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終業式①

「あはは圭ちゃん、可愛い」




南つばさが笑顔で俺を見つめる。その大きく強気な瞳が優しさに染まる。危ねぇ、なんとかやり過ごせたようだ。しかし最近イジられ気味だな。まぁこいつが楽しそうにしてるんならそれで良いけどさ。つか腹減ったなぁ、俺はスマホの画面で時間を確認する。いつもならもう飯食ってる時間だ。こいつには悪いがもう帰るか。変に残って夜飯ってなっても迷惑になるし。




「ゆちゃん……私そろそろ……」

「あっ、うん」





南つばさがそっと俺の体から離れていく。なぜだか一安心してる自分がいる。てかこいつ全体的に近いんだよな、女同士ってのはこういう距離感なのか? 男なのを隠しているせいか、身体が触れる度に罪悪感のような心地が脳裏を巡ってしまう。いやでも確かに、思い返すと菜月の奴なんかはいつも会う度に真夏に抱き付いてるな。そういうもんなのか。そして俺はベッドから立ち上がり、




「ありがとゆちゃん。また来週ね」

「駅まで送ってくよ」

「ううん大丈夫」

「帰り道ナンパされてもちゃんと無視しないとダメだよ」

「うん、目線合わせないようにする。あと早歩き」

「絡んでくるなオーラも出さないと」

「あぁ確かに」




俺が反応すると、南つばさは微笑みつつ乱れた髪を手櫛で整える。そして俺たちは部屋を出て下へと降り、見送られながら玄関で靴を履いてる最中、南つばさの母親も気付いたのか顔を出してきた。




「今日はありがとうね、圭ちゃん。今後ともこの子をよろしく」

「こちらこそありがとうございました。来週からよろしくお願いします」

「ふふ」




南つばさの母親が上品な笑みを浮かべる。続けて隣にいた南つばさが手を振りながら、




「またね、圭ちゃん」

「うんまたね。ゆちゃん」




そして俺は、南家を後にした。



★☆★☆★☆★



今日は待ちに待った終業式。朝の澄んだ陽気が差込んだ廊下もいつもと違い、みんなの浮ついた様子が見て取れる。そりゃそうだよな。明日から夏休みが始まるのだから。俺も今日だけは少しだけ教室に向かう足取りが軽い。



「おっーす! おはよ恭二!」

「おう、信道。おはよ」




教室へと向かう中、信道と合流した。




「いやぁ兄弟、やっと今日で終わるな」

「終わるっても1学期目だけどな」

「恭二は夏休み何すんの?」

「バイトと適当に遊ぶ、それと」

「それと?」

「文化祭の準備」

「は? 文化祭?」





信道の驚きをいなしつつ、俺は教室へと入り、自席へと着く。前の席の信道も着席しすぐさま俺の方へと振り返り、




「いやいやどうした恭二、俺の知ってるお前は日本で一番文化祭に興味なかった男だぞ!」

「文化祭なんて興味ねぇよ、あいつだよあいつ」




俺は視線にて楽しそうにクラスメイトと話す玉井の方を指し示す。すると信道はすぐに察したようで、





「玉井ちゃんか」

「あぁ」

「ついにか……」

「は?」

「ついに恭二も、女に興味が出てきたんだな! 確かに性格はキツいけど、玉井ちゃんはうちのクラスではかなりの上玉だし応援するぞ!」

「ちげぇよ! あいつに文化祭の手伝いをお願いされたんだよ」





信道は輝かせていた瞳を一転、冷めた態度で、




「なんだよ、つまんねぇな。つかそんなの断れば良いじゃん」

「まぁ、そうなんだけどさ……」

「相変わらずお前は断り下手だな、はは」

「うっせーな……」

「それとも実は、玉井ちゃんとワンチャン狙ってんの?」

「狙ってねぇよ、お前じゃあるまいし」

「恭二ならイケるかもよ、お前妙に玉井ちゃんと仲良いじゃん」





俺をいじれると見たら信道の顔がすぐさま笑みに染まる。加えてこいつのセットした髪の毛が朝日に反射して余計に鬱陶しい。





「別に仲良くねぇよ。1年の時も同じクラスだっただけだ」

「これはついに、恭二にも青春をさせてやろうっていう神様からの思し召しか!? 文化祭の準備から恋仲になるって青春の黄金パターンじゃねぇか!」

「人の話を聞けっての」

「つれねぇなぁ恭二。俺は良いと思うぜ玉井ちゃん」

「そんなつもりねぇよ」

「人生一度きりの高ニの夏を俺とのモンキルだけで終わらせて良いのか!? もっと甘酸っぱく生きろよ兄弟! 理想を掲げろ! 例えばつばさちゃんとデートするとか!」

「それはお前の理想だろ」



甘酸っぱく生きろとか、なんか気持ち悪いなこいつ。なんだ甘酸っぱくって……。俺は信道をやり過ごしつつ、何となく玉井の方を見る。相変わらずのきっちりとした制服の着こなしとセミロングな髪を緩く結ったサイドの三つ編み。普段の正義感をはらんだ強気な瞳とは一転、楽しそうな笑顔でクラスメイトと話している。すると、視線に気付いたのか、ふいにこちらを見てきた為に俺は慌てて視線を逸らして、





「つーか信道お前だって、偉そうな事言う割には彼女いねぇじゃん。一度きりの高ニの夏を俺とのモンキルだけで終わらせて良いのかよ」

「いやさ兄弟……。言っても俺、ついこないだ圭ちゃんへの気持ちを諦めたばかりだから、その追求はキツイぜ……」

「あぁ……そうだったな」





しまった。掘り起こしちまった。しかし流石にあれは少し可哀想だったよな……。なんか俺も騙してるような気もするし。俺が困っていると信道は、



「まあでも、縁がなかったと思って次に行くしかないからな! バイト仲間からの紹介の話もあるし! 俺も今年の夏は動くぜ」

「そうだな」




会話を打ち切る様にホームルームのチャイムが鳴り響く。信道は微笑みながら大きく伸びをして体を教卓の方へと向ける。前向きだよなぁこいつは本当に、俺も少しはこの精神力の強さを見習った方が良いのかもしれない。思い返せばこいつのこのポジティブさに何回も助けられてる気もするし。しかしそれにしても人生一度きりの高ニの夏ねぇ……。担任がいつもの休み前の講釈を垂れている中、改めて信道の言う一度きりの高二の夏を自分に当てはめて考えてはみたが、何もプランが思い浮かばなかった。




「甘酸っぱい……か……」




なんだそれ……。だっせ……。

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