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月夜に舞う後宮の第四妃  作者: 栗鼠咲
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潜入

些細なことでもアドバイスをいただけると嬉しいです。

ざわめく夕餉会場。

桃清妃は星羅、壬莉に連れられて部屋へと戻る。

倒れている宿主はもう一人の女官に縛られ部屋の隅へと投げられた。

人払いをその女官が始めると、淋珂も戦況と共に部屋へと戻った。


「どうして、桃清妃が岩景にいるという事が分かったのでしょう」


泉喬は部屋へと戻ると、淋珂だけを部屋に押し入れ外に出た。

扉の外を見張っているのだろう。

その間に(陰)と淋珂は予想だにしなかった今の状況について、思案していた。


「内通者がいるとしか思えない」

「まぁ、そうでしょうね」


(陰)はサッと着替えると淋珂と同じ格好をする。


「相手がどのような方法で料理に毒を盛ったのか、こちらに調べる術はありません。ですが、まだそう時間が経っていない内に亥家へ向かえば、何かわかるのでは?」

「でも、大丈夫?」

「泉喬さんに、寝るという旨のお言葉をお願いします」

「あぁ、そういう事」


淋珂は頷き、泉喬にその旨を伝えた。

泉喬は、「そうですね、ほんっとに助かります」との返事をもらい黒の衣装を着て外に出る。

遠くの屋根に薄っすら人影が見える。

しかしそれが誰か分からぬまま、見失った。


「壬莉の仲間か?」


淋珂は警戒を一層強め、天翔孔へとやってきた。

裏口に合言葉を唱え内部へと入る。

今夜はどうやら営業しないことに決めたらしい。

倫仙と転婁が蝋燭一本を立てて淋珂を待っていた。


「なんだか、物騒になってきたなぁ」

「私が暗殺者だと気付かれてはいけない奴らが同じ人間を探してるんだよ」

「それはなかなか面倒臭そうですねぇ」


外は満月だ。

月明りで自分の居場所が割れる可能性が高いため、下手に行動できない。

しかも、あんなことがあったのだ。

桃清妃の女官も動いているに決まっている。

彼女たちに転婁という鍵を掴ませなかったことでどうにかなった筈だが、淋珂はまだまだ油断できない。


「凛、だったか?お前割と有名だったんだな」

「そうなのか?」

「本人が知らないってどういうことだよ・・・。まぁいい、本題は僕への依頼者の事だ。」

「依頼者?」


確か亥家が雇っている誰か、だったか。

確かにその情報があったほうが楽にはなるが、業者なら調べようがないだろうし。


「そいつは長くて太い針を使う」

「どうしてそんなことが分かる?」

「脅されて契約したから、首んとこに楊枝くらいあるんじゃないかってくらい太い針を突き立てられた。」

「だから針、か」


業者という言い方ではあったが、やはり同業者か。

恐らく、依頼主の傍にいるのだろう。

依頼主を捕縛するには、暗殺者を殺さなければならない。


「殺し、か」

「どうした?」

「何でもない」

「まぁ、言いたかったのはこれだけだ。念のために一つ、煙玉を渡しておくよ」

「使わないかもしれないぞ?」

「念のため、だよ」


淋珂は天翔孔を出て、倫仙に貰った地図を見ながら亥家の屋敷に向かった。

どうやら本当に金がないようで、建物の外には火一つもない。

屋敷内では明りがあるらしいが、非常に暗かった。


「先ずは、例のおじいさんか」


淋珂はこっそりと屋敷内の忍び込む。

一つおきにつけられた蝋燭の明かり。

其れだけを頼りに廊下を進む。

そして一つの部屋にたどり着いた。

中には例のおじいさんが、机に座り何かを読んでいる。

淋珂は慣れた手つきで老人の背後に周ると、反応もできなかった老人の頸元に莉々を付ける。

薄っすら切れた皮膚から血が流れる。


「誰だ・・・」

「転婁を、知っているか?」


老人の返事はない。

そして自分を襲ってくる人間もいない。

外れたか、と淋珂は老人に眠り薬を飲ませ部屋を出た。


亥家にいるのは、アノおじいさんと淋珂は見たことが無かったが倫仙が教えてくれた、亥瑯(がいろう)という青年。

亥家に引き取られた養子の青年。

