王からのプロポーズ
初投稿です。
どのような小説を書こうかと思い、書きたいものを書きました。
アドバイスをいただければ嬉しいです。
あくまで中華風であって異世界だと思っていただきたいです。
暁華大陸でもっとも栄えている瞭国。
典型的な圧政が引かれており、王宮(天羅宮)へと仕官する者のみがその恩恵を受けている。
瞭国国王である緑凱への国民の好感度はひどく低く、暗殺を何度も試みられた。
それを退けてきたのは、唯一の息子である緑劉。
緑凱と王妃、明香妃の間に生まれた息子で、武芸の才に恵まれていた。
そして王位が入れ替わった今も、緑凱の圧政は続いている。
*
「緑凱を殺せ。」
瞭国の郊外、深哭地区にある暗殺者の村。
その村長の家で、一人の暗殺者が命を受けた。
その名は犀淋珂。
齢16にして村に伝わる暗殺術を極めた娘。
彼女が引き受けた仕事は、ただの一つも失敗は無い。
それどころか、一切の痕跡も残さない。
それほど圧倒的な(手)を持つ少女。
彼女は読み書きができない。
容姿は可愛らしいという他無い。
非の言いようのない、美しい顔。
しかし体には無数の傷跡があり、誰かに嫁入りすることなどとうに見込めない程だ。
彼女には、殺ししかないのだ。
自分が生きているということを、自分が他人に認められているということを確認する作業、それが暗殺だった。
「期限は、ありますか?」
ぼやぁとした声で淋珂が質問をする。
それに村長は頭を横に振ることで答えた。
そして淋珂はまた準備を始めるのだ。
自分の存在意義を確認するために。
自分が生きているのだということを確認するために。
淋珂にとって、100里という距離は苦にもならない距離で村から出て僅か4日で走り抜けてしまった。
その間一切の食事をせずに、川や池の水を飲むだけで済ませていた。
そしてあっという間に天羅宮についてしまった。
まだ日が高い。
今殺しをするのは、さすがの自分にも難しい。
そう考えた淋珂は、天羅宮の下見をしておくことにした。
怪しまれないようにこっそりと。
抜け目ないようにしっかりと。
残りの時間は自分の愛用している短剣(莉々)の磨きに充てる。
少しかすんでしまった莉々が徐々に輝きを取り戻していくのを見ると、自然に笑みが零れる。
淋珂は幼いころから感情、というものを教わらなかった。
否、感情というものに触れてこなかった。
暗殺対象がなぜ殺される直前に嘆くのか。
なぜ人間が人間を殺すのか。
自分の存在意義である殺しに対してすらもかすかに疑問を持っていた。
しかしそれは殺しに不要な感情。
それでも淋珂は自然に、本能的に莉々を磨くことに幸せを感じていた。
「月が上った。そろそろ時間。」
早速淋珂は行動を開始した。
下見の段階であらかじめ調べておいた、見張りの少ない厩裏。
そこの塀を乗り越え身を隠す。
そして衛兵がいなくなったタイミングで天羅宮に潜入する。
西の国々で使われているというランプと呼ばれる光源で照らされた天羅宮に暗所は無く、どこを見ても明りがあった。
「どこに隠れても気付かれるのなら、気付かれていない内に殺す。」
一直線に廊下を駆け出した、足音は立たないように丁寧に最大限の速度を出した。
そして緑凱の寝室に到着した。
不自然なほど道中誰にも会わずに済んだことが、頭の片隅に強い違和感として残っている。
胸が異様にざわざわとして足が震えた。
今まではこんなことがなかった、そんな強い感情が淋珂の動きを止める。
「もしかして、これは罠...?」
もしそうだったとしても今の私に逃げ場はない。
震える足に強く力を入れて、戸を引いた。
赤と黄金を基調とした広い空間が目の前に現れる。
西の特産品や瞭国の主力製品が所狭しと置かれ、寝台の近くは書物で埋まっている。
「おぉ、今夜も客人か。」
