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月夜に舞う後宮の第四妃  作者: 栗鼠咲
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桃清妃の願い

些細なことでもアドバイスをいただけると嬉しいです。

「それにしても、私との密談早々大変なことになってしまったみたいね」

「はい、それがなかなか」

「良いわよ、話しやすい話し方でしゃべってくれて」

「ならそうさせてもらう。それにしてもこれからどうあなたに会いに来ればいいんだ?」


桃清は口を左右交互に膨らませる仕草をする。


「そうねぇ、この際だから私の(陽)みたいな補佐役をあなたにも貸してあげましょうか」

「そ、それはどういうこと?」

「絶対に仙人というのは悪行をしてはいけないの。だから私は地仙だという事を隠してこの場にいる。決して人を殺さず、嘘も吐かずに、ね。でも私を殺そうとする人間は後宮内にそこそこいて、とにかく大変なの。今までは壬莉だったり星羅、珠佳とかがその危機を食い止めたり、劉様が動いてくれたりしてどうにかなっていたけど、ね、分かるでしょう?」


桃清は少し面倒くさそうに言った。


「自分で自分の身を守ろうとすると、仙力を失う可能性があるの」

「地仙であるが故の弊害、か。徳だけを積むというのも、楽ではないのだろうな」

「そうよ、私は劉様を愛している。愛と言っても、恋愛対象というよりは・・・、何かしらね」

「恋愛、それを私は知らない。」

「心臓が、高鳴るようなものだと、女官が話していたわ。でもそれは良いの。恋愛感情と色欲というのは同じようであって同じではない。少なくとも私にとっては、ね。でもきっと、劉様は私に後者を求めてくると思うの。一国の王として当然のことでしょうね。それに関して、私はとても心苦しいのよ」


桃清は弱弱しく、見えないはずの劉を見ているように話す。

淋珂には、仙人のような類の存在がどのようなことを考え、何を想っているのかは分からない。

否、分かろうとは思わない。

ただ、この時だけは、桃清の感情が淋珂の胸に流れ込んできたような気持になった。


「それが私に補佐をつけるのと何の関係があるの?」

「何と言えば良いのかしら、あなたが後宮の外に出るのを助けたり出来る有能な部下、兼あなたの監視役、みたいな存在をあなたにあげたいの。劉様は私を守るため、と言ってはいるけどあなたを私の次に警戒とは違う意味で気にかけているわ」

「それはどういう?」

「さぁ、本人もそれには気が付いていないし私の口から言う事じゃないからね。まぁ、あなたに補佐をつけるのは、私のためであって劉のためでもある。それと、あなたのためでも、ね」


淋珂は首を傾げた。

その様子を見て桃清妃は手で口を押控えめに笑う。


「貴女は、ある意味恵まれているのね。もちろん今まで積み重ねて来た罪に関して、貴女の魂はとても穢れている。でも、心は全くそれに飲まれていない。赤ん坊みたいに純粋よ。」

「それは、私を貶しているのか?」

「罪を犯して何も思わない人間はね、基本的に心が穢れに飲まれて麻痺してしまっているの。あなたのような仕事をしている人はほとんどね。でも、貴女はいくらそれをしても心が穢れない、(無垢)であり続けている。貴女は、特別なの。でもそれはあなたにとって、毒にしかならないと私は思う。」


淋珂は桃清妃が何を言わんとしているのかが分からず身構える。

しかし淋珂が想像していたような言葉は桃清妃からは出てこなかった。


「だから、貴女は罪を償うの。私は少し特別でね、上にも少し顔が利くの。貴女はこの世界のために、今までに犯してきた罪による穢れを払いなさい。そのための命令を、私は貴女にあげる」


淋珂の前には、完全に上位存在となった(地仙)がいた。

その美しく可愛らしい優しい顔立ちからは想像もできない妖艶さ、神聖さが、地下室にいた淋珂を包み込んでいた。


「なぜ、貴女はそんなことをする?」

「その質問の意図を私は完全には理解できないけれど、貴女の純粋さはね、この国、いえ、私たちの住む世界そのものを変えてしまうのかも、そんな風に思っただけ。安心して、今のあなたには、その力は無いから。」