老人の後を継ぐとされている青年だ。


淋珂はゆっくりと明かりのついている部屋に入る。

誰もいない。

ただ、この感覚は知っている。

誰かに、勘付かれ、嵌められた時のアノ静かさだ。


淋珂は咄嗟に前へ飛びつつ後ろを向き莉々を構える。

そこには莉々ほどの長さがある針を二本持った男が立っていた。

先程自分が立っていた場所には7本くらいの小さな針が中ほどまで刺さっている。


「どんな力で針を投げたんだ」

「そんなに力は入れてないはずだが?」


男は針をくるくると回す。

針の後ろに紐がついていて、それが指とつながっているのだ。

其れこそ振り子のように。

そして針は首と目の一の延長線上に刺さっている。

上から狙われていたのだろう。


淋珂は対暗殺者という戦闘を、あまりしたことが無かった。

ただただ強い護衛との戦いや、手柄の取り合いをすることはあったものの、このような戦い方をする人間とは特に戦ったことは少ない。


「殺さないようにやりあうのは危ないが・・・」


淋珂がぼそりとつぶやくと、頭に桃清妃の声が響いた。


「そいつは殺しても良いわ。たくさんの罪のない人を、金のために殺した咎人。あくまで命を大事に思って、命のために殺しなさい」


その声が終わったころには、淋珂は動き出していた。とにかく飛んでくる針を避け、莉々でいなして前に進む。

男は手に持っていた針での接近戦へと切り替え、淋珂の莉々での攻撃を受け流し始めた。


「その短剣に、毒は塗っていなかったのか」

「そんなことしたら卑怯でしょう?」

「卑怯でもなんでも、相手を殺せれば勝ちだろう?」

「自分であることの痕跡を残さない。いくら強くても、戦う武器が特殊なら、すぐに誰がしたかはわかる」


淋珂は莉々を針に沿って滑らせて紐を一本切った。

男の手から針が落ちる。

その一瞬のスキを淋珂は見逃さない。

淋珂は男のを蹴り倒し、うつ伏せに倒れたところで頸動脈を掻っ切った。

一瞬チクリと足が痛むが、それも気にせず男から離れる。


「何とか、返り血を浴びずに済んだか・・・」


淋珂はため息を吐く。

淋珂は血を触るのが嫌いだ。

別に血を見たり、臭いをかいだりするのは問題ないが、何の感情も持ち合わせていなかった時代から、ずっとそうだった。

生まれた時から、絶対に血を触りたくない。

他人の体液を、触りたくなかった。

無論、痕跡が残っていないのもほとんどが他人の呼気すら浴びたくなかったからという理由もあった。


「わざわざ後ろに回るのも、こういう時は楽じゃないなぁ」


淋珂は血を流して倒れている男の服に莉々を押し付けある程度の血をふき取ると、その先の部屋へと進む。

そこには青年がいた。

右手には石型爆弾を持っている。

背後の窓はあいていて、いつでも逃げられるようにしてある。


「こっちに近づいたら、投げるぞ」

「それが地面に落ちるのと、私がお前を捕まえるのと、どっちが早い?」


淋珂が足に力を入れて前傾姿勢になる。

そして前に飛ぼうとした途端、窓の奥に人影が見えた。

青年が驚いて床に石型爆弾を落とす。

その影は亥瑯と淋珂の頸を掴んで屋敷の内部に飛び込んだ。


「あぶねー」

「・・・?」


青年は気絶し、床に倒れている。

それを見下ろす淋珂。

先程男を殺した部屋に、全員で飛び込んだのだ。

と言っても淋珂は飛び込まされたが。

そしてどうしてか、淋珂は誰かの手の上にいる。

両手に抱えられている。


「誰だ・・・?」

「王様直属部隊、泉稜(せんりょう)、参上!」


泉稜と名乗る男は、淋珂の頬をひたすらにつついている。

何が起きているのか分からない淋珂は、何の行動もとれない。

というか、動きたいのに動けない。

男に何かされたのか?


「体が動かないのは、さっきの奴の針が足に刺さってるから。たぶん麻痺系の毒だろうけど」


泉稜は瓶をどこからか取り出し、その中身を淋珂に飲ませる。

というか、淋珂の口の中に瓶を突っ込み無理矢理喉に通した。

もちろん(むせ)る。

それからしばらくしてようやく体の自由を取り戻した淋珂は、思いっきり泉稜のソレを蹴り上げた。



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