夜の訪れ 【月夜譚No.230】
一生の中で何度裏切られることがあるのだろう。
誕生日や記念日のサプライズ、映画ラストの大どんでん返しなどといったプラスの感情が働く裏切りならば、大歓迎だ。
しかし、自分自身が悲しむ結果になる裏切りは、もう二度と御免蒙りたい。
寒風が吹く公園の中央で、彼は膝をついて呆然としていた。夕陽はもうほぼ沈んでしまって街灯が点き始めた暗い公園には、遊んでいた子ども達の余韻もない。
先刻友人に突きつけられた言葉が心に刺さったまま、抜けるどころかどんどん中心に沈み込んでいくように痛みが増す。
親しいと思っていたのは、自分だけだったのだろうか。一緒にいて楽しいと思っていたのは、友人の策略の内だったのだろうか。
衝撃が大き過ぎて、もう涙も出ない。
涸れた瞳を不意に持ち上げると、黒の帳に点々と光の粒が出始めていた。いつもは綺麗に見えるそれ等が冷たく感じられて、彼は俯き瞼を閉じた。
もう二度と、こんなことは御免だ。
彼がそこからようやく立ち上がったのは、満月になりかけた月が丁度天頂にきた頃だった。