一筋の光
「…そう、定時連絡お疲れ様、また次の時間によろしくね」
黒猫の女性は通信を切り、ベッドの上で寝ている女性を見て小さく息を吐く。
アエリアがルノアールの蘇生をした日から一年の月日が流れていた。
早いものでこの世界に来てから約二年…《SL》からのメンバーはすっかりこの世界に馴染んでいた。
ルノアールは勇者という肩書から解放されると千棘を勇者と認め、芋づる式に【ダフネ】のリーダーが千棘だと分かり、メンバーは勇者の仲間としてかなりの融通が利くようになった。
ルノアールとフィーヤは一緒に訓練をしながら学校に通って力を付けてもらい、学校を卒業した彼女達はより一層訓練に励んで魔法戦闘を尖らせてユリスと互角ぐらいの実力になっており、彼女達は冒険者となってフェイナの指示で魔王復活を阻止する為に【ダフネ】のメンバーと一緒に各国に散らばっていた。
まず、六月一日 鏡が向かったエルフの国、アンバーウッズ森王国。
村や集落というほど規模は小さくなく、領土は王都の一つしかない…更には王国というが王はいても貴族はいない…簡単に言ってしまえばエルフをまとめる長的なものが王だとか。
自然を壊さない、自然と一心同体と言うべき国のあり方は他種族を一切受け入れず、森の恵み、川の恵だけで生活をしており、一切の外交を閉ざしている国だった。
鏡の度重なる調査のおかげでこの国は魔王復活の儀式を行っているという情報は出てこなかった…が、鏡が調査し始めてからかなり強い魔獣が大量発生しており、鏡はまだ国を離れる事は出来ていなかった。
アンバーウッズ森王国は魔獣避けの結界で守られているのだが、それすらも突破して来てしまうとの事でこのまま放置しておくと国が亡ぶ可能性があるから少しの間防衛をするとの事。
次にユーランが向かったドワーフの国、エルドアース鉱王国。
この国は鉱石が豊富に採れる鉱山地域に建国しており、何もかもが金属製…鉄と油の匂いが充満し、鉄を溶かす為の炉で温度がかなり高く、別世界の住人だったユーランにはとても住み辛い国だった。
エルドアース鉱王国もいたずらに領土を広げるのではなく、山を切り崩し、その中に国を作るというかなり特殊な国でトンネルが至る所にあってユーラン曰くモグラになった気分だそうだ…。
その国でもやはり最近異変が起こる様で王都の地下にはカルフィード共和国と同じように鉱石が豊富に採れるダンジョンがあるようだが、ダンジョンの魔獣がかなり凶暴性を増して外に出てきてしまうという事件が頻発していた。
アンバーウッズ森王国の様に王はいるが貴族はおらず、この国の王は頻繁に市民と交流をしている為、王というよりみんなの相談役として誰でも接する事が出来る王との事。
武器、防具を求める他種族もいるので他種族に偏見は無く、封鎖的という事は一切ないそうだ。
ユーランも早々に情報を集めて戻ろうとした時に王が『武具大会』の話を知っていたようで、情報と引き換えに魔剣の作り方を教えている為しばらく滞在すると言っていた。
そして双子の片割れ、姉のエルリは海岸沿いにある海底トンネルを通り、アトラティア海底王国に向かっていた。
アトラティア海底王国はその名の通り、海の中に結界を張って海水が入ってこない様にした後に建国した国で様々な種族が共に暮らしていた。
ここではセイレーンやマーメイド、魚人、その他諸々の知性がある魔獣と共生しており、かなり平和的な国だった。
知性のある魔獣…ここでは水棲族と呼ばれており、人として暮らしていた。
だが平和的な国と言っても問題は起こるもので他国から来た人は水棲族を見て驚いたり、剣を抜いたりする人も多く、理解がないと問題が起きるのも当たり前だったのだ。
だからそういう者は入国の際にしっかりと注意事項を伝え、それでも問題を起こした者は即座に処罰というかなり厳しい規則が確立されており、この国に入って無事に出てこれる人は一握りだそうだ。
そんな中、エルリは特に問題を起こす事もなく調査をしてくれていたが…国が海底にあるという事で魔道具で光は確保されているがやっぱり薄暗く、塩を含んだ空気、更には磯臭さや生臭さがあってエルリは耐えがたいと愚痴を零していた…。
ここでもやはり知性の無い魔獣が活発化しており、それを討伐する為に軍がよく動いているとの事だったが水棲族の助けもあり特に問題はないとの事だった。
