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アイドルは虹の輝きを放つ【アイオライト編】

作者: 九JACK

A(エース)社の新グループ、『アイオライト』の取材に来ました。ミーランリオーネのハスバです」

「はい、ハスバさまですね。お取り次いたします」

 私はハスバ。ミーランリオーネという雑誌の編集に携わるうら若き乙女だ。

 今回なんと、人気急上昇中のアイドルユニット「アイオライト」へのインタビューを担当することになった。滅茶苦茶緊張している。

 「アイオライト」ってだけでもかなり雲上人みたいなのに、彼らの所属事務所はアイドル戦国時代と称される現代でトップランカーと呼ばれる「A社」なのだ。あんな大御所やこんな人気俳優とばったり出くわしてしまってもおかしくない。

「ハスバさま」

「はい!」

「こちらの者が案内いたしますので、どうぞごゆるりと。アイオライト以外への撮影はなさらないようお願いいたします」

「かしこまりました」

 と、私は受付に挨拶して、案内役を見た。

 でっっっか!!

 長身にも程があるだろう。え、これ二メートルある? 滅茶苦茶背が高い手足が長いひょろっとしてるけどさすがA社の人間、滅茶苦茶重心がしっかりしてらっしゃる……

「こちらへ、どうぞ」

「あ、はい」

 喋り声が滅茶苦茶ぼそぼそしてるな……まだ世に出てない新人かしら。や、なんか黒いマスクと濃い目のサングラスで怪しい感じがするけど。スタイルいいのに裏方の子なの?

「この辺は色んなメンバーの部屋が入り組んでいるので、迷子にならないように。あと、メンバーと会っても写真は撮らないように。サインくらいはいいですけど」

「はい、肝に銘じます」

「……緊張してます?」

 私は苦笑した。

「そりゃあ、まあ。大きな仕事は初めてなもので」

「ハスバさんは初めていらした方ですので、そうでしょうね」

 ほえー、もしかしてこの子がいつも案内している感じなのだろうか。

「あの、あなたは?」

「おれは……ええと、バイトみたいなもんです。あまり深く聞かない方が身のためですよ。社長の方針なんで」

「あ、ハイ」

 社長の方針という権力(パワー)ワードに私は怖じ気づいた。もしかしなくてもなんかあるなこの子……

 気になりはするが、触らぬ神である。私の編集者人生はやっといい感じになってきたところなのだ。身を滅ぼすような真似は避けよう。

「ここにアイオライトの三人がいます。おれは外で待機しているんで、何かあったら声かけてください」

「はい、ありがとうございます」

 私はどきどきしながら、ドアをノックした。

「はーい」

 がちゃ、とドアが開いて、私は飛び上がらんばかりに驚いた。この朗らかな声は……

「どちらさま?」

「セイム、名乗るの待ってから開けなよ」

 顔は万人受けというには童顔の気があるアイオライトのセイムくん、セイムくんではないですか!?天然キャラで売ってると聞いたけど、無茶苦茶な天真爛漫笑顔に並みのファンなら昇天しまっせ……

 しかし私は編集者! そんなことでは倒れたりしません。

「まったく、事務所のセキュリティはしっかりしてるけど、こう、防犯意識が低くて駄目だよ」

 こ、これは……! やれやれ系お兄さん(セイムに対してのみ)のアオイくんじゃあないですかっ。ああ、今日も顔面がすごくいい。

 セイムは変なファンがつきやすいんだから、とか言ってるけど、アオイくんのファンも大概だからな、と私は知っている。シュリンプ砲でなんか変なこと書かれてた過去を持つ。ファンの愛が重いことで有名なアオイくん。セイムくんとは幼馴染みなんですって。

 顔面国宝と言われるくらいの顔面偏差値の高さを誇るアオイくん。これで俳優業もしているから、大変なんだろうな。SNSも更新すると十分以内に「炎上か?」と思うくらいバズるらしい。

「ミーランリオーネのハスバさんですよね? いらっしゃいませ」

 奥からまだ変声期を迎えていない少年の声がする。その少し高めの声はエンジェルボイスと呼んで然るべき。アイオライトは少年ユニットでありながら、センターを務める彼を「姫」と呼ぶ。