不意に背後から声がした。
この部屋に入るまで、淋珂はほかの人間の気配を感じ取れていない。
淋珂は胸のざわざわをこらえることに神経を使ってしまい一瞬気が緩んでしまったのだ。
「へぇ、珍しい刺客だなぁ。ただ、父上を殺すことは不可能だ。」
声の主は瞭国現国王、緑劉だった。
しかし相手が誰であろうと関係ない。
仕事の邪魔をするものは排除しなければならない。
淋珂は反射的に口封じへと動いた。
軽く地面を蹴って劉の懐へと潜り、莉々を振るう。
しかし莉々は空を切るだけだった。
淋珂の攻撃をいとも簡単に避けた劉は腰に差した剣を抜き、応戦を始めた。
淋珂よりも長い手、そして剣という圧倒的なリーチの長さを利用し、劉は淋珂を追い詰めていく。
そこで淋珂は戦法を変えた。
懐に入れていた竹筒を取り出すと中に毒針を入れた。
「さすが、その身体でそれだけ戦えることはある。そうだな、いくらでも異なる攻撃手段を持っておくことは必要だよな。」
「うるさい。」
淋珂は劉の首筋を狙って針を放つ。
それは寸分たりともずれることは無く吸い込まれるように劉の首へと向かった。
「おぉ、咄嗟の吹き矢でこの精度か。なかなか面白い奴だ。」
剣を持っていない手の二本指で吹き矢の針を取る劉。
淋珂は少しずつ自分が窮地に追い込まれていることを自覚した。
そこで劉が突拍子の無いことを言い放った。
「お前、俺の側室にならないか?第四妃として俺のそばで暮らしてみないか?」
淋珂は劉が何を言っているのかが分からなかった。
今殺し合いの真っただ中に自分は求婚されているのだ。
一体何を考えているのか、それで頭がいっぱいになってしまった。
「隙あり!」
両手を劉に捕まれた。
無理矢理ほどこうとしても不可能だったため、劉の次の動きを待つことにする。
「どうだ、良い提案じゃないか?別に俺は父上が殺されようが正直どうでもいいんだ。というか今のこの腐りきった国を変えるに、父上には早くこの世から消えていただきたいのだ。ここで提案だ。俺はお前が父上を殺す邪魔はしない。お前が父上を殺したということも隠してやろう。その代わりお前には第四妃として後宮に入り、第一妃桃清を守ってほしいのだ。」
この提案は、淋珂にとって今のこの状況を打破するための最善の策のように思えた。
「しかし、私は字を書けぬ。体中に傷跡がありとても後宮にいてもいい容姿ではない。」
「いいや、そんなもの隠しておけば何とかなる。字なら俺が教えるし、侍女兼教師も付けよう。そして後宮に入ったら、父上を殺す許可をやる。」
「私が緑凱を殺したら、そのあとはどうなる?」
「どうなるかは知らないが、おそらくお前は父上を殺すまでに今のこの国が腐る原因を目の当たりにすると思う。お前が誰かに命令されてここへ父上を殺しに来たということは、容易に想像がつく。しかし後宮に入ると、自分の頭で何が最善か考え行動しなければならない。それが殺しであっても同様だ。そしてお前は私の桃清を守ることを最優先に生活をするのだ。」
淋珂は考えた。
任務の遂行にはどのような選択肢を選べばいいのか。
多くの危険を背負いながら緑凱を殺し、村に帰って殺しを続けるか、後宮に入って緑凱を殺しそのまま緑劉の第一妃桃清の守り手になるか。
「もしも断るのなら、俺がここでお前を殺す。」
急に劉の雰囲気が変わった。
殺気が肌に鋭く刺さる。
明らかに自分の上位存在だということを本能的に感じ取った淋珂は、劉の提案を飲んだ。
「任務を果たせず死ぬくらいなら、お前の駒になってやろうじゃないか。」
「話が分かる女は好きだぞ。景躁、すぐに婚姻の手配を。」
「了解しました。」
いきなり現れた景躁という男は劉の前に跪くと深く礼をした。
淋珂はこの時、まだ気が付いていなかった。
瞭国の後宮に渦巻く禍々しき欲に。
そして劉の思い描く壮大な陰謀に。