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バイトの面接!①

そう、我らが3組の学級委員は良い奴でしかもわりと純粋で騙されやすい所がある為、良い意味でクラスメイトに舐められているのだ。これはいけると踏んだのか信道は、




「さすがに俺も、そんな事言われたら断れなくてさ……」

「なんだ川島……案外優しい所あるじゃん……」

「悪いな、玉井ちゃん」

「ううん。それなら仕方ないよ。私もごめんね強く言っちゃってさ……」

「良いって全然。じゃあ俺行くから」

「うん」



そう言って、信道は俺をも置いて駆け足でこの場を離れていく。ったく日直の仕事くらいやれよなあいつも……。どうせ帰りなんてゲーセンでも寄ってくぐらいなんだからよ……。置いていかれた俺は何の気なしに玉井を見てると、




「優しいね、川島」





そう言って、玉井はにっこりと俺に微笑みかける。艶やかな色素の薄い三つ編みと印象的な八重歯が夏の日差しに映えていた。俺は呆れ気味に、




「相変わらず幸せな奴だな……」

「なに? 蒼井君」

「一年の時から思ってたけど、お前は人を疑うって事をしないのか」

「なにそれ私だって人間なんだから、するに決まってるじゃん」

「さっきの信道のあれは」

「あれは本当でしょ?」

「…………」




我らが3組の学級委員。この通り超ピュアだ。まぁ去年も同じクラスだったから正直分かりきっていた事だが……。俺の皮肉にもさして気にしてない様子で、




「そういえば蒼井君。なに、他校の女子にアタックされてるんだって? 今朝それとなく聞こえてきたよ」

「されてねぇよ、ありゃ信道の妄言だ」

「え、そうなの?」

「少なくとも、俺はされた憶えがない」

「そうなんだ、良かった。片瀬さんに怒られずに済むね」



俺は辟易しつつ、



「お前も俺と真夏が付き合ってると思ってる派閥かよ……」

「え、違うの? クラスの女子はみんなそうだと思ってるよ」

「付き合ってねぇよ……」

「うそ……! だってよく片瀬さんうちのクラスに来るじゃん……。ずっとそうだと思ってた……」

「ただの幼馴染なだけだっての」




玉井が驚きつつ俺を見つめる。最近、南つばさとばかり接していたからか、こいつの胸元の大人しさについつい目が行ってしまったが、さすがに失礼かと思い俺は慌てて目を逸らす。




「じゃあ……蒼井君は今、誰とも付き合ってないんだ」

「見てわかるだろ……」

「ふーん」




と、妙に嬉しそうな声色で玉井が言いそして、



「蒼井君さ……夏休みって空いてるの?」

「なんか、意味深だな」




玉井は少し恥ずかしそうにしつつ、



「あのさ……文化祭の準備手伝って欲しんだけど……」

「やだよ、面倒くせぇし。俺があんまりそういうの好きじゃないの知ってるだろ」

「うん。だけど一年の頃から蒼井君は、頼まれたら断れない優しい人だってのも私はちゃんと知ってるもん」

「…………」



玉井はしてやったりの顔で俺を見つめる。逆光で頬が赤く染まっている。我らが学級委員……意外に侮れない。玉井は目を閉じ両手で拝みながら、




「ちゃんとお礼はするから! お願い! 男手が必要なんだってば!」

「…………」




くそ……。玉井の奴……。面倒くせぇ……。なんでわざわざ夏休みに学校に行かなきゃならねぇんだよ。しこたまバイトで金稼いでやる予定なのによ……。ただなぁ……。けれども確かに、こいつも普段から色々と大変そうなんだよな……。なんせこんな性格だから色々と抱えている仕事も多そうだし……。畜生……。俺は頭を掻きながら、




「仕方ねぇな……」

「やった! ありがとう蒼井君! やっぱり君は良い人だ!」

「めんどくせぇ……」



玉井が笑い、小さくガッツポーズする。その三つ編みが揺れて夕日に映える。漠然と昼休みに南つばさから言われたセリフが俺の頭の中で巡る。はは……確かに否定出来ねぇな……。あぁそうだ……。俺はもしかしたらお人好しなのかも知れない……。




「詳しい日時はまたメールするね、蒼井君」

「あぁ、早めに教えてくれると助かる」

「了解! じゃあまた明日ね!」



玉井は笑顔で俺に手を振った後、すぐに校舎へと戻っていく。そのチャームポイントな太い三つ編みを振るいながら。玉井の背中を眺めていると彼女の甘い柔軟剤の残り香が鼻をかすめた。


「はぁ……たくっ……」



なんか盛り沢山の月曜日だったな……。



★☆★☆★☆★☆



「緊張してきた……」



スマホで時刻を見ると18時半を示していた。学校を終えた俺は、圭の格好をして恵比寿駅に降り立っている。週の真ん中の水曜日ともあってか、夕暮れの恵比寿駅は仕事の終わったサラリーマンばかり。結局、時給の誘惑に負けた俺は昨日、ゆちゃん(南つばさ)にバイトさせて貰えるか相談してしまった。ゆちゃんはすぐに快諾し、早速今から社長たるゆちゃんの母親と面接する運びとなったのだ。



「大丈夫だよな……」



俺はスマホを鏡代わりに前髪といつものツインテを直し、服にゴミが付いてない事を確認する。ちなみに今日は薄手のブラウスにトップがボタンになっている茶色のショートワンピースを重ね着し、足元は黒の短靴だ。南つばさと改札前で待ち合わせのはずなのだが、まだ来ていないのだろうか。



「ねぇ、恵比寿で美味しい店知らない?」

「えっ」



視界の端から声がした為、俺は思わず顔を向けてしまう。見るといかにもナンパしてそうな大学生くらいの男だった。



「し……知らない」

「じゃあ良い感じなカフェは?」



話を続けようとしてくる為、俺は体を背ける。



「ちょちょちょちょ! 待ってよ」

「人待ってるんで……」



うざってぇな……。ただでさえ面接前で緊張してんのによ……。つーか、俺男だし。




「お姉さんセンス良さそうだから、色々教えてよ」

「いや……」

「じゃあさ、カレー屋は? 俺カレー超好きなんだよね」

「知らない……」



しつけぇ……。女っていつもこんなのをあしらってんのか……。俺は喋り続ける男から視線を逸らす。



「ちょっと何してんのよ」

「え」



聞き馴染みのある声。振り返ると制服姿の南つばさが居た。

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