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バイトの面接!④

「適当にくつろいでて、私またコーヒー淹れてくる!」

「ゆちゃん良いよ……そんなに気を遣わなくてもさ……」

「ううん、今日は圭ちゃんをおもてなしするって決めてたから大丈夫!」




と、そう言って俺の話も聞かずに南つばさは部屋を出ていく。そして一人になった俺は彼女の部屋を何となく見渡した。薄荷のような良い匂いが部屋中に満ちてはいるが、想像と違いかなり無機質な部屋だ。机と椅子、壁には小さなテレビ、そしてベッドと、無機質さでは俺の部屋と大差はない。ずっと立っているのもあれなので、俺はベッドの端に腰を下ろす。南つばさのベッドか……信道からしたらたまんねぇだろうなこれ。携帯で時間を確認したら19時を少し回った程度だ。面接で疲れたので正直もう帰りたいが、あいつのおもてなしも無碍には出来ないか。なんて事を考えつつ一休みしていたら、階下から音が聞こえてきて、




「お待たせー、圭ちゃん」

「ありがとう……」



お盆にはコーヒーとお菓子。この時間から甘い物食いたくねぇな、南つばさはコーヒーを机の上に置いて、




「ここに置いておくね」

「うん、ありがとゆちゃん」




南つばさはにっこりとした様子で、ベッドの端にいる俺の隣に座って、





「やばい、圭ちゃんが私の部屋にいる。凄い不思議な感じ」

「あはは。ゆちゃんのベッドに勝手に座っちゃった。すごいふかふか」

「寝ても良いよ」

「ううん、それはさすがに……」

「はは、でもさこうやって二人でいるとなんだか家族になったみたいだよね」




微笑みながら話す南つばさに、俺は何の気なしに思い出した。




「あーそっか、ゆちゃんは一人っ子だもんね」

「そうそう」

「ゆちゃんからしたら妹が出来た感じだ」

「ん〜姉かな?」

「え意外〜、妹的な感じで見てると思った」

「だって私、圭ちゃんには結構甘えてるもん」




そう言って、南つばさは俺の肩に頭を乗せた。淡いシャンプーの匂いが鼻を抜ける。俺は内心またかと思いつつ、




「あっ甘えん坊さんだ」

「圭ちゃんといると安心する」




そう言って南つばさは身体を俺の方へと向けて、おもむろに強く抱きついて来る。併せて、容赦ないその胸の膨らみが俺の腕へと当てられる。




「ゆちゃん……暑い……。汗かいてるから恥ずかしい……」

「えー、良いじゃんもう少しだけこのままが良い」




南つばさの柔らかな身体の感触に息が上がりそうになるのを堪える。女ってなんでこんなに身体が柔らけえんだよ。




「圭ちゃん今度うちに泊まりに来なよ」

「え、お泊まり?」

「うん、いや?」

「いやじゃないけど……」




泊まり……。いや、すっぴん見せたらバレるよな、さすがに……。ウィッグとアイプチだけでもいけるか? いや無理だな絶対……。つか、さすがに男だしそれはやっちゃいけないような気がする……。少し間が空いた為か、南つばさが不安げに俺を見つめる。





「お泊まりは……多分パパにダメって言われると思う……」

「そこら辺は厳しいんだね」

「うん……」

「じゃあ終電まで一緒にいるのは?」

「補導されちゃうよ〜」

「あはは」




南つばさの笑い声の揺れが体越しに伝わる。つかマジで近けぇ……。肩口を覗き込むと南つばさの無防備な頭が見える。



「てかさ、圭ちゃん」

「うん」

「私、また男子に告白されちゃった」

「え」




いきなりの話でびっくりしてしまった。とはいえ学校でのこいつの人気を考えれば当然か。




「なんか疲れるよね、本当」

「あはは……相手はどんな人なの?」

「一つ上の先輩。かっこいいから人気はあると思う」




南つばさの声色からして、嫌な出来事だったのだろうとは容易く想像がついた。





「断ったんだ」

「うん」

「疲れた?」

「超疲れた。頑張って告られないように立ち回ってたんだけど結局きたかって、この感じ圭ちゃんも分かるでしょ?」

「うーん……私は男の子に告白された事ないから」




ただ、こいつの抱えてる辛さは何となく想像が付いた。最近俺もつぶやき君の圭ちゃんアカウントで、男女問わず何人かのフォロワーに付き纏われており、疲れる事も多いがそれと同じ類だろう。ただ、こいつの場合は学校生活だからな。余計に大変だろう。




「嫌味だなって思ってる?」

「そんな事思わないよ。ゆちゃんが私以外にこういう話をしない事分かってるから」

「圭ちゃん大好き……」






南つばさ。学校での華やかなイメージしか、印象になかったがやはり人気者は人気者としての面倒事があるのだろう。俺がいない間、こいつは誰にもこの辛さを相談出来ず一人で抱え込んでいたのだろうか。学校では変わらず周りに笑顔を振り撒きながら。少しだけ気の毒に思えた俺は、肩に見えるこいつの頭を撫でながら、



「偉いね、頑張ったね」

「え嬉しいそれ。続けて」

「よしよし」

「優しいね、圭ちゃん」

「今日は特別」

「えー」




そして互いに自然と言葉が無くなった。聞こえるのはエアコンの風の音のみだ。俺はやめ時が分からず、あてもなく南つばさの頭を撫で続ける。




「圭ちゃんさ、最近蒼井と遊んだりしてるの?」

「蒼井君とは元々そんなに遊んだりはしないよ」

「そうなんだね」



少し間が空いた後、南つばさは続けて、




「蒼井ってさぁ、不思議な奴だよね」

「そうかな」




頭を撫でる手を俺は止める。結構手が疲れた。




「ねぇ圭ちゃん。今度さ蒼井も含めて三人で遊びに行こうよ」

「え」




いやいや……絶対不可能な事を言ってきやがったこいつ。それだけは無理なんだよどうしても、というか物理的に。くそどう答える……。頭がまわんねぇ……。



「どうしたの圭ちゃん」

「え、えと……うん」

「やっぱり蒼井とは二人きりで遊びたい?」

「ううん、全然そんな事はないんだけど……その……」

「うん」

「えっと……その……蒼井君が私と遊ぶの嫌かも知れないし、嫌がるかも……的な……」

「えそうなの」

「だから……全然……ゆちゃんと蒼井君で遊んでくれたら良いよ……。変に私に気を遣わなくて良いからさ」

「ケンカ中?」

「ケンカはしてないんだけど……うん……」



南つばさが不思議な顔で俺を見つめる。俺は頭を回転させ、なんとか言い訳を探す。




「それに……ゆちゃんには蒼井君ともっと仲良くなって欲しいから……」

「うん」

「二人で遊んだ方が蒼井君と仲良くなれると思うし……」

「仲良く……か。仲良くしたいのかな私は」

「違うの?」

「うーん。仲良くしたいんだと思う」

「え? ねぇ振り回さないで〜」

「あはは圭ちゃん、可愛い」




南つばさが笑顔で俺を見つめる。その大きく強気な瞳が優しさに染まる。危ねぇ、なんとかやり過ごせたようだ。しかし最近イジられ気味だな。

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