「何が言いたいのか分からない」

「分からなくて結構。それじゃ、そろそろお開きにしましょう。それと一応伝えておくと、私は薬を作る事ができるわ。体調が悪くなったりしたらおいで。」


桃清妃は手をパンッ、と叩く。

淋珂はいつの間にか元の豪華な部屋に戻っていた。


「桃清様、王様がいらっしゃいました。」

「ありがとう壬莉。それじゃあ、淋珂さん」

「え、あの」

「ふふっ、時間が経つのは早いものね」


淋珂は突然の状況に頭が混乱していた。

それを知ってか桃清妃は淋珂がしゃべらなくて済むように一人で話をしている。


「こんばんわ、桃清」

「お疲れ様です。随分とお仕事をされたのですね」

「このような時間になるとは思わなかったので、残念です」


劉は桃清と言葉を交わすと、淋珂を連れて桂花宮を出た。

内心淋珂がぼろを出さないか不安だった劉は、桃清の様子を見て胸を撫で下ろした。

そんな劉の心配もつゆ知らず、淋珂は桃清との話のことで頭がいっぱいだった。


「淋珂、泉喬には俺から外出の旨を伝えておいた。だが、一応謝っておけよ」

「なぜ?」

「会ってみれば分かる」


梅花宮の屋敷前でこっそりと劉に言われた言葉に、淋珂は図らずとも警戒を抱いていた。

一度無許可で外出しただけで、次は軟禁すると言いつけてきた泉喬を淋珂は要注意人物として見ている。

次に怒らせれば、おそらく実力的に負けることはないであろうが、殺されるかもしれないと何故か心のどこかで思ってしまうからだ。


劉が梅花宮の屋敷の扉を開くと、目の前には泉喬がいた。

椅子に座り、刺繡をしている。

その手には色鮮やかな糸で描かれた梅があった。


「泉喬、その、上手ね」

「・・・」


返事がない。

まるで淋珂のことが見えていないかのようだ。


「泉喬?」

「・・・」


泉喬は沈黙を貫く。

やがて劉がしびれを切らして泉喬に話しかけた。


「泉喬、お前の主が話しかけているぞ?」

「・・・。何か、一言、忘れてません?」


泉喬が顔をあげると微笑んでいた。

まるで棒読みの今の台詞が嘘のように。

否、目は一切笑っていない。

すべての感情を捨てた時の淋珂と全く同じ目。

淋珂はとっさに莉々に手をかけ、劉は「ひぃ」と声を漏らした。


「何か、一言、忘れてません?」

「「すいません!」」


二人は本能的に謝った。

そうしなければ明日がないような、そんな感覚がした。

自分が首だけになっている、そんな幻覚さえ見えた。


「分かればいいのです。淋珂様、桃清妃とお話になっていたそうですが、一体何のお話を?」

「えっ、それは・・・。」


「淋珂、なぜ答えない!」

劉はこそっと淋珂の手をつねり囁く。

その手は震えていて、何かにおびえているようだ。

淋珂は劉が何に怯えているのかは分かっていない。

言うまでもなく劉は泉喬に怯えているのだが、淋珂にはそれを感じ取るほどの余裕はなかった。


「せん!」


思いがけず仙人というところで、見えない何かにグッと口を摘ままれた。


「なんですか?」

「桃清様と、後宮のことについてお話していたのです!」


淋珂とは違う誰かが淋珂の声で話す。

淋珂は目を白黒させた。


「桃清(様)ね。まぁいいです。王様、お送りくださりありがとうございます。もしも淋珂様と話したいことがあるのなら、明日でお願いしても?」

「よろしいです」

「では、おやすみなさい」

「あぁ、お休み」


淋珂は背を小さくして屋敷から離れていく劉の影を見ていた。

それを見ながら心臓がどくどくとする。

今まで感じたことのないものだ。


「果たしてこれは(恋愛)なのか?」

「私が感じているのは、貴女への(憐憫)です。全くどうしてこうも頭が悪いのか。」


その後、淋珂は泉喬にみっちりと叱られた。


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