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俺と信道と圭ちゃん①

俺の言葉に菜月はにっこりと笑う。



「あはは、そりゃ当たり前でしょ! 私も気まずいし!」

「バレたら終わるからな……」

「そこはもちろんちゃんとしますってぇ! てかお兄ちゃんお腹空いたぁ〜なんか作ってぇ」

「ったく、いつもそうだなお前は……。悪いが先に風呂入らせてくれ……」




俺は立ち上がり、風呂場へと向かう。菜月は終始嬉しそうにし、その綺麗な黒髪を振るっている。



「あっ、そうだ菜月」

「えなに?」




俺は振り返りつつ忠告した。




「今後は寮から帰ってくる時ちゃんと連絡しろよ」

「あぁごめんごめん」

「お互い年頃なんだから、そこは多少気を使ってくれ」

「へぇ……」

「…………」

「お兄ちゃん、彼女でも出来た?」

「そういう事じゃない」

「真夏?」

「ちげぇよ」

「ハハハ!」



菜月がまだ何か言おうとしてきそうだった為、俺は踵を返して風呂場へと向かった。なんだかこの数分間で鬼のように疲れたな……。けれどもまぁ、よく分からんがとりあえず俺はこれからも男の娘を続けられるようだ。しかしまさか菜月がフォロワーだったなんて一体全体どんな偶然だよ……ったく。




★☆★☆★☆




月曜日。鬱陶しい夏の日差しを浴びながらもなんとか学校に到着し、下駄箱で靴を履き替えつつも、俺はどこかこの足取りが重かった。決まっている。土曜日に行った南つばさとの買い物後の初登校だからだ。いくら馬鹿な俺でも今日一日が如何にめんどくさそうなのかは予想がついた。そう、信道だ。絶対あいつに色々とつつかれる。





「めんどくせぇ……」




本来であれば夏休み前、最後の週で軽やかな気持ちのはずなのに、あんな出来事のせいで俺の気持ちは朝から重い。しかしいつまでも下駄箱にいる訳にもいかないだろうから、俺は諦めて教室へと向かう。一階層上がるだけの階段も、何故だか今日は膝に来る。ちなみにあの日の夜に、信道から問い詰めのメールがきたが、勿論俺は返事をしていない。




「はぁ……」




階段を上がり、廊下を進むとすぐに3組の教室が見えてくる。中を覗くと、まばらなクラスメイトの他に窓際のいつもの席に信道がいた。俺は腹を括り教室の扉をくぐる。





「おはよう」

「待ってたぜ、恭二……」

「な……なんだよ」




俯いたまま信道が俺に話しかけてくる。怖……。俺は警戒しつつも信道の後ろの自席に座った。すると信道が席から振り返り、顔を上げ真顔で、




「メール見たか、恭二」

「あぁ……」

「なぜ返事をしない」

「いきなり過ぎてよく分からなかった」

「お前、圭ちゃんと友達なのか」

「友達っつーか……」

「知ってんだな、圭ちゃんの事……」

「まぁ……」




信道が深いため息をつく。




「なぁ、恭二」

「ん」

「俺……圭ちゃんの事好きになっちまった……」

「…………」

「あの日からずっと胸が苦しいんだ……」

「…………」



おいおい……。勘弁してくれよ……。いくら親友だからってそれは何も力になれねぇ……。女装の事はさすがに信道には言えねぇしな……。




「おはよー川島君に蒼井君! って……どしたの二人とも、朝から暗い顔しちゃって」



考え込んでいた所、いつの間にか南つばさが3組に来ていた。ひょっとしたら顔出しに来るかもとは予想していたがまさか朝イチからとはな……。しかしすげぇな相変わらず……。こいつのカリスマ性で朝からクラスメイトがどこか浮ついた心地になっている。一方、大好きな南つばさが来ているというのにも関わらず、信道は大した反応もせず嘆息をつきながら、




「先日はどうもっす、つばさちゃん」

「偶然だったよね、びっくりしちゃった」

「圭ちゃんは元気っすか」

「元気だと思うけどって……あっ! だめだよ川島君! 前も言ったと思うけど圭ちゃんの事好きになったりなんかしたら!」

「ぎくっ!」





信道……。もうちょい頑張ってくれよ……。これじゃ南つばさにモロバレじゃねぇか……。案の定、南つばさはすかさず信道の隙を詰める。





「その感じだと圭ちゃんに惚れたな川島君」

「あの日以来、飯も食えてなくて……」

「圭ちゃん可愛いもんねー。優しいし」

「超可愛いっす。ガチで」

「超可愛いだって、蒼井君」

「俺に振るな……」

 

 



南つばさが何故か俺に話を振ってきたが俺は取り合わない。というか親友が真顔で超可愛いって言うさまはキツいな……色々と。信道は深刻そうな顔つきのまま、





「つばさちゃん……自分……この気持ち……どうすれば良いんすかね……」

「信道君、あの時も言ったけど圭ちゃんは好きな男の子が居るんだよ」




南つばさの顔が少し強張る。というよりこれは内心怒ってるのかも知れない。そんな顔を見て信道も少しだけ萎縮してる様子が見て取れた。なんか、可哀想になってきたな信道のやつ……。根が悪い奴ではない事を知っているが故に純粋に不憫に思えてきた。信道……ある意味おまえは一番、圭ちゃんと一緒に過ごしてる人間とも言えるんだよ……。




「おはよー、恭二。って……あれ? お取込み中?」





南つばさと信道が作った変な空気の中、真夏が何の気なしに乱入してきた。真夏と南つばさが鉢合わせたの初めて見たな。つーかこいつも割りと当たり前のようにうちのクラスに入ってくるよな……。俺は下敷きで顔を仰ぎながら真夏に言葉を返す。





「別になんも取り込んでねぇよ。てかどうした」

「なっちゃんが部屋に携帯の充電器忘れたから、郵送するようお兄ちゃんに伝えて、だって」

「はぁ? マジかよめんどくせえ……。帰る前に忘れ物ないか確認してたじゃねぇかあいつ……」




ちなみに菜月があの日急に帰って来たのは、次の日の朝から地元の友達と久しぶりに遊ぶ為だった。昨日、寮に戻る前に忘れ物がないか散々確認させたのにこのざまだ。俺の呆れ顔を見て真夏は笑いつつ、




「相変わらずだよねーなっちゃん。全寮制の学校に入ったから多少はちゃんとするかなって思っーー」




その瞬間。





「分かってるっす! 圭ちゃんが恭二の事を好きだって事くらい!! 自分も男っす……潔く圭ちゃんの恋を応援するつもりっす……」




…………。

クラス中に響き渡る大声で、信道がそんな事を言った。それに南つばさが慌てた様子でフォローする。





「ちょっ……ちょっと川島君! 名前出しちゃだめ……!」

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