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影の理解者②

信道が半にやけの気持ち悪い視線で俺をじっと見つめている。おい待て……やばい……。なんだか嫌な予感がする。すると、信道の声に反応した2組の女達も声をそろえて、




「分かるー、私も信道とおんなじ事考えてた」

「てか、つばさより可愛くない?」





なんて言いつつ目の前で、2組の知らん女達が俺の顔をジロジロと見てくる。勘弁してくれ……変な汗かきそう……。俺は南つばさに視線を向け助けを求める。





「ちょっとだめだよ信道君! 圭ちゃんを口説いたりなんかしたら! 圭ちゃんは蒼井君の事が好きなんだから」

「へ? 恭二? ちょ……ま……どういう事っすか……?」

「そうだよね! 圭ちゃん」





…………。

余計ややこしくしてんじゃねぇよ……。信道の顔がみるみるうちに俺の事を思い巡らしているのか、怒りの表情へと変わる。俺は慌てて、




「違うつばさ……。蒼井君はただの友達だってば……」

「まじかよ! 恭二のやろうっ! 俺に内緒でこんな可愛い子と繋がりやがって! 絶対にただじゃおかねぇ!」

「あー蒼井って、3組の男子だよね。あの割りとかっこいい」

「話した事ないけど優しそうだよね」




しまった……。俺の言葉がやぶへびになってしまい、信道がヒートアップしてしまった。それに2組の女達も速攻で恋バナ切り出し、場がカオスになる。違うんだ信道……お前の今、目の前にいるのがその恭二なんだよ……。すると俺が困っているのを見かねたのか南つばさが話を切り出す。




「そういう事だから信道君。圭ちゃんは蒼井君が好きだから、可愛くてもアタックしちゃダメだよ」

「よりにもよって……なんで恭二なんだ……」




信道ががっくしとうなだれて、顔から生気が失われていく。もしかして、南つばさはあえてこの状況に持っていったのだろうか。信道を俺にアタックさせないように。確かにアタックしようと思ってた女が自分の親友の事を好きだなんて宣言されたら、心が折れるし、信道はこう見えて俺と繋がりがある女をまず狙わないタイプだ。計ったのなら策士だな……この女。そして、信道はうなだれた顔を少しだけ上げて俺を見る。



「ちなみに……恭二のどこが良いんすか?」

「え……?」

「いやその……女の子から見てあいつのどの辺が魅力的なのかなって……」

「ううん……恭二君はただのお友達だよ……」




この状況に俺は、俺に対して何を言ってるんだろうと、なんだか小っ恥ずかしくなってきて信道から顔を背ける。てかなんだよその質問……。信道のやろう、完全に俺の事を見下してんだろ……まぁ見下されるのも無理ないくらい確かに女っ気のない生活してるんだけどさ……。すると、南つばさが間に割って入り、




「ほら、信道君! 圭ちゃんは恥ずかしがり屋さんだからあんまり追い込んだらだめだよ。この感じでなんとなく分からない?」

「ま……まぁ……そうっすね……」

「ちょっとやめて……つばさ……。私……恥ずかしいよ」

「その表情……まじ天使っす……良いなぁ……恭二」

「だって……蒼井君は……ただの友達だもん……」



俺の言葉に信道が頬を真っ赤にして反応する。それどころか、南つばさと2組の女達も俺の顔を見て、何故か頬を染めている。そんな反応をされてしまうと、俺は更に恥ずかしさが込み上げてくる。悪循環だ。するとそんな俺を見て、南つばさは慌てて、





「ご……ごめんね? 圭ちゃん」

「うん……」

「どうする? うちらはそろそろ出よっか?」

「うん……」





俺が頷くと、南つばさは持ち前の愛想の良さで信道達に挨拶して、自然な流れで席を立つ。俺も流れで席を離れる。信道だけは少し名残惜しそうな様子で俺を見ていたが、とはいえ別に何かを言うわけでもなかった。俺はそんなやるせない顔をした信道が、なんだか少しだけ不憫に思えてきてしまい、謝罪の意味も込めて去り際に手を振る事にした。




「信道君……またね……」

「け……圭ちゃんっ! ありがとうっす! また会いましょうっす!」




俺と南つばさは喫茶店を出る。容赦ない夏の日差しが頬に突き刺さる中、南つばさは俺に耳打ちする。





「ちょっと圭ちゃん……。なんで最後、川島君に手なんて振ったの? 彼、本気にしたらどうするの?」

「なんだか……可哀想になっちゃって……」

「だめだよ圭ちゃん。男子に優しさなんて見せたら」

「うん……。それは分かってたんだけど……あの人蒼井君のお友達みたいだったから……」

「あー、蒼井に嫌われたくなかったのね」

「そういう訳じゃないんだけど……」

「圭ちゃん可愛いんだから、あんまり男子に優しくしちゃだめだよ。彼、圭ちゃん見た途端に目の色変わったの気付かなかった?」

「うーん……」





いや、めちゃめちゃ気付いてたけどな……。どんだけ一緒にいると思ってんだあいつと。あいつのそういう視線に俺が気付かない訳がないだろう……。




「けど、ありがとう圭ちゃん。圭ちゃんがいたから自然な感じで逃れたね」

「私……何もしてないよ……」

「ううん……。圭ちゃんのカリスマ性に助けられた」




南つばさはそう言って微笑む。夏の日差しを満面に受けながら。その健やかな笑顔にはさすがに俺もドキリとしてしまう。俺は慌てて誤魔化すようにして言った。




「カリスマ性ってなのなのそれ〜……。ゆちゃんの嫌味?」

「あはは、違う違う! 圭ちゃんが可愛い過ぎてみんな何も言えなくなってたんだよ。傷つけちゃだめだ! みたいな」

「よく分かんないよ〜」

「圭ちゃんは分からなくて良いの」




そして南つばさは微笑みながら次どこに行くかと話を切り替える。真っ白な夏の光が視界を覆う。なんだかよく分からないが、南つばさが今も尚、楽しそうにしているって事はおそらく良い事をしたのだろう。ならまぁそれで良いか。ゆちゃんが楽しそうにしているのならそれ以上の事はない。なんせこの姿の俺を、外の世界へと連れてってくれたのは南つばさに他ならないのだから。





★☆★☆★☆





「疲れた……足痛ってぇ……」




もうすっかり日が暮れている。あれから色々とお店を巡った後、南つばさと駅で解散し帰路に着く中、やっと家が見えてきた。




「まじでバイトしないとな……」




俺の手には紙袋がぶら下がっている。相変わらず思うが、まじで女物の服って値段安すぎだろ。ゆちゃんに乗せられて値段の安さも相まって買い過ぎてしまった。おそらく小遣いの貯金ももうあまりないだろうな。効率の良いバイト……。つい南つばさの所で働く選択肢が脳裏に浮かんでしまう。やっぱり高校生で1600円は魅力的過ぎるだろ。交通費も出るみたいだし。人間関係も南つばさがいれば変な事にはなるまい。くそ、どう考えても悪くない。悪くないが……。




「あーやめよう、疲れた。化粧落としてぇ……」




俺はこれ以上疲労を溜めたくなかった為に強引に思考を打ち切る。別に明日にでも考えれば良いのだ。とりあえず今は風呂だ。自宅に着いた俺は、バックから家の鍵を取り出して解錠し、ドアを開ける。





「あ、お兄ちゃんおかえりー」

「おう菜月、ただいま。帰ってきてたのか」





…………。

あれ?

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