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※異世界経済王※  作者: Negimono
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第一話 

 初めましての方は初めまして! そうでない方はまた会ったな! Negimonoです!

 今回から新作の ※異世界経済王※ 略して界経を始めます! 伊勢ロブと同時進行でやっていくのでよろしくどうぞ!


 それと、異世界人は四話まで出てきません。それまではエコノレ君の独壇場ですね。異世界系をご所望の方はもう少しお待ちを。

 世界というのは、いつも俺にとって理不尽に動く。俺の行動が上手く行ったことは少ない。まるで世界が俺の意志を否定するように、決まって不幸な結果に終わるのだ。


 しかし、今日だけはそうもいかせん。今日は俺にとって一番大勝負の日。失敗してなるものか。


「父上! 行ってきます」


 部下とともに剣術の訓練をしている父に一言声を掛ける。父はこの地の領主にして、国家のために戦う騎士である。

 彼は俺と違って昔から身体が強く、今年で45になるというのに若い剣士5人を一人で相手していた。


 相変わらず強いな父は。剣の腕は国王の近衛兵にも匹敵するらしい。客人として来た首都側領主の世辞だが。


 対して俺は生まれたときから身体が弱く、身長こそ高いがとても剣術ができるような人間ではない。

 弓術や槍術など、高い身体能力を要求される武術はひとつも習得できていないのだ。


 それ故、本来魔獣から民を守る領主の息子でありながら、父の後を継げずにいる。我が家にはもう一人息子がいて、領主は弟が継ぐことになるだろう。


 だから今は顔見知りの学者連中と魔法の研究をしていた。俺には魔法の才もないが、書類にまとめるのは得意だ。


 しかし今は学者の制服ではなく外向き、それも求婚をするためのきっちりとした礼服である。

 長い赤毛も後ろでまとめ、眉毛とひげは剃ってある。身なりは充分なはずだ。


 そう、俺がこれから向かうのは一人の女性の元。領主の息子として騎士の任を継ぐことは出来ないが、せめて別の名家とのつながりを作るのだ。


 あらかじめ用意させておいた馬車に乗り込み、そう遠くない旅路を急ぐ。


 しかしかなりの無茶を言われたものだ。俺の家はそう大きな領地を持っていない。兵も対して多くはなく、父を除けば実力のある騎士も少ない。


 対して相手は超がつく名家、高い財力を持つ豪族の娘だ。彼女の家は領主家ではないが、場合によっては領主よりも高い権力を持つ。


 彼女とは家が近いこともあって知り合いだが、それでも俺を夫にするのは許してくれないだろう。何より、彼女の父がそれを許可しない。


 そんな相手に、今から求婚して関係を築けだと? 父も無茶を言ってくれる。そういうのは弟の役回りだと思っていた。


 弟は父に似て頑丈な身体を持ち、高い魔力と戦闘能力を有している。領地を守り民から慕われる、領主にふさわしい男。

 俺より何倍も優秀で、ぜひ夫にと領主連中が縁談を持ちかけてくるのだ。


 しかし件の豪族は縁談を持ちかけてこなかった。

 つまり向こうは弟に興味がないということで、ついでに言えば俺にも興味がないということだ。我が家にも興味がないのだろう。


 だが父は、向こうとどうしても関係を築きたいのだ。そしてそれは、俺も同意見である。


 現在我が領地は危機に瀕している。12年周期で起こる寒冷化によって作物が激減、賊が増え、これに対応するため兵を派遣。さらに農民の支援のため、他の余裕のある領地から作物を買い炊き出しを実施。


 ここまでは寒冷の度に起こる出来事だったが、今年はいつもより遥かに賊が多かった。向こうも戦い方を覚えてしまったのだろう。兵の消耗は激しく、軍費はかさんだ。


 幸いにも事態は既に収束したが、このままでは領地経営にかなりの不安が残る。今年の冬は例年よりも厳しくなるはずだ。


 そこで俺が豪族の娘と婚約することで、この危機を乗り越えようというのだ。

 弟はまた別の女性を嫁に迎えることが既に決まっている。というか、領主の息子であるというのにこの歳で婚約者が決まっていないのは俺くらいのものだ。


 何とも気が重い。俺が失敗すれば、多くの人が苦しむ。きっと父や弟にも誹りを受けるだろう。


 しかし俺の気分を最も落ち込ませているのは、真に俺が相手に惚れている、ということ。そして向こうは俺の求婚を断るだろうことだ。


 ほぼ確定的にフラれるとわかっているのに、俺は彼女に求婚しなくてはならないのか。

 出来ることならこのままずっと片思いでいたかった。答えなど聞きたくはなかった。


 だがこれは俺の義務。領地に大した貢献も出来ていない俺へ課せられた使命というものだ。


 例え求婚に失敗したとしても、最低限豪族に我が領地のことを意識させる程度の働きはして見せる。

 そしてあわよくば、彼女にも俺のことを意識させる。


 そんなことを考えながら馬車の戸を開く。季節は秋で、戸から入り込んできた風が一気に冬に近づいて行ったのを感じさせる。


 外には広い田畑。主食の稲も小麦ももう刈り取られている。

 寒冷化があったのは去年。まだ完全に回復してはいないが、収穫は順調なようだ。今年さえ乗り切れば、来年には状況が安定するだろう。


 そしてあそこに見える建物が……ッやっべぇ! 彼女の邸宅じゃねぇか!

