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修学旅行!③

たこ焼きの焼ける良い匂いに満ちた騒がしい店内の中、姉貴は酒をグイグイと飲みながら楽しそうに信道へ、




「やっぱり、男の子は優しくないとね!」





と、そう言って隣にいる信道の肩を組んだ。すると、信道は笑いながらも少し恥ずかしそうな顔を浮かべている。なんかこいつ……姉貴の事少し意識してねぇか……。今の彼女も年上みたいだし、こいつ実は案外年上好きなんだろうか……。つかそもそも親友の姉貴に対して意識してんじゃねぇよ……。なんて事を思っていたら、ふと姉貴が俺の方を見て、




「けど、こうやって褒めてくれる女の子もいて良かったじゃん恭二」

「どんだけ見下してんだよ俺の事……」

「いやさ、だって私には全然分かんないんだもん、あんたの良さが」

「面と向かって言う事かそれ……」

「だって菜月もあんたの事大好きじゃん? だから不思議でさー」




姉から出た菜月とのワードに南つばさの取り巻き二人がきょとんとした顔を浮かべる。すると姉貴は慌ててフォローして、




「あぁ、ごめんね! うちら三人兄弟でさ恭二の下に菜月って妹がいるのよ」




その言葉を聞いた南つばさは、いつもとは異なる物腰柔らかな様子で、




「へぇ、妹さんは蒼井君の事が大好きなんですか?」

「そうなのよー。私が実家にいた時あの子ソファで恭二の隣ばっかり陣取ってさ、私に全然懐いてくれないのよ」




いや……無理やり抱き付いたりキスしたりするからだろ……。姉貴の不満そうな顔に南つばさは苦笑しつつ、



「ふふ、なんか意外ですね。蒼井君が妹さんに懐かれてるなんて」

「恭二の肩には平気で寄り掛かるのに、私が隣に座っても無視なんだから、酷くない!?」

「あはは……」

「旅行でも外食でも、お兄ちゃんが行くなら行くとか言ってさー! 私は妹の事こんなに愛してんのに!」




いや愛し過ぎて、そこが嫌なんだろうが……。もっと普通に絡んでやれよ……。そんな姉貴の言葉に、南つばさも色々と察したのか、若干引き気味である。すると、不意に取り巻きの女が割って入り、




「でも、何となく妹さんの気持ち分かります! 蒼井君、絶対妹さんにも優しいと思うんで」




なんなんだよ……この女。さっきから凄い好意を感じるんだが、いきなりすぎてなんか怖ぇ……。今日初めて話すのによ……。俺が戸惑っていると南つばさがすかさず諭すように、




「ねぇゆうか、ちょっとやり過ぎ」

「え、でも」

「みんないるからさ」




と、言って取り巻きの女子を落ち着かせた。そして南つばさは改めて信道へと、




「そういえば、川島君もちょっと前に彼女出来たんだよね?」




その言葉を聞いた瞬間、姉貴は信道の方を向き、




「えっ! 信道君彼女いるの!?」

「えへへ、実はそうなんす咲さん」

「ほら! お姉さんに写真を見せなさい! 早く! あと店員さん! ハイボールおかわり!」




おっさんかよ……。なんか色々キツいな姉貴のこういうとこ見んのは……。信道は姉貴に首根っこを掴まれつつ、スマホを取り出して、




「この子っす」




テーブルに置かれる信道のスマホに、俺以外の全員が興味津々な様子で、視線を向ける。案外、南つばさも興味あった様子なのが意外だ。すると姉貴は、




「え! なに!? 普通に可愛い子じゃない!」

「いや……まぁ……」

「どんな必殺技を使ったわけ!?」

「そんなん無いっすよ。ただ自分の意地を突き通しただけっす」




信道はやや顔を赤くしながら、そう言った。すると、姉貴はケラケラと笑いつつ信道の背中を叩きながら、




「かぁーっ! 聞いた恭二今のセリフ!? これだから高校生って良いわよね真っ直ぐで!」

「知らん……」

「あんたも良い友達持ったねー! ちゃんと信道君から女の子の落とし方学んどきなさいよ本当に」





との姉貴の言葉に、南つばさはクスッと、周りにバレないようほくそ笑んだ。こいつ、隠れて馬鹿にしやがって……腹立つな……。するとタイミング良く、店員が全員分のたこ焼きと姉貴の酒を持ってきた。目の前に置かれたたこ焼きは湯気が立ち上がり、ソースの香りも相まってかなり美味しそうだ。




