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ドキドキワクワクのオフ会②


「じゃあな、恭二! また来週!」

「おう!」


ホームルームが終わり、真っ先に信道が教室を抜けていく。金曜日だからバイトでも入ってるのだろうか。窓の外を見るとまだまだ陽は高い。うわ〜暑そう……。俺はブレザーの襟元を緩めつつ、バッグを背負い教室を出る。



「ねぇ、明日空いてるー?」

「ごめんっ明日はちょっと用事があるんだー」



廊下に出ると丁度、二人の女子の背後に付く形になった。抜かそうかとも思ったが、そんなに急いでる訳でもないため、俺はそのまま歩いていく。

聞くつもりもないのだけれど背後に居るからか多少は前の二人の会話が聞こえてしまう。



「なになに〜男関係?」

「残念、普通に女友達でした」

「ふーん、てか噂に聞いたんだけどサッカー部の林君に告られたんだって?」

「ちょっと咲、声大きい!」



前方の片割れが焦って俺の方を振り向く。あぁ……なんだ、こいつだったのか。学校のマドンナ、南つばさ。容姿端麗、天真爛漫、文武両道スタイル良し、胸はFカップ(信道情報)の完璧超人。クラスメイトの名前すら怪しい俺でもこいつは知っている、それくらいの有名人だ。そして信道の推しでもある。目が合うと、彼女は若干気まずそうにした。ゆるふわなボブカットに大きくやや強気な目元、スッとした鼻筋に陶器の様な白い肌。なるほど、これは確かに可愛い。着崩した制服のシャツとスカートもモテるオーラが出まくってる。彼女は俺から視線を外し、



「やめて咲、人がいる」

「別に大丈夫でしょ、それよりも教えてよー」

「言わない。絶対」



青春してんなぁ、マジで。美少女さんは住んでる世界が違うな。何となくこの場に居づらくなった俺は前の二人を追い越して、下駄箱へと急いだ。 



「南……つばさか……」



下駄箱へと急ぐ中、俺は思い返していた。何だったのだろうか。あの視線が重なった時の違和感は。冷たい視線だった。いや、冷たくもない、なんだあの目は。なぜ俺はこう感じてしまったのかも分からない。しかしあえて例えるなら、どうでも良い、そんな感情が透けて見えてしまった。まぁ、確かに俺みたいな虫ケラ男子のひとりに対してはそんな視線を向けてしまうのかも知れない。けれどもあれはもっと……。



「…………」




南つばさ……あんまり深く関わらない方が良さそうだな。まぁ、俺みたいなモブ男子のひとりがあいつと絡む事も無いとは思うけど。それよりも、明日のオフ会だ。廊下の窓越しに外を見ると西日がチラチラと視線に入り込む。日焼け止め対策、頑張らないとな。




★☆★☆★☆★☆★




『交差点のTATUYAに13時待ち合わせで良いんだったよね?』

『うん!』


つぶやき君でゆちゃんから来たメッセージに俺は返信した。ついにこの日が来てしまった。もう後戻りは出来ない。俺「蒼井恭二」は今から私「圭ちゃん」として現実世界と繋がりを持つのだ。



準備は万端だ。お気に入りのウィッグを被って耳下の低い位置にリボンで結んだツインテール、結んだ先の髪の毛はコテで少しうねりを持たせた後、ワックスで束感を整える。服は圭ちゃんとしてよく上げてるふりふりの黒トップスと、チェックのミニスカート。日焼け対策もしたメイクもバッチリで目にはいつもの黒カラコンも入れた。どこからどう見ても、量産型JKだ。大丈夫、自信を持て俺。俺は女だ。昨晩しっかり毛も剃った。すねを見ても毛は見当たらない。まぁ元々体毛は薄い方なんだけど。うん大丈夫、イケる。



そして俺はバッグを持ち、自室を出て玄関へと向かう。そして、厚底のパンプスを履き、最後に鏡で全身を見る。前髪は決まってるか、髪にほこりは付いてないか。控えめな胸パットはズレないか。胸元のリボンは曲がってないか。うん、全て大丈夫だ、行こう。もうどうにでもなれ、ばれてしまったら裏アカを削除すればいいだけの話だ。深く一度深呼吸をする。そして俺は家の外(現実世界)へと飛び出した。



☆★☆★☆★




『次は〜渋谷〜渋谷〜』


電車のアナウンスが聞こえる。道中や車内で奇異な視線を向けられないか不安だったが、存外そんな目を向けてくる人などいなかった。時刻を確認するともう約束の13時にほど近い。もうゆちゃんは着いてるのだろうか。ちなみに俺はこう見えて、ゆちゃんの顔を知らない。ゆちゃんはフォロワーだし勿論、上げてる写真で俺の顔は知っているだろうが、ゆちゃん自身はいつも写真を上げる際、顔を頑なにスタンプなどで隠しているから分からないのだ。



そして、電車から降りると同時につぶやき君の通知が来た。ゆちゃんからだ。



『TATSUYA前に到着!』


メッセージの後にすぐゆちゃんから首から下の写真が送られてきた。同じく量産型JKが好みそうな、薄いピンクのショートワンピースだ。ウエストを黒いリボンで絞っており可愛い。てかこれ、俺の好きなブランド「ink」の新作じゃね。襟元のふりふりも良いな。俺はすぐに返信する。


『今駅着いた! ワンピ可愛い!』

『待ってまーす!』



人の流れにあわせて、改札を抜けると一気に緊張が高まってくる。俺はバッグからペットボトルのお茶を取り出して一口飲む。駅から出ると強烈な日差しが頬を刺す。大丈夫かな、俺汗かきやすいんだよなぁ。化粧が崩れないか心配だ。改札を抜けた駅前広場にはいつも通りかなりの若者が集まっている。広場のカメラクルーもインタビューする相手を探している。俺はそそくさと広場を抜けて、交差点前で信号待ちをする。喧騒の中、周りからの変な視線は感じない。今のところは誰にも男だとバレていない。この交差点の向こうがゆちゃんとの待ち合わせの場所だ。



「私は圭ちゃん……」



信号が青に変わる。周囲の人間が一斉に交差点を渡っていく。俺も流れに沿って交差点を渡っていく。風で前髪が崩れないように額を抑えつつ、何度も渡っているはずのこの交差点がやけに長く感じる。じりじりと高すぎる夏の日差しが肌を焼く。実際にパンプスを履いて歩くのなんて初めてだから、もう小指が痛い。けれどもこれも女の子になったみたいで不思議と充足感があった。交差点を渡り切り、TATSUYA前に行くも、ゆちゃんらしい人は見つけられない。俺はスマホを出して、メッセージを打つ。その刹那だった。



「圭ちゃん……?」



俺は声の方へと振り向く。


「え?」



貰った画像通りの淡いピンクのショートワンピと可愛らしい黒の艶めいたパンプス。いや、最早そんな事はどうでも良い。俺を覗き込むこの少女を見て、俺は一気に頭の中が真っ白になった。



ゆちゃんが、あの学校のマドンナたる「南つばさ」だったのだー

今日中にもう1話上げます。

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