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月夜に舞う後宮の第四妃  作者: 栗鼠咲
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自称天才、転婁

些細なことでもアドバイスをいただけると嬉しいです。

淋珂が山頂に着いたのは、地平線が僅かに白くなる頃だった。

泉喬が起きるまで、いつも通りで行くと残りどれくらいだろうかと計算しつつ、転婁を探す。

結果、転婁が居たのは洞穴の様な場所だった。


「分かりにくいな」

「随分な物言いの客だな」


洞の中には如何にも平凡という他ない男が座っている。

たった一つ炎が揺れているだけの洞は暗く、どの様に夜を過ごしているのか気になる程だった。


「貴方が転婁なの?」

「如何にも、僕が天才の転婁だ」

「自分のことを天才なんて言う人間にマトモなヤツはいない」

「言うねぇ」


ゆったりと腰を持ち上げ転婁は淋珂に近づいて行く。


「あんたも、石が欲しいのかい?」

「まぁ、別件だ」

「何の用だ?態々こんな所まで冷やかしに来る馬鹿がこの世には居ないと思っていたけど?」

「お前の客を教えろ」


淋珂の言葉を聞いた瞬間に転婁の目に鋭さが加わった。

明らかに警戒心を強めている。


「僕らみたいな仕事柄、そんな事は不可能でしょ?」

「教えてもらわないと困る」


明らかに面倒臭そうな顔をする転婁。

懐から石を五つ取り出すと、地面に並べ始めた。


「この中の一つは唯の石、その他は爆弾だよ。君が自分でこの中から選んで下に落とす。もしも石なら従うし、爆弾だったらサヨナラだね」

「この中から・・・」

「勿論少し離れたとこでね。こんな事で寝屋壊されたらたまったもんじゃぁない」

「イヤだ。第一私は貴方の爆弾をわずかな時間しか触ったことも無ければ一瞬見たことくらいしかない」

「イヤだ、なんて・・・。君は馬鹿なのか?せっかく情報をあげると言っているのに」


淋珂は一歩前に出ると適当に一つ石を掴む。

それがただの石なのか石型爆弾なのか、そんなことは分からない。

道具屋が相当な自信を持っているモノを暗殺者が見分けることなど出来るわけがない。


「今、ここに適当に拾った石がある。私は今からこれを貴方に投げる。貴方が避けても後ろの道具は消える。さぁ五分の一、どうする?一縷の望みに賭けるか、顧客を教えるか」

「はっ、まったく恐ろしいよ。この奥にある火薬の量は凄まじい。もしも爆発をすれば君もろとも土へと還るだろうね。その危険も顧みずそのようなことを言うとは」

「早く選べ」


実際のところ、淋珂にそんな脳は無かった。

ただ目の前に爆弾があったから脅した。

ただそれだけで、それ以上のことは考えていなかった。

淋珂からしたら勝手に解釈してくれた転婁に救われた気分ですらあった。


「しょうがないなぁ、なら条件付きで教えてあげる。僕が情報を教える代わりに君が僕を雇ってよ。仕事がなくなると困るんだよね」

「私はそのような道具を使わない」

「僕は道具屋だ。火薬を使ったいろいろな道具を作れる。そうだなぁ、今は構想しか建てられてはいないけど火薬で針を飛ばす吹き矢、とか?」


吹き矢を、火薬で・・・?