 名をシリン。若いながら物腰が柔らかくて丁寧。老若男女問わず人気を誇るトップアイドルだ。

「中へどうぞ」

「は、はい、失礼します!」

 うおー、紫髪、初めて見た。本物だ……

 いつの間にかアオイくんがセイムくんを連れてきていて、三対一の対談構図になる。

「改めまして、本日のインタビューを担当します、ハスバと申します。本日はアイオライトの皆さん、お時間を割いてくださり、ありがとうございます」

「えへへ、綺麗なお姉さんが来るって聞いてたからね」

「セイム、言い方。よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします」

 あーーーーーーーっ、仕事とはいえ、とうとう始まる。

「では、インタビューを始めていきますね」

はーい、と和やかな返事をするセイムくん。対してアオイくんとシリンくんはぴん、と背筋を伸ばしている。

「緊張してますか?」

「ぜーんっぜん!」

 安定のセイムくん。アオイくんとシリンくんは苦笑いする。

「セイムくんはいつもリラックスしている感じですよね」

「ぼくは自然体の方がいいって言わえてゆかやね」

 出た。セイムくんのふにゃふにゃ言葉。

「セイム、きちんと喋って」

「ちゃんと喋ってるよお」

「アオイくんとセイムくんは幼馴染みなのですよね。ではお二人はシリンくんのことをどう思っていますか?」

「え、それ本人の前で言うんですか?」

「アオイ照れてるー」

 アオイくんを茶化すセイムくん。アオイくんはじろりと睨んだ。

 そんな傍らで、シリンくんは緊張しつつ、二人の反応が気になっているようだ。あからさまに二人を見はしないものの、時折二人の方に向きそうな視線を自分で矯正している。すごい精神力だ。

 アオイくんは柔らかな表情で答えた。

「弟みたいって思います。この一言だけだと言葉が足りないんですけど、不思議な感じで……兄弟はいたことがないので、弟がいたらこんな感じなのかなーっていう想像に過ぎないんですけど……ただ、完全に家族っていう枠組みに入れると何か違うなって思うこともあって。弟みたいな友達? が一番しっくりきますね」

「わかるー。シリンはなんか守ってあげたくなるよねー」

 セイムくんがのんびり続いた。

「年下だからとかそういうんじゃなくて、なんだろう、宝塚に入れておきたい感じ?」

「宝箱な。勝手にシリンの性別変えるな」

「あてっ」

 うーん、このコンビは熟年の夫婦のような安定感と安心感があるな……

 私は話の矛先をシリンくんに向ける。

「シリンくんは二人のことどう思……」

 泣っ!?

 シリンくんぼろぼろ泣いてるんですけど!? これ私何かした!? 私悪い!? 私悪いの!?

「あ、あの、ごめんなさい……」

 泣いてしまうシリンくんに大丈夫? とハンカチを握らせるセイムくん。アオイくんが少し寂しそうに笑った。

「今から話すことは、シリンのプライベートな話なので、吹聴しないでもらえるとありがたいです」

「え、はい」

 私は慌てて録音を切った。

「シリンの両親は才能のあるシリンに過剰な期待を押しつけていました。シリンはなりたくてアイドルになったわけじゃないです。特にシリンのお母さんはステージママって感じで……監督だろうがディレクターだろうが顎で使うような迷惑な方でした。それでいて、シリン自身に優しいわけでもなく……」

 こ、これ聞いていいタイプの話!? 私消されない!?

 私が内心でびびり散らす中、アオイくんが続ける。

「シリンはアイオライト結成まで、家族なんていていないようなものだったんです。おれとセイムでシリンに害しかない両親を追い払って、事務所の力や大人の力を借りて、なんとかシリンを両親から遠ざけました」

「そ、そんな大変なことに……」

「だから、家族や兄弟に強い思い入れがあるんですかね。そういうこともあって、おれとセイムはシリンを守りたいって気持ちがいっそう強いんです」

 それは知らなかった……アオイくんの言葉選びはふんわりしていたけど、下手したら警察沙汰になりそうなレベルの話だ。

「どうしてそれを私に?」

 私は雑誌の編集者だ。その気になればそういう裏話をネタにできてしまう。しかも世に出回っていない特大スクープだろう。いや、私はネタにする気ないけどね。

 子役時代から俳優としても人気だったアオイくんがそういうリスクをわかっていないわけがない。そもそも私も今日は雑誌のインタビューで来ているのだし、事務所からも口止めされているはずだ。

「ちょっとシリンが落ち着くまでに休憩を取らせてほしいというお願いと謝罪の代わりです」

 なんて礼儀正しくてメンバー思いな子。

「それと、万一記事にされた場合には相応の対処をさせていただきますのて」

 ぼかしてるけど裁判沙汰(そういうこと)だね!?

