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修学旅行!④

「いっちばんー!」

「おい……プールじゃねぇつの……」




夜、旅館に着いた俺たちは少し休んだ後、大浴場で風呂に入っていた。どうやら先生の情報だと今夜に限っては旅館自体がうちの貸切であるらしい。ちなみに、各部屋に簡素な風呂場もあり、大浴場に入りたい奴は希望制との事である。俺の予想ではもっと混んでいるのかと思っていたが、周囲を見渡しても思ったより生徒はいなかった。みんな案外風呂とか興味ないのだろうか。




「露天風呂とか久しぶりだなー恭二!」

「そうだな」




信道が他の男子と一緒に岩造りの露天風呂を泳いでいる中、俺もお湯に浸かる。夜になり少し気温も下がってきたのか、水面からは湯気が立ち上がっていた。ちなみに勿論、もう身体は洗っている。




「ふぅ……」




肩まで浸かり、足を伸ばすと一日の疲れが一気に飛んでいくのが分かる。頭上には、澄んだ京都の夜空が広がっていた。加えて前方には淡くライトアップされた、飾りの木々や灯籠が備えられており、見事な和の雰囲気に自然と心も安らいでいく。




「つか、相変わらず色白だよなー恭二」

「そうでもねぇだろ」

「毛も薄いしさ」



風呂に浸かる俺の身体を信道がジロジロと見ている。




「な……なんだよ」

「いや……なんだ、意外と恭二ってその……顔に似合わず……ほら……大きいなって思ってさ……」

「は!? いや見んなよ気持ち悪いな」

「いやいや、男同士なんだから良いだろ別に」




信道が全裸でケラケラと笑っている。気持ち悪いなこいつ……。俺は身体を隠そうかとも思ったが、男同士で変に隠してもおかしいかと思い、大人しく湯に浸かり続ける。




「恭二、顔は優しい感じなのになー。下は全然優しそうじゃねぇよこれ」

「おい、それ以上見んな」




俺の言葉に淡い湯煙の中、信道の笑い声が聞こえる。まじ下らねぇなこいつ……。なんか姉貴みてぇなイジりしやがってよ……。俺が呆れていると恭二は、




「はは、それでさ恭二。どうする?」

「なんだよ、どうするって」

「いや、修学旅行に温泉ときたらだ。このキーワードでやるべき事があるだろ」

「は? いや分かんねえよ」

「ったく……お子ちゃまだな兄弟は」




そう言って信道が目配せをする。目配せした先には、竹で作られた風情のある壁が見えた。俺は信道と共にその壁の方へと近づく。するとその壁の向こう側から、





「てか見た? つばさちゃんの胸。まじデカくない? 形も良いし」

「見た見た。ねー、私もあれくらい欲しかった」




…………。

壁越しに女子達の声が聞こえる。どうやら隣は女湯のようだ。信道のバカさ加減も大概にしてほしいが、それよりも聞こえてきたのが運悪く見知った女子の話であり、俺も一気に小っ恥ずかしくなってしまう。俺たちの心境をよそに壁の向こう側からはさらに、




「つばさちゃん、何食べたらあんなに大きくなるんだろ……。張りも凄かったし」

「なんだろう。やっぱお肉じゃない?」

「えー、でもうちらが食べても腹に付くだけでしょ」




南つばさ……。やっぱり圧倒的なのか……。あまり聞いちゃいけない会話を聞いてしまい、俺は逃げるように信道の顔を見た。信道も先程までの勢いがどうしたのか、顔を真っ赤にして、聞き耳を立てている様子だ。




「あと、真夏ちゃんも胸大きくなかった? スタイルも良いし」

「分かるー。真夏ちゃん背も高いし、なんかグラビアモデルみたいな感じだった」

「グラビア? 何言ってんのもー!」

「ごめんごめん! 冗談だって」





そうか……。やっぱり……真夏ってスタイル良いんだな……。なんとなくは分かっていた事ではあるか、こう聞くと、なんて言うか、妙な気持ちになってしまう……。同じく聞こえているはずの信道の奴は、何故だか前屈みになっていた。





「あと、玉井ちゃんも色白で肌綺麗だったよねー。お尻の形も良いし」

「待ってさやか。さっきからマジおじさんなんだけど」

「あはは」




なんつーか……もう恥ずかしくて聞いてられねぇ……。俺がこの場から離れようとすると信道が慌てた様子で、




「おい待てよ恭二」

「なんだよ……」




信道は覚悟を決めたように拳を掲げて、




「男ならカマさねぇとだろうが、なぁお前ら」




信道の煽りにいつのまにか集まっていた、男共がうなづき、心を一つにしている。つか、よく見たらほとんど他クラスの奴らじゃねぇか……。俺はこいつらの情熱にうんざりしつつ、忠告する。