考えたことのもなかった。

しかし、そんな道具をどこで使うのだろうか。


「どう使う?」

「それを考えるのは君たち、使う側の仕事だ。作る側の人間には関係の無いことだよ」


平然と言い放つ。

よく言えば協力者が増える。

悪く言えば、正体を知るものが増える。

このような危険、今の自分に背負うだけの力があるのだろうか


「安心して、君が裏切らない限り僕は君の道具屋であり続ける」

「そうか」


情報さえ手に入ればどうでもいい。

基本的に仕事には莉々を使う予定だが、やむを得ず、という場合もあるだろう。

それと石型爆弾が桃清妃の脅威となることも無くなる。


「わかった。だが念のため、保険はかけておく」


淋珂は袖から小瓶を取り出した。


「今から貴方に毒を飲ませる。安心して、情報を言う前に飲んでもらえばいい。その上で、私は少しずつ解毒剤を貴方にあげる。これでどう?」

「君が約束を破ることもあるだろう?」

「それなら私も毒を飲むわ。貴方に渡すのとは違うモノ」

「解毒剤を僕が持つ、と?」

「そう」

「分かった、いいよ」


快く頷くと転婁は淋珂に聞いた。


「君の任務を、教えてくれないか?」

「そこまで話すほどの信用に値するものは?」

「そうだなぁ、僕の本名と出身村」

「そこまでの事を?」


転婁は頭をポリポリと掻くと、淋珂から毒の瓶を取り上げ飲み干した。

無色透明の液体で、うっすら粘り気のある液体。

それを恐れる事も無く飲み干す。


「君は飲まなくてもいいよ、僕は退屈してたんだ。この奥にある馬鹿みたいな量の火薬と引き換えに石型爆弾を大量に渡せ、なんて言ってきたやつに縛られるくらいなら」

「石型爆弾を大量に渡せ?誰が?」

「亥家のお雇いの業者っぽかったけど、あそこの()()()()()にそんなものを使うナニカを行う力は無いと思ってたけどね」


亥家、か。

食事会に顔を出した老人が転婁の言う()()()()()なら、確かに反逆をしよう等とは考えないだろう。

先ずいくら岩景の貴族だからと言って、都の貴族が来たというだけで媚びてくるような家に、大量の火薬を買う財力は無いはずだ。

後宮の事情には疎い淋珂だが暗殺対象の家の事情などを調べることも多々あり、そのような知識は持ち合わせている。

いくら淋珂と言えど、ただの馬鹿というわけではない。


「とりあえず、下に降りてこい。」

「僕に山を下るほどの体力はないよ?」

「は・や・く!」


転婁は頭をポリポリと掻く。

そして穴の中の道具を袋に入れ始めた。

鉢のようなものなど、初めて見る道具もあり淋珂はそれに見入っている。

空はもう白み始め、泉喬もそろそろ起きる時間だ。


「まぁいい。荷物がまとめ終わったら天翔孔に行け。話は付けておく」

「分かった」


転婁が返事をしたのを確認すると、淋珂は急ぎ山を下る。

そして天翔孔によって倫仙へ事情を伝え、(陰)のもとへ向かった。

案の定泉喬は起きており、(陰)は寝たふりでどうにかごまかしているようだ。

こっそり窓へ行くと、(陰)と目が合った。


しかしその矢先に泉喬が部屋に帰ってくる。

淋珂は急いで隠れた。

部屋に入ることは出来たのだが、それから泉喬が部屋を出る気配がない。

どうにかして(陰)と入れ替わらなければならない。

泉喬が席を立った一瞬のうちに、「厠に行くと言って」という。

淋珂は寝台の下に隠れている。


「泉喬、厠に行ってくる」

「どうぞ行ってきてください」


泉喬はこちらを向かずに答える。

と、すごい勢いで近づいてきた。


「と言うとでも思いましたか?」


いきなり顔を近づけてきて首筋の香りをかぐ。

強く肩を持たれたため、後が残りそうだ。


「あれ、淋珂様の臭い」

「いきなりどうしたの?昨日の夕餉に毒でも入ってた?」

「い、いえ・・・」


泉喬は首を傾げながらぶつぶつとつぶやいて部屋を出ていく。


「慌てて交代してよかったわね」

「はい。衣を少しずつ脱ぎながら脱いだところを仙術でごまかす、これがうまくいきました」


(陰)と淋珂は出発前にある程度の予測できる危機に対しての対策を考えていたのだ。

そのうちの一つに、まったく泉喬が()()()()()()()()()から離れないというものもあったのだ。


「やはり準備は怠らないことですね」

「ええ」


淋珂とい(陰)は、泉喬のいなくなった部屋で、ホッと胸をなでおろしていた。

それから、泉喬が帰ってくる間に転婁の事、転婁の言葉を伝える。


「亥家、ですか」

「あぁ、そうだ」

「きっと家の誰かが亥家を経由してどこかに石型爆弾を送ってるんでしょうね」

「だろうなぁ」

「淋珂様、そろそろお言葉を直したほうがいいですよ」

「あぁ、・・・そうね」


淋珂も無意識に以前のしゃべり方に戻っていたのを今自覚した。

初めはわざと昔のしゃべり方をしていたが、今では全くの意識外。

かなり危ないところだった。


「淋珂様、朝のお食事の準備が出来ました」


泉喬が扉越しに言ってくる。

それに淋珂は適当に返事をして、外に出ていく。

少しずつ、犯人に近付いている。

そう思った淋珂の朝食は、いつにもましておいしく感じられた。

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