表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/123

ドキドキワクワクのオフ会①

『明後日まで待てないよ〜早く圭ちゃんに会いたい!』

『私も早くゆちゃんに会いたいー!』


俺こと蒼井恭二には誰にも言えない秘密があった。手元のスマホで「つぶやき君」アプリを見ながら、慣れた手つきで俺はアカウントを交互に入れ替えていく。


一つはリア垢、蒼井恭二としてのアカウント。

そしてもう一つ。

誰にも言わずにやっている裏アカ、「圭ちゃん」という架空の女(JK)になりきっているアカウントだ。


そう、俺はなりきっている。これはネカマなどでは断じてない。今風に言えば俺はいわゆる男の娘といえる存在なのだろう。その言葉通り、この自室には女物の服や小物、様々な形のウィッグなど、いつでも女装出来るセットが揃っている。





父親は勿論、姉や妹にも秘密にしている、俺の最大のアンタッチャブルだ。




ちゃんと女として見られるかどうか客観的に知りたくて、俺は一年ほど前から裏アカを使い様々な自撮りやヘアアレンジにネイル写真、あるいはメイク動画(アイプチとカラコンは最初から入れてる)などを載せて、その反応を逐一確かめていた。


すると、いつの間にか自分が女子力高めの女の子としてそこそこフォローされる様になっており、(とりわけJK達に)先日フォロワーも10万人を超えてしまった。最早、SNS上では誰も男であるなんて思ってもいない状態である。


最近では、毎ツイート事にリプを送ってくる男に粘着されるようにもなってきて少し鬱陶しいくらいだ。しかし、



「やっぱしそのくらい可愛いんかなー俺」



自室の机で伸びをしつつ俺は、女装した自撮り写真を何枚か見る。


確かに可愛い。少し幼さの残る優しそうな顔。長いまつ毛。発色の良い唇に流行りの太眉。シミひとつない肌。そして切れ長な目元をアイプチで盛った後の自然な垂れ目メイク。JK受けを意識して最近では涙袋を少し大きめにしている。


決して、元々可愛い訳ではないけれど、頑張ればみんなも可愛くなれると思わせる距離の近さと、どちらかというと男子受け特化のメイクだけど、それがアクにならない親しみやすい表情。


可愛い。万人受けする。意識せずとも自然とカースト上位にいっちゃうレベルの可愛さだ。 



「だから……大丈夫だよな……」



明後日、初のフォロワーとのオフ会があるのだ。オフ会といってもサシで会うだけの簡易なものだが。相手は裏アカを作って初めてフォロワーになってくれた相手"ゆちゃん"



お互いに都内に住んでいて、高二で同い年だったために、仲良しになるのは必然的だった。だけど……。



「うん……こんなに可愛いんだから……バレないはず……」



そう俺は、リアル世界でまだ誰ひとりとして女装した姿で会っていないのだ。一度、部屋で撮影してた時に妹にバレそうになった事ならあるが。



もちろん自分の女装した容姿に自信はある。けれども、実際に会ったら男だとバレてしまうんじゃないかとの不安感も拭えない。



「まぁ、こうなった以上……考えても仕方ないか……寝よ……」


俺は机から立ち上がり、背後にあるベッドへと倒れ込み明かりを消した。



★☆★☆★☆



「なぁ恭二ー! お前明日ひま? ちょいと狩りでも手伝ってくれよー」

「悪りぃ、明日は無理だ、用事がある」

「ちぇっ、いい加減ソロ狩りも飽きたのによ」


昼休み、クラスメイトが各々昼食をとる中、前の席にいる信道(のぶみち)が話しかけてきた。信道が振り向くとそのワックスで固めたソフトモヒカンの黒髪が降り込む日差しに反射している。俺が誘いを断った為か信道はうなだれて、



「しかしあちぃなぁ……クーラードリンク飲まないと体力無くなるぞこれじゃ」

「好きだなぁお前、モンキルネタ」

「お前もちょっと前までハマってたろ?」

「まぁそうだけど……」


俺が男の娘を知る以前の頃な。でも確かに、信道がうなだれるのも分かるほど梅雨明け早々一気に夏の空になり気温が上がった。教室も蒸し風呂のように暑く、周りもみんなネクタイを鬱陶しそうにぶら下げて、ワイシャツの首元を緩め下敷きなどで仰いでいる。明日も晴れるみたいだし、化粧が崩れないか心配になってきた。



「ねぇ恭二」


俺は声の方を向く。そして喋り出そうとした瞬間。



「片瀬ちゃん! なになに俺らになんか用!? バーベキューのお誘いとか!?」

「あはは、信道くん。相変わらず元気だね」

「片瀬ちゃんに、話しかけられてテンション上がらない男なんていないっしょー!」



信道がはしゃいでいる為、俺は横槍を入れた。



「おい信道、真夏が引いてんぞ、それくらいにしとけ」

「ちょっと恭二、別に引いてないから」

「で、なんだよ真夏」

「あ、そうそう、なっちゃんが今夜のMライブを録画しといてだって」

「菜月のやつ……そんなの俺に直接言えばいいだろ」

「お兄ちゃんは返事しないからって、私に連絡がきた」



そう言って真夏は苦笑する。片瀬真夏、俺の幼馴染で隣のクラスの女だ。俺は何の気なしに真夏を見つめる。輪郭を囲む様に下ろしたサイドの髪と艶やかな黒のポニテ。女の子らしいピンク色の可愛いヘアピンでサイドを止め、シュシュは落ち着いた茶色のものを付けている。そして涼しげで凛とした瞳に真っ直ぐとした鼻筋。他の女子と同じく少し崩したワイシャツの襟元にやや短くした制服のスカート。てか可愛いシュシュだな俺も一つ欲しい。



「つーかさ、前から思ってたんだけど、お前らってその……付き合ってんの?」

「はぁ? 何でそうなんだよ信道」

「あはは……恭二の言う通り。ただの幼馴染なだけだよ」



女の中では低めで落ち着いた声の真夏がその言葉を言った後、隣にいた女子達が少し驚いた様子で、



「えっ、蒼井君と片瀬さんって付き合ってるんじゃなかったの?」

「ね、私もそう思ってた」




俺は、少しうんざりした様子でクラスメイトの女に言葉を返す。



「付き合ってねぇよ、幼馴染なだけだっての」

「えー、お似合いなのに」



お似合いの意味がわかんねぇ。どういう意味だそれ……。信道は俺の言葉に安心した様子で、




「いやー片瀬ちゃんがまともな人で良かった! まともな女は恭二みたいな奴とは付き合わないから安心したっす!」

「おい信道、失礼過ぎんだろお前」

「いやいや、お前に片瀬ちゃんなんか100ねん早いわ」

「あはは、仲良いねぇ二人とも」


そういや昔、信道から真夏は学年の中でも人気があるとも聞いたな。まぁ信道ソースだからどこまで正しいのかは知らんが。真夏のやつモテんのか?



「じゃあそういう事で恭二、宜しくね。私戻るから」



真夏は手を振って教室から出て行った。



「良いよなぁ、片瀬ちゃん。可愛いよなぁ」


信道が名残惜しそうな顔で呟いた為、俺は言った。



「きめぇ……」

「だけど俺はやっぱり、2組のつばさちゃんだなぁ」

「うわ、理想高いなお前」

「憧れるだけならただだろ、釘刺すなよ」

「ハンターランクが足りない」

「うるせぇ!」




信道に小突かれると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。



今日中にもう2話上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