 あれ、こんなに近かったっけ。馬車に乗っている間求婚の言葉を考えておくつもりだったのに!


 まずいな、もう門まで着いてしまう。

 戸を開いていると門番が覗き込んできて、俺の顔を見るなり門を開けた。


 ヤバいヤバい、門番とは顔見知りだった。事前に連絡も入れていたし、ことがスムーズに進み過ぎている。

 時刻は予定通り、彼女もすでに応接室で待機しているはず。言葉を考える時間がない!


 あれよあれよという間に屋内に入り、従者に案内されている。

 意味が分からん。どうしてこうなった。まだ気持ちの整理がついてねぇ!


 おお、このドアを開けたら彼女とお義父さんがいるのか。

 急にドキドキしてきた。彼女と会うのは久しぶりだからな。


 覚悟を決めろ、男だろ。

 大丈夫、ただ一言愛を伝えて、玉砕するだけだ。後のことは考えなくていい!


「し、失礼します!」


 軽くドアを四回ノック。返事が返ってきたのち、いよいよ俺はその扉を開いた。

 思わず声が裏返ってしまったが、この際多少かっこ悪いところを見せても知らん。


「お久しぶりです、パトロリーアさん。それにメディケユート様も」


「うむ、久しぶりだな、エコノレ。要件は聞いている。まあそこに座ると良い」


 一言礼を言い、用意されたソファに腰を掛ける。見つめるはパトロリーアの瞳一点だ。


 短い金髪を丁寧にほぐし、彼女の小顔が際立つように調整されている。瞳は髪と同じく金色で、色彩はかなり薄い。このあたりだと中々見ない色だ。


 身長は俺の四分の三程度。その童顔も相まって、実年齢よりもかなり幼く見える。

 しかし自分の考えをしっかりと持ち、豪族の父にも意見をする精神を持っている。力強い女性だ。


 正直めちゃめちゃ可愛い。今すぐ抱きしめたいほどに。だがそれをしてしまえば俺の運命は決まる。

 まずは言葉を発する前に一口、紅茶を口に運ぶ。


「……事前にお伝えした通り、私エコノレは、パトロリーアさんに求婚を申し込みます。メディケユート様、娘さんを私の嫁にいただけないでしょうか」


「ふむ、それはワシが決めることではない。パトロリーア、自分で決めなさい。今後の家間の関係については考えなくていい」


 メディケユート様は相変わらずだ。彼女の意志で決められないこと以外、ほとんど全てを娘の思うままにしている。

 息子には婚約者を決めているが、娘には意志を尊重するつもりらしい。


「5億」


「へ?」


 彼女は今、なんと言ったのか。まさか俺の聞き間違いではないか。


「5億、用意してください。それが出来なければ、私は貴方の求婚を受けることは出来ません」


 なん……だと?

 5億、用意しろだと。彼女の家は巨万の富を持つ豪族。今更そんな金必要ないはず。であれば……。


「玄関までお送りします。さあ、こちらへ」


 もう帰れと、そういうことか。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! もう少し話をさせてください! 私は……!」


「お送りいたします」


 せめて我が領地の支援だけでも頼めないかと話を続けようとするも、強い語調の彼女に気圧されたじろいでしまった。

 そして一瞬でも引いてしまえばもう立て直せない。


 俺は彼女に導かれ、ソファを立ち上がって玄関まで歩いていく。

 完全に放心状態だ。もう何も考えられなくなっていた。


 あっさりとしすぎている。こんなにも早く退場させられるとは思っていなかった。せめてもう少し、彼女と話をさせてはもらえないのか。


 ハハ。あまりに早く出てきたために、談笑していた門番と御者も驚いているな。


「あの! エコノレ、お身体に……お気を付けを」


 俺が馬車に乗り込むと、最後にパトロリーアが声を掛けてくれた。見送りの決まり文句か。


 はあ、憂鬱だ。父にはなんと言われるだろうか。領民にはなんと言われるだろうか。少し考えるだけで気がドンドン沈んでいく。


 この短い帰路が、もっと長く続いて欲しいと願ってしまう。



~~~~~~~~~~



「フィリオツァーレ様、今の息子さんですか? ぱっと見女性的にも見えましたが、良い筋肉が付いているし高身長だ。何よりとんでもない魔力量です。彼に後を継がせないんですか?」


「ん? ああ、アイツはダメだ。病気なんだよ。体外に魔力を放出できない病気。体内の魔力が一定量を超えたとき、奴の身体ははじけ飛んで絶命する」


 あまりに衝撃的な事実に、先程まで剣を交わしていた部下は目を見開く。

 体内に魔力を溜め込む奇病は、そう多い物ではない。先天的なものだ。そして彼らは例外なく、若いうちに命を落とす。


「最近やっと成長が止まったからな。まったく、無駄に大きく育ったものだ。身体が大きければそれだけ魔力の貯蔵量も増え、奴が死ぬのも遅くなる。アイツ、来年くらいには死んでいるさ。そして奴が求婚しに行った豪族の娘は、かなり昔からこのことを知っている。求婚を引き受けはしないはずだ」


「な、それじゃあ彼があそこに向かった理由は!?」


「当然、見舞金狙いだ。元々付き合いのある家。求婚してきた男が死ねば、多少の見舞金は送ってくるだろう。今年はまだ耐えられる。だが借金は多い。来年はもう耐え切れん。アイツが死ねば、それで全て解決するのだ」


 エコノレはまだ知らない。実の父が心の底に秘めたおぞましい思惑を。

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