 さすが……子役時代から換算して十年以上この道にいるだけはある……したたか。

 まだぼろぼろと泣いているシリンくんが部屋から出ていくと、背筋が凍る程度では生ぬるいような殺気が部屋の外から飛んできた。例えるなら心臓をつまみ上げられたよう。命が心許ない気がしたのはこれが初めてである。やのつくお仕事の方かな?

「大丈夫ですよー、セッカさん。シリンは目にごみが入っただけですって」

 シリンくんを連れてったセイムくんのフォローの声が聞こえて、殺気が私から離れていった。

 セッカサン? 聞いたことがない名前だけれど。

 私の疑問に気づいたのか、アオイくんが教えてくれる。

「セッカさんは大々的には活動していないですけど、A社の振付師なんです。社長のお気に入りで、背丈が二メートル近くあるんですよ」

 背丈が二メートル……? まさか。

「あの案内役の方ですか?」

「そうです。色々理由があって、表舞台に出られないんですけど、ダンスがキレッキレで、この事務所で一番上手いと思います。……黄昏事務所やタルデス事務所と張り合えるとおれは思ってますよ」

 黄昏とタルデスとは大きく出たな。

 黄昏は芸能界でも老舗の事務所。歌って踊ってが主流のアイドル界で歌に重きを置いていて、年末の歌特番では出演アーティストを八割埋めた伝説が残っている。現社長のユウヒさんは昔誰もが知るバラードの申し子だったという。今は時流に合わせた曲風で攻めていて、斬新でいて基本という評判だ。

 タルデス事務所は前の社長が不祥事起こして辞任させられてから流れで社長になったイリクさんが前社長の負債分を補って余りあるほどの業績を叩き出している。社長のイリクさんは現役で、子役時代から活躍していたこともあり、そろそろ活動二十周年を迎えるとか。イリクさんのセンスというセンスがヤバくて、A社、黄昏事務所と並んで御三家と並び称されるレベルのアイドルを輩出している。

「さすがにタルデスのイリクさんと並ぶのは厳しいのでは?」

「そんなことありません! セッカさんは背が高いので手足が長いでしょう?その長さを生かしきるダンスができる人なんです」

 た、確かにひょろっとしてて手足は長く見えた。ただ、それよりも今気になるのはアオイくんのこの熱量。

 アオイくんはクールで売ってるところがあるし、セイムくんの天然やシリンくんの愛らしさで相対的にそう見えるのかもしれないけど、スマートというか……シリンくんが姫なら、アオイくんは王子だよねって巷でも評判である。

 俳優業も、感情をあまり表に出さないミステリアスでかっこいい役が多いので、アオイくんが何かに熱くなっている姿というのは初めて見た。

「おれは元々俳優業でごはんを食べていたので、アイドルなんてやるつもりなかったんです」

「……そうでしょうね。初出演の『ウィルバードの』の時点からアオイくんの人気は確かなものでしたし、その後いくつかの役を経て演じた初主演の『朝陽が落ちる』でもアニメーションに迫る異次元の美しさとか、すごい評判でしたもんね」

 俳優業だけで食べていけるだろう、この子は。顔がいいので。

 アオイくんは私の分析にさすが編集さんですね、と微笑んだあと、真剣な眼差しで告げる。

「社長には『やられた』って思いましたよ。それくらいセッカさんのダンスはすごかったんです。形容するだけじゃなくて、本当なら見てほしいくらい。……セッカさんのダンスに魂を揺さぶられたから、今おれはここにいるといっても過言ではありません」

 お? 何気に私すごい話聞かされてない?

「でも、セッカさんは込み入った事情で表には出られないので、この話は内緒ですよ」

 妖艶に唇に人差し指を当ててウインクを決めてくるアオイくん。とんでもねえ男がアイドルになったよ。

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