修学旅行!②
「おう、姉貴」
俺が姉貴の呼び掛けに手を挙げると早速、信道が反応して、
「あの人かっ! ほらみんな行こうぜ!」
信道が姉貴の元に駆け寄ると、周りも自然とその背中について行った。そして全員姉貴の方を向いている中、南つばさがそっと俺に耳打ちしてくる。
「ねぇ……あれがあんたのお姉ちゃん?」
「あぁ」
「なんか、意外ね」
「どういう意味だよ」
「明るい感じだし」
と、それだけ言い残し南つばさは耳打ちを止める。いや、こいつどんなイメージを抱いてたんだよ俺の姉貴に……。そして信道を先頭に俺達は総勢5人で姉貴の元に集まった。信道はいつもにも増して目を輝かせながら、
「恭二のお姉さんですか!?」
「うん、初めまして! 恭二の姉の蒼井咲ですっよろしくね!」
「よろしくっす! 自分、恭二の親友やってる川島信道っす!」
「信道君かぁ良い名前ね!」
姉貴は長い黒髪を振るって楽しそうに笑っている。その水色のニットと黒いハイウエストのロングスカートはシンプルながら大人っぽく見え、姉貴のスタイルとよく似合っていた。そして姉貴は俺に目を向けて、
「ちょっと恭二! こんな可愛いJKちゃん達が一緒だなんてお姉ちゃん聞いてないぞ」
「いや、今さっきそこで一緒になったんだよ」
俺の言葉に南つばさは自然な流れで、
「すみません、私達が急に押し掛けちゃったみたいで……」
「あ良いの良いの全然。普段、うちの弟と仲良くしてくれてありがとね」
姉貴は南つばさに優しく微笑み掛ける。南つばさも涼しげな表情で、その綺麗なボブカットを振るって会釈をしてみせる。なんか、普通に愛想良いなこいつら。お互いの裏の顔を知っている身からすると、なんだかこの光景にうっすらと恐怖を感じてしまう。そして姉貴は信道と楽しそうに話しながら、アーケード街の方へと先陣を切って歩いていく。
「この錦市場はねぇ、なんと400年前から続いてる商店街なのよ」
「まじっすか咲さん!?」
「そうよ信道君。どう? ワクワクするでしょ?」
「するっす! 戦国時代っすね!」
信道の単純なヨイショに、姉貴はその長い黒髪を振りながら、胸を張って見せる。こんなヨイショで喜んでるよ、この姉貴……。すると隣にいた取り巻きの女子が小声で、
「なんか、蒼井君のお姉ちゃん面白いね」
「いや、疲れるだろ。家でもこんなんだから」
「ふふふ……。仲良いんだね」
なんて、話をしながら俺達はアーケードを歩いて行きすると途中、姉貴がある店の中へと入った。俺達も姉貴に続いて店内に入ると、カウンター越しにある厨房に、なにやら丸い穴が無数に空いた特徴的な鉄板が見えた。加えて食欲のそそられる香ばしい匂いが一気に鼻腔を抜ける。
「店長ー」
との姉貴の呼び掛けに、エプロンをした店長らしき男の店員が厨房の奥から出てくる。
「おう、咲ちゃん。どうした?」
「ほら弟がこっち来ててね、6人なんだけど今入れる?」
「おっ、こないだ言ってた東京の弟くんか。ちょっと待ってな。今テーブルくっ付けたる」
「ありがと、店長」
姉貴と仲睦まじそうに話す店長は、慣れた手付きでカウンター脇にある小さなテーブル席をくっ付けて、全員まとまって座れるようにしてくれた。俺達はそのテーブルに座る。するとメニューも見ずに姉貴は、
「店長、私ハイボール!」
「飲むんかいな」
「私は学生じゃないし当然!」
「相変わらずやなあ」
「あと、この子たち人数分のたこ焼きとコーラに、おつまみで浅漬けきゅうりとタコさんウインナーね」
「あいよ」
注文を受けた店長は店の中へと戻っていく。やはりここはたこ焼き屋だったようだ。酒やつまみも提供してるあたり、居酒屋とも言うべきか。カウンター越しには店員がハチマキをしつつ、たこ焼きを慣れた手付きで作っている。そうか、思い出せば菜月がいっときハマって以来、全員揃う時はいつも家でたこ焼きだったなそういえば。これはきっと姉貴なりの俺へのおもてなしなのだろう。
「へぇ咲さんこの店は知り合いなんすか?」
信道が素直にそんな事を聞いた。姉貴はバックから出したヘアゴムで髪の毛を縛りながら、
「仕事で一回取材してねー。そこからの付き合いかなぁ」
「取材? テレビ関係の仕事っすか?」
「私、ライターなのよ。へへ……」
ドヤ顔をする姉貴に信道はまたも、ヨイショ全開で、
「まじっすか!? クリエイティブ系ってやつっすね! まじ憧れるっす!」
「そうよぉ。もっと言って信道君」
相性良いな……この二人……。横目で南つばさの方を見ると、案の定苦笑いを浮かべていた。すると店員が早速、コーラと酒それにきゅうりの浅漬け持ってきて、テーブルに置かれる。グラスを握ると姉貴は嬉しそうにして、
「はい! じゃあみんな乾杯ー!」
と、修学旅行中なのにも関わらず、姉貴との飲み会が始まってしまった。まぁこうなるだろうなとは思ったが……。姉貴は勢いよく、酒を飲んでいき、
「あーっ! 締め切り後のハイボール効くーっ!」
「良い飲みっぷりっすね! 咲さん!」
「あ、みんなおつまみとかじゃんじゃん食べちゃって良いから。お金も勿論気にしなくて良いし」
「うっすっ!」
信道の無駄な社交性が遺憾無く発揮されている。本当こいつ……この辺の立ち回りは上手いよな……。俺はコーラを一口飲みつつ、きゅうりの浅漬けを一切れつまむ。すると姉貴が、
「みんな恭二と同じクラスなの?」
その言葉に南つばさが、グラスに入ったコーラを飲みつつ、
「いえ、私達女子は2組で隣のクラスなんです。蒼井君と川島君が3組で同じクラスです」
「あそうなんだ。ねね女子から見て、恭二ってさぶっちゃけモテるの?」
早速デリカシーねぇな……この姉。俺に対してもだし、この女子達に対しても……。南つばさは愛想笑いを浮かべていると、さっき俺と話していた取り巻き女子が割り込んで、
「多分ですけど結構人気あると思います」
「えーまじ? こんなのが?」
「おい……」
「はい! 見た目も優しそうだし、華奢な感じも女子受けすると思います!」
その取り巻き女子の返しに姉貴はケラケラと笑っている。つかさっきからこの取り巻き女はなんなんだよ……。やけに俺に対して媚び売ってくるよな……。すると姉貴は酒を飲みつつ上機嫌な様子で、
「えーっ! でも私は正直、信道君の方がかっこいいと思うなぁ」
「まじっすか咲さん!? 自分も咲さんみたいな大人の女性はタイプっす!」
「だって信道君、恭二より大切にしてくれそうだし」
「さすが咲さん! 自分の事分かってくれてて嬉しいっす!」
さっきから、なんかひでぇ言われようだなおい……。




