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初出勤!②

「えっとその……ゆちゃん……後藤さんって?」

「あごめんごめん。そうだよね、みんなの紹介もしないとね」




俺の苦笑いに南つばさは楽しそうにして、




「圭ちゃんのそっち隣にいるのが事務の恵理子さん。圭ちゃんの仕事をチェックする人だよ」




すると、恵理子さんは恐る恐る俺を見て会釈してくる。俺も会釈を返して、




「宜しくお願いします」

「…………」




返事はなかった。まぁ徐々に仲良くなっていくだろう。南つばさはその様子に苦笑いを浮かべて、




「で、恵理子さんの向こう隣にいるのが、部長の後藤さん」




40代位の真面目そうなサラリーマンだ。無表情でPCに向き合っており、なんだか少し怖そう。俺の気持ちを読んだのか南つばさは、




「少し怖そうだけど、優しい人だよ」

「うん」

「聞きづらい事があれば……私に……聞いて……そしたら……間に入ります……」




いきなり聞こえてきた声に俺は少しだけ驚いてしまった。恵理子さんが急に割り入ってきたのだ。思いの外、高い声が予想外だったが、俺をフォローしようとしてるのだろう。俺はすかさず、





「ありがとうございます。恵理子さん」

「…………」





反応はないがこれで良いのだろう。南つばさも謎にうんうんと頷きながら続けて、





「あっちの机の島は営業さん達だよ。さっき話した楓さんも営業さんなんだ」

「そうなんだ」





そうだろうとは思ったが、案の定楓さんは営業だった。今も電話で誰かと話しており、その姿が溌剌としててかっこいいし可愛い。すると南つばさは辺りを見渡して、




「あれ、もうひとり三上さんって男の人も今日はいたんだけどーー」

「ここにいるよ、つばさちゃん」





コーヒー片手に現れた、短髪イケメン。信道みたいに髪をワックスでガチガチに固めている。ネクタイもキラキラしており、かなり高そうだ。その姿を見た南つばさは露骨に冷めた顔付きで、





「そう、この人が同じく営業の三上さん。圭ちゃん気を付けてね。この人、チャラいから」

「おっと、いきなり厳しいねーつばさちゃん」

「三上さん。前もって言っておきますけど、圭ちゃんに連絡先とか聞いちゃだめですからね」

「いくら俺でも、高校生には手は出さないよ。相変わらず、社長に似てお堅いねぇつばさちゃん」

「渋谷で思いっきり私にナンパしてきたじゃないですか」

「だからあれは事故だって。俺もびっくりしたんだから。よく見たらつばさちゃんでさ」

「あー良いです良いですそれ以上は。分かってるんだったら」

「つれないねー」



露骨に絡むなオーラを出す、南つばさ。こいつ会社の人にもこんな感じでいくのかよ……。さすがに失礼な気もするが、なんかあったぽいし何も言えねぇなこれ。でもこの男の人もめっちゃ仕事出来そうだ。俺は会釈しつつ三上さんに、





「宜しくお願いします……」

「こちらこそ宜しくね、圭さん」





にっこりと慣れた笑顔で返される。チャラいのは分かるけど、良い人そうだ。俺も釣られて三上さんに微笑みを返すと南つばさが少し嫌そうな顔を浮かべる。





「ほらほら圭ちゃん、無闇に愛想振りまかないで。みんなの紹介も終わったし、次はパソコンの使い方だよ」

「う……うん」




★☆★☆★☆★





「そう、これでさっき作った上申書に営業さんが出してくる帳票を一緒に添付して、恵理子さんに提出するの」

「なるほど……」

「そんなに難しくないでしょ?」

「なんとなく分かってきた」

「さすが圭ちゃん!」




南つばさに、仕事を教わっていたらいつの間にか夕方になっていた。昼過ぎには南つばさの母親も事務所に戻ってきた為、二人して隣の会議室で諸々の手続きを、正体がバレずに済ます事が出来た。加えて業務の方も、南つばさがかなり丁寧に教えてくれる為、初日から割と内容を理解する事が出来た。やっぱり学年テスト一位は伊達じゃねぇな。マジで教えるのうめぇよこいつ……。





「圭ちゃん、どう? つばさの教え方は?」





ノートに教えてもらった事をまとめていたところ、会議室から出てきた南つばさの母親に話しかけられた。





「ゆちゃ……つばさちゃん、頭良いから分かりやすいです……」

「あらそうなの? この子頭良いのね」

「ちょっとママ、私いつもテストの結果見せてるじゃん」




南つばさがいじられて少しだけ語気を強める。しかし社長は全く気にした様子もなく、




「テストだけじゃ分からないじゃない。もちろんテストも大事だけどね」

「また始まった……ママの意地悪タイム」

「本当の事よ」





南つばさがどこか恥ずかしそうな表情で俺の事をちらっと見てはバツの悪そうな顔をする。はは……。南つばさがいじられてる姿はなんだか新鮮だな。その後社長は俺を見て、





「そうだ圭ちゃん、つばさと相談して帰りにでも明日から来週までのシフトを教えて頂戴」

「はい」





南つばさは俺の方を見る。




「どうする圭ちゃん」




水曜日は男の姿でこいつと買い物だから空けとくとして、玉井の件もまだ連絡ないからなぁ。とりあえず、





「水曜日は……用事があるから水曜以外なら……」

「オッケー!」





南つばさは楽しそうに微笑む。艶々なボブカットが揺れる。さっき社長と話した感じでは、月初は締めの関係でなるべく出て欲しいと言われたが、今週はまだ7月だから、いいはずだ。しかし、時給1600円はやっぱり熱いな。社長は夏休み以降でも、繁忙期なら土日も仕事してるから相談してって言ってたし、夏休み後も空いてる時はこうしてバイトするのもありかもしれない。そして、横を見ると南つばさが楽しそうに笑っている。




「じゃあ圭ちゃん今日はあと、この申請だけ処理しておわりにしよっか!」

「うん!」



こいつの笑顔に俺もなんだか釣られて微笑み、再度書類に目を向けた。





★☆★☆★☆★




「あっちぃ……」



うだるような暑さが渋谷の駅を覆っている。夏休みが始まり数日ほど経った。今日も都内は晴天で完全な夏日だ。女装の時に暑さが大敵であるのは勿論だが、こうして普段の男の格好をしてる今でも、うんざりする事は変わらない。ましてや、また今からあいつに会うのかと思うと余計にうんざりする。約束の時間になり、スマホを見ると丁度メールがきた。




『もう着いた?』

『TATUYA前にいる』

『了解』




南つばさからの淡白な返信に、もしかしたら今日の誘いは断っても良かったのではないかと思ってしまう。



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