俺とつばさとお買い物①
土日祝は10時頃に投稿致します!
なので、明日も10時頃に投稿します!
南つばさからの淡白な返信に、もしかしたら今日の誘いは断っても良かったのではないかと思ってしまう。理由は単純だ。俺は一昨日も昨日もバイトであいつに会っているからだ。俺が圭であり恭二である以上、今は男の姿をしているから、多少は自分を偽らなくて良くなるぐらいだろう。あいつと接する事自体は何も変わらない。あいつにとっては俺と会う事は場合によっては新鮮かも知れないが 、一方こちらは3日連続ともあり、さすがに新鮮さのかけらもない。
「待たせたわね」
声の方向に振り向くと、南つばさがいた。学校とは異なり、そのボブカットをワックスでクセを付けて散らしている。ピンクのブラウスに白黒のチェックスカートと黒い短靴。圭の時に会う姿とオシャレさは変わらない。違いと言えば会った時に笑ってないくらいか。しかしその膨らんだ胸といい、相変わらずのスタイルの良さである。
「俺もさっき来た所だ」
「そう、じゃあ行くわよ」
南つばさは、すぐに歩き出す。なんだこいつ……ぶっきらぼうだな……。俺はその背中を追い、
「おい、どこに行くんだよ」
「せっかくあんたがいる事だし、前から行きたかった所、行こうと思って」
「はぁ? なんだそれ? 買い物じゃねぇのかよ」
「もちろん後で行くわよ、てかあんた言った通り昼食べてきてないわよね?」
「あぁ」
南つばさが勝手にセンター街の方へ歩いて行く為に、俺も仕方なくついていく。ヒールのカツカツとした音を辺りに響かせながら、この女は人波を進んでいく。
「ここよ」
「えここ?」
「ええ」
店の前の行列。目を引く黄色い看板に黒い文字。独特なあの匂い。俺が、言葉を発しようとした所、
「そう、二郎系……」
南つばさが恥ずかしそうに呟いた。まぁ、確かに……。女だけじゃここは無理か……。並んでる客もほとんどが男性だ。俺たちは列の最後尾へと並ぶ。
「なるほど、ここは女だけじゃこれねぇな……」
「そうなのよ、つぶやきくんとかエンスタで見る度に羨ましくてね」
「羨ましいって食べたいって事か?」
「当たり前じゃない」
「変わってんなお前……見てみろ並んでる人みんな男だぞ」
「良いじゃない別に、私の勝手でしょ」
そう言って南つばさは恥ずかしそうに顔を逸らした。変わってんな……本当……。別にこのまま会話せずとも良かったのだが、とはいえ俺は今日の趣旨を知りたかった為、
「で、なんで今日俺を誘ったんだ」
「あぁ、そうね。あれよ、圭ちゃんへの誕生日プレゼント」
「誕生日プレゼント……」
あぁ……そっかそういや俺、あとちょいで誕生日だったな。すっかり忘れてた。別に変に気を使わなくたって良いのにな。
「私だけで選んでも良いと思ったんだけど、ほら圭ちゃん、ゲームとかもやるみたいじゃない。私ゲームは疎いし、正直決めかねてるのよね」
「決めかねてるって?」
「何をあげたら良いのかを」
「別に好きな物をあげたら良いじゃねぇか」
「せっかくの誕生日プレゼントだし、絶対喜ばせたいじゃない。私誕生日プレゼントなんて人にあげた事ないから、分からなくて」
「俺だってあげた事ねぇよ」
南つばさは少し驚いたような素振りで、
「え? あんたあげた事ないの? 使えないわね」
「えらい言いようだな、お前も一緒だろ。つか男同士はそんなことあんまりしねぇよ」
「ふーん」
行列が捌かれ俺たちも成り行きで進んでいく。俺はスマホをいじりながら、
「それに誕生日プレゼントなんて別にあげなくても、圭の性格上、なんにも気にしないと思うけどな」
「いやよ。せっかく初めて出来た友達なんだから、それくらいはしたいわ。それにもし私の誕生日の時に、圭ちゃんがプレゼントをくれたらどうするのよ」
「…………」
あれ、待てよ。こいつの誕生日って……。俺はスマホでつぶやきくんアプリを開き、圭アカウントでゆちゃんのプロフィールを覗く。すると誕生日は八月五日と表示されていた。そうだ思い出した。絡んだ当初、同い年で誕生日も一日違いだってやり取りしたんだった。やべぇな……こいつが準備してる以上、俺もなんか用意しないと……。
「何が良いのかしらね、本当。ここ最近、悩み過ぎて不眠症気味よ」
「考えすぎだろ、ぶっちゃけ何あげてもあいつは喜ぶだろ」
「そこなのよ。圭ちゃんはあんたと違って優しいから、喜んでくれるとは思うけど、ちゃんと本心から喜ばせたいの。初めて出来た友達だし……」
そこまで考えてたのかよこいつ……。なんか聞いてるこっちが小っ恥ずかしくなってくるな……。いや嬉しいんだけどさ……。しかしこりゃ俺もちゃんとした物渡さないと……。帰ったら菜月に相談するか……。
「つかちなみに予算は?」
「予算? え分かんない。みんなプレゼントってどのくらいのもの上げてるの? 5万くらい?」
「んなわけねぇだろ……。どんな世界に生きてんだよお前。5000円位で十分だ」
勘弁してくれよ、お前は良くても5万とか俺のお財布が死んじまうわ……。こんな所で無駄に社長令嬢っぷり発揮してくんじゃねぇよ……。
「わ……悪かったわね。知らなくて……」
「早速、俺がいて良かったな。もし本当に5万のプレゼントを渡してたら、圭のやつドン引きしてたぞ」
「…………」
少しからかうつもりで言った言葉ではあったが、南つばさは予想以上に受け止めてるようだった。
「あんたって、本当に圭ちゃんと仲良さそうよね……。圭ちゃんと話ししてても感じるけど、いつもお互いの性格を見通してるもの」
「またそれか。付き合いが長くなれば多少は相手の事なんて分かってくるだろ」
「ふーん……」
「あと、普通に考えて同級生から5万円の物を貰ったら引くだろ。頑張り過ぎてて」
「そうなのね」
南つばさは髪を手櫛で整える。何か考えてる時によくやるこいつの癖だ。それにしても圭の事を見通してるねぇ……。本当は見通してるも何も無いんだけどな……。俺の心のままを言ってるだけで。逆に言えば、こいつがそうやって圭の事を喜ばせようと頑張ってくれてる時点で、俺にとってはもう十分なんだが勿論、それはこいつには分からない事か。そして、どちらとも特段話をする事なく、俺たちは食券を買い店内に入った。
「狭いわね」
「そうか?」
南つばさが少し嫌そうな顔を浮かべる。俺は席に着く前に取ってきてた水を南つばさにも渡した。
「あ、ありがと……」
「狭いからな、こうやって席に着く前に水は取りに行くんだ」
「なるほどね」
南つばさは、真剣な表情でうなづいている。それがやや滑稽で面白い。そして、俺たちの元に店主がやってきて南つばさに向け、
「にんにく入れますか?」
「え、にんにく?」
店主の問い掛けに焦ったような恥ずかしそうな素振りで俺を見る。あれ? こいつもしかしてコール知らない人か?




