもまぁ自然な感じの方が、どんなコーディネートにも合いそうで無難か……。
「ダイヤが一つの方か」
「やっぱりそうよね」
「あぁ」
「よし……」
そして南つばさは唇を少し噛み締めた後、店員に向け、
「すみません、この指輪買います」
★☆★☆★☆★☆
「ありがとう、今日付き添ってくれて」
「別に、どうせ家にいるだけだったしな」
指輪を買い終えた南つばさは、お礼にコーヒーでも奢ると言うので俺はお言葉に甘えて現在、喫茶店で休んでいる。アイスコーヒーがかなり深煎りで俺好みだ。
「あんたもブラックなのね、圭ちゃんと一緒」
「お前は甘党だもんな」
「え、なんで知ってるの」
しまった……。俺は急いで言葉を探す。
「あぁ……その、えっと……圭から聞いた」
「へー、圭ちゃんあんたに私の話しとかしてるんだ」
「たまにな」
「ふーん」
こいつはコーヒーに口を付けつつ、不思議そうな顔で俺を見つめて、
「本当不思議ね、あんたと圭ちゃんの関係って」
「なんでだよ」
「だって普通の友達みたいじゃない」
「意味がわからん」
「友達っていうか距離感的にはむしろ家族みたいな」
「なんだそれ……」
「私、一人っ子だから兄妹とか分からないけど、多分そんな感じの間柄に見える」
「お前が思ってるほど仲良くもねぇよ」
「どうかしらね」
まだ何か言いたげではあったが、南つばさは視線を落とし、指輪の入った紙袋を漁っている。俺は何気なく、
「良かったな、ちゃんと在庫があって」
「そうね」
同じデザインのサイズが異なる二つの指輪。さっきこいつが買った代物だ。一つは圭へのプレゼントであり、もう一つは南つばさ自身が付ける物。
「もう着けちゃお」
「おいおい」
南つばさは嬉しそうな様子で、買った指輪を小指に着けた。そして珍しく、無邪気に自分の指先を見ている。そのいつもの強気な瞳が純朴な色に染まる。
「ふふ、可愛い」
「……」
俺は何故か少しだけ恥ずかしくなり、視線を逸らした。すると突然、
「あーっ!」
「なんだよ……」
「あんた今私の事を可愛いって思ったでしょ!」
「お……思ってねぇよ」
南つばさは眉間にシワを寄せて、俺を詰める。




