バイトの面接!③
あの話、本気だったのか……。
「そう、そっちの方が聞きやすいし良いと思って、それとも嫌?」
「そ……そんな事はありませんっ……」
「ふふ……可愛い……」
「でもつばさちゃんの迷惑になっちゃいませんか?」
「良いのよ別に、つばさだって喜んでるし、それにそうでもしないと、どうせあの子夏休みはずっと家にいるだけなんだし」
「良いんですかね……」
目線を外して南つばさの母親は少し呆れた様子で、
「いつも言ってるんだけどね、別に彼氏でも作って派手に遊んでも良いのよって。けれどあの子、ちっともそんな気配もないから本当に大丈夫かしら」
「つばさちゃんは、興味ない人とは関わらないのだと思います……」
「そうなら良いんだけどね、ほらあの子って妙に男嫌いな所あるじゃない」
「そうですね……」
「私が女手一つで育てちゃったからか、そういう所も関係してるのかしら」
「…………」
「変にこじらせて無ければ良いんだけど」
妙な間が空いた。すると、南つばさの母親が苦笑した様子で、
「ごめんなさい。話が脱線しちゃったわね、とりあえず面接した感じ問題ないと判断したから、採用します」
「あ、ありがとうございます」
「なので次回は事務所の方に来てくれるかしら。ここから歩いてすぐの所なんだけど、場所はつばさに教えてもらって」
「はい」
「それと、身分の確認として住民票も持ってきて頂戴。分からなかったら親御さんに聞いてみて」
「はい」
って……え? 住民票?
「他、何か質問ある?」
「えっと……」
迂闊だった……。大失敗だ……。そうだよな……ちゃんとした所だとそういうの求めてくるよな……。どうしよう……。もう今更引き返せないし。くそ……。南つばさの母親が黙り込んだ俺を不思議そうに見つめる。俺は必死で頭を働かせるが、何も打開案が思い付かない。偽造でもするか? 出来るのか? いやそれこそ普通に犯罪だ。何かあった際にこの人にも迷惑を掛けてしまう恐れもある。あぁ……時給に惑わされず大人しく家の近所で働いておけばこんな事にはならなかったのに。バカな事したな……。こうしてても仕方ないか……。俺は仕方なく白状した。
「あの……実はひとつ嘘を付いてまして……」
「えっ……」
そして俺は地声で言った。
「すみません。本当は男なんです……」
「うそ……」
南つばさの母親は目を丸くしている。はぁ……これでゆちゃんとの関係も終わりか……。気まずくて、俺は視線を伏せる。こんな状況じゃ目を合わせられるわけもない。
「凄いわね……。女の子にしか見えない」
「すみません……」
「あの子はこの事知ってるの?」
「つばさちゃんには秘密にしてます……」
「そう……」
気まずい……。ダメだとは思いつつも、俺は何も言葉が思い浮かばず、この静寂に身を委ねる事しか出来ない。するといきなり、
「ふふふ……」
「え……」
「ごめんなさい、なんだか可笑しくて……」
「はぁ……」
「圭ちゃん? その、良かったらつばさとお友達になった経緯とか説明してもらえる?」
「分かりました……」
もうこうなったら、全て正直に話そう。南つばさの母親が、優しそうな微笑みをむけてくれた事に背中を押され俺は一通り説明した。つぶやき君の裏アカで女になりきっている事。その裏アカで仲良しだった子とオフ会をした事。オフ会の相手が偶然にも同じ学校で隣のクラスだった南つばさであった事。オフ会の際に俺と南つばさが意気投合した事。その全てを洗いざらい全て打ち明けた。
「という、流れなんです……」
「そんな偶然も世の中にはあるものなのねー」
「繰り返しになるんですけど……決して騙そうとかそんな事は考えてなくて、なんか……その……成り行きでこうなっちゃっただけで……本当すみません」
説明を終えると、南つばさの母親は感慨深い様子で頷いていた。俺は話し疲れてコーヒーに手を伸ばす。口に含んでも正直なんの味もしなかった。
「ありがとう、何となく状況は理解出来たわ」
「はい……」
「それにしても、こうして見ると本当に可愛らしいわね。つばさよりも全然可愛いし、ましてや男の子になんて絶対見えないわ」
「さすがにつばさちゃんの方が可愛いと思います……」
俺の返しに南つばさの母親は微笑み、
「ふふ、じゃあもう一度言うけれど、次回来る時はちゃんと住民票を持って来てね」
「え?」
「貴方の本当の姿がどうであれ、つばさは今の貴方が唯一の居場所なんだと思うの。私は親として、娘の居場所を奪うような事をするつもりはないわ」
「…………」
「細かい事は抜きとして今、あの子は圭ちゃんを好いている、これ間違ってる?」
「いや……」
「むしろ男の子なら、うちのふつつかな娘を貰ってやってよ、貴方なら大歓迎だわ」
「…………」
俺が反応に困っていると、南つばさの母親は微笑みつつテーブルに置いてあるコーヒーを口に含み、
「という訳で、この事はつばさには秘密にしておくわ」
「良いんですか」
「貴方はつばさを大切にしている。それが伝わったから」
「はぁ……」
「あと単純に可愛い子が職場に来てくれたら嬉しいじゃない、ふふ……」
「…………」
「じゃあ、これで話は終わり。来週からよろしく頼むわね」
そう言って南つばさの母親は立ち上がりリビングを出て行った。おそらくあいつを呼びに行ったのだろう。しかし終始、ペースを握られっぱなしだったな……。でも、女装の事を怒られたり、バラされたりされなくて良かった……。もしバレたら学校であいつと会うのも気まずくなっちまうからな……。南つばさの母親が優しい人で本当に救われた……。なんて事を考えていると、階段を下る足音が聞こえてきて、
「圭ちゃんお疲れ様!」
「うん……」
「はは、ちょっと疲れてるね」
「あはは……」
俺の返しに、南つばさは苦笑する。そして俺の腕を引き、
「リビングだとママもいるし、私の部屋で少し休んでいきなよ」
「う……うん……」
「ほらいこ!」
精神的にくたびれている中、南つばさが俺の腕を掴んで、リビングから連れ出し階段を上がっていく。先に上がるこいつの制服越しに見える張りのある尻が目の前で踊っており、俺はなんだか恥ずかしくて思わず顔を背ける。そして階段を上がりきると、南つばさの部屋へと案内される。