「うっへぇ美味そう。自分、関西のたこ焼き初めて食べるっす!」

「全部私の奢りだから遠慮なく食べちゃってー!」

「うっす!」




信道が手をつけたのを見て、周りも自然とたこ焼きを食べ始めた。俺も食うか冷めないうちに。皿の真ん中にある一番熱そうなたこ焼きを箸で掴み、口へと入れる。




「…………」




関西風のふわっとした食感。その中は、出汁の旨み溢れるトロトロの生地、それと調和するタコの旨み。うん美味い、プロのなせる技だ。これだけ柔らかいたこ焼きだと作るのもそれなりの技術がいる事だろう。おれが舌鼓を打っている中、信道が興奮した様子で、




「めっちゃ美味いっす咲さん! やっぱり本場は違いますね!」

「美味しいでしょ? ただ本場は大阪だけどね信道君」




姉貴のツッコミに全員が笑った。信道と姉貴の即興漫才をみんなが聞いてる中、さりげなく隣にいる南つばさが俺に耳打ちしてくる。




「やっぱり、お店のは美味しいわね」

「当たり前だろ……」

「まぁ、私たちの作ったたこ焼きも悪くないけど。ふふ……」




姉貴と信道の漫才をよそに南つばさはどこか楽しそうな様子でたこ焼きを頬張っていた。いや……私たちってよ……。あの夏休みの時……ほとんど俺が焼いてただろ……。




★☆★☆★☆★☆★




「ご馳走様でしたー!」




食べ終わった俺達は店の入り口で支払いを済ませた姉貴を出迎える。




「いやぁ安いわねーみんな! やっぱりお酒飲まないとこれだけ安く済むのね! あははは」




まだ、この後には真夏とも会うというのに姉貴はもう既に出来上がっている様子だった。すると南つばさは少しだけ心配そうに、




「大丈夫ですか咲さん? お水買ってきましょうか?」

「大丈夫大丈夫これくらい。お水は真夏にもう頼んであるから」

「真夏って片瀬さんですか?」

「そうそう、この後合流すんのよ私。喫茶店でね」




商店街の雑多な人通りの中、姉貴の言葉に南つばさは安心した様子で、




「そうですか。片瀬さんと落ち合うんだったら、大丈夫ですね」




南つばさの気遣いに姉貴は嬉しそうにして、




「つばさちゃんは本当に良い子やぁ。ほら恭二も少しは見習え!」

「良いから前見て歩けよ」




俺の返しに何故だか姉貴はニヤニヤと笑っている。なんだこいつ……。しかし思い返すと、姉貴は圭の話を一切出さなかったな。姉貴の中では、俺と圭が付き合ってると認識しているはずなのに。いやまぁ自分で言うのもあれだが、さすがに圭は半分芸能人みたいな存在だし、迷惑にならないようさすがに気を使ったのだろうか。てっきり姉貴の事だからその辺の話も出してくると踏んでいたが杞憂だったようだ。まぁ言ってきても淡々と否定するのみだが……。




「はいはーい! じゃあ咲お姉さんはこの先の喫茶店に行くから、ここで解散ねー!」

「了解っす! ありがとうございました咲姉さん! また帰ってきた際は飲みましょうっす!」

「はーい! じゃあみんな修学旅行楽しんでねー!」




満面の笑みを浮かべる姉貴を俺達は見送る。その背中が商店街の人混みに薄れるまで。程なくして、信道が腕を上げて大きく伸びをしながら、




「恭二の姉ちゃん。こっちで楽しそうにやってんじゃん」

「あぁ、そうみたいだな。俺も馴染み過ぎてて少し引いてる」




その言葉に信道は笑った。そして周りに聞こえないよう俺に小声で、




「でもまぁなんだ? その……咲さん、めっちゃ可愛かったな……。ほら……お胸も……そこそこあるし……」

「いや……まじ勘弁してくれ……」




俺の呆れた顔に信道はケラケラと笑っていた。


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