「いや……やめとけって。バレたらえらい事になるぞ」

「いや兄弟……。この鉄のカーテンの向こう側には、サンクチュアリが広がってるんだぞ」

「鉄じゃなくて竹だろ……」

「俺はこの目で見たいんだ……。極楽ってやつを……なぁお前ら?」




信道の煽りにバカな男連中が同調する。




「なぁ恭二、共に極楽を見てみないか?」

「いや断る」

「なら、せめて肩車をしてくれ」

「しねぇよ……」



と、そう信道をあしらうと、周りの男子共も俺を煽ってくるが、俺は特に取り合わない。本当くだらねぇなこいつら……。すると、信道は素っ裸のまま不満そうに腕を組みながら、




「仕方ねえな、おいみんな恭二の奴ノリ悪いから俺らだけでやるしかなさそうだ」

「…………」




俺の冷やかな視線に反して、信道達は意を決した素振りで、肩車を始め、壁の上側へとアプローチしようと試みる。




「だーっ。だめだ届かねえ」

「そりゃそうだろ……」

「よし。お前ら二人で馬になれ」



信道の指示に、目の前にいた男子二人は向かい合って両手で互いの肩を掴み、しゃがみ込む。俺はさすがに、





「おい、信道危ねぇって」

「いや、止めないでくれ恭二。これは男の戦いなんだ」

「いや……そうだろうけど……ケガするぞ……下……岩だしよ」

「岩だろうが、なんだろうが俺はこの目で確かめなければならない。真理を知る必要があるんだ」




そう言って、信道はカッコつけて、二人の背中に乗った。そして、馬役の二人がゆっくりと立ち上がる。




「よしよし! お前ら一旦そこでキープだ。俺も立つから!」




馬役の二人が屈んだ状態の中、信道を慎重に立ち上がると、見届けている奴らが少し歓声を上げた。だが、壁のへりまではもう少しといったところか。




「おいお前ら! もう少しだけ高くしてくれ! もうちょいなんだ」




馬役の二人が、信道に踏まれている背中を伸ばそうと試みるが、苦しそうだ。つか背中を伸ばしたら、お前も不安定になるだろ……。




「おい! 気合い入れろお前ら! あと少しなんだ!」




信道の煽りに馬役の奴らも歯を食い縛り、高さを稼ごうとする。




「そうだっ……もうちょいっ……もうちょいっ……もう……あっ!!」




途端、信道が片足を滑らせ、派手に温泉の中へとダイブした。ほら言わんこっちゃねぇ……。まぁ頭から落下じゃなくて良かったが……。そして、信道はびしょ濡れの顔を振るって、




「くっそー! あと少しだったんだけどな! もう一回だ!」




その言葉を聞いた俺は、




「おい信道。もうやめとけ、ケガする」

「いやいやイケるって、兄弟!」




すると、他クラスの学級委員らしき男子も騒ぎに気付いたのか俺に加勢して、信道を止めようとする。しかし、信道と馬役の男子は忠告を聞かず強引に再挑戦しようとした為、その学級委員らしき生徒が慌てて、信道の腕を掴んだ。まぁ騒ぎになっても嫌だしな……。俺はその止めに入った生徒と信道の間に入り、





「なぁ信道、こうなった以上もう無理だ。諦めろ」

「なんでだよー恭二……。俺の夢が……」

「まぁあれだ……。叶わない夢もある」




その瞬間。俺の言葉に信道は、悔しそうに大きな声で、



「おい恭二! お前は悔しくねぇのかよ!? そんなでかいちんちんぶら下げといてよお!!」




信道の声に辺りが一気に静まりかえった。視界の中で湯煙が揺らぎ、遠くの方で信道の声が反響している。すると、この沈黙を割くように、




「ねぇ川島! マジきもいっ!! 本当いい加減にして! 聞こえてるからこっちまで!!」

「うげ……しまった……。玉井ちゃん……」




聞き馴染みのある声が返ってきた。聞こえてたのか、やっぱり……。周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。あーなんつーか、最悪だなまじで……。何の意味もない事は分かっているが、俺はこの現実の中、立ち上がる湯煙の中にそっと身を隠す事にした。

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