ただ気になるのは今まで何も問題を起こしていなかった水棲族がちらほらと犯罪行為をするようになっており、事情を聞いてもそうしないといけない気がした…というよくわからない供述をしているとの事。
もしかしたら魔王復活にあたって思考が一部暴走気味になってしまうのではないかという懸念もあるが、どれだけ調べても魔王復活を企てているという情報は見つからなかったようで今はアズマ国に向かっている最中だった。
双子の片割れ、弟のルエリはドルファニス地下王国という国に向かって姉と同じような愚痴をこぼしていた。
地下だから熱が籠りやすく、地中に含まれた水分も相まって凄くジメジメしているし土の中に住んでいる虫などがよく出るという事で…。
ドルファニス地下王国はアトラティア海底王国と同じように知性のある魔獣と共生しており、犬型の魔獣コボルトや猿型の魔獣エルダーエイプ等の知性ある魔獣を土棲族と呼んでおり、平和的な国との事。
だがここも同じく、土棲族の犯罪が頻繁に起きていたり地震等で外に出る為の通路が埋まりやすくなっていたりと異変が起きていた。
それでも魔王復活の企ては一切感知出来なかったのでエルリと合流してもらうべくアズマ国に向かってもらっている。
ユリスは山をそのまま国としているセレンティス王国で情報収集をしてもらっていた。
山をそのまま利用している為、かなり高低差があって移動が大変だがここでも翼を持つ魔獣、ハーピィやグリフォン等と共生しており、ここでは空棲族と呼ばれていた。
空棲族の手を借りなくても済むようにエレベーター式の滑車がいくつもあり、それが止まっている光景は一切なく、いつも何かが上から下へ、下から上へと流れ続けているそうだ。
最近では空を飛ぶ知性の無い魔獣が頻繁に襲撃してくるという事があり、住民も魔王復活が近いと怯えていた…。
だがここにも魔王復活を企てているという情報は一切無かった為、ユリスにはファーレン聖教国に向かってもらっていた。
そのファーレン聖教国にはルノアールとフィーヤもおり、一緒に情報収集をしてもらう予定だ。
ルノアールとフィーヤも情報は送ってくれているがちょっと前まではただの学生、今に至っては駆け出しの冒険者の為、深い部分の情報は探れないと言っていたのでユリスに同行してもらう事にした。
この三人は今も目覚めないアエリアの事で喧嘩してから久しぶりに顔を合わせるが、遺恨も解消しているはずなのでうまくやってくれるとフェイナは信じていた。
そんなフェイナとアルメラは獣人の国、ビルスト獣王国で情報収集をしていた。
ビルスト獣王国は獣人族中心の国で強い者がえらく、弱い者は立場が弱いという国で強者の中には弱者を虐げる者もいるがその逆もいる。
だからもし、魔族の強さを正としていたらここが帝国の次に怪しかったのだが…特にそう言う事は無い様だった。
どこもかしこも戦闘戦闘、血と汗の匂いが充満する国だが死人はほとんどいなかった。
国での戦闘はちゃんとしたルールがあるようでそのルールに乗っ取らなかった者は即死刑を言い渡されるらしく、少ない死者はそのルールを破った者とそのルール無視の戦闘した者だけだった。
唯一魔族との関りがありそうな人物もいたが、ただ単にシドフィア帝国が贔屓にしている商会でただの良質な肉の提供というものだけ。
その裏取りなどもしっかり行ったうえで問題ないと思ったフェイナとアルメラはアエリアが眠る屋敷に戻っていた。
バックアップ組のノエルとシエルはシドフィア帝国をけん制するよう王族と綿密な打ち合わせをしながら、カルフィード共和国や海上王国アクエリアの様子を探ってもらっていた。
生産者ギルドマスターのフリエスには各国の武器、防具の流通や金の流れ等を確認してもらい、戦争の準備を進めている国があるかどうかを確認してもらっている。
冒険者ギルドマスターのアリエスには各国でどういった魔獣の討伐依頼が出ているのか、生態系がどうなっているかなど、魔王復活の予兆を確認してもらっている。
アクエリアの女王、アイシャ・フォン・セルベレス・アクエリアと精霊女王カレンにはエルラシア国王と共に帝国へのけん制を行ってもらっており、魔王復活の動きをかなり抑制してもらっているが…各国が帝国こそ悪と思える決定的な証拠は未だに挙がっていなかった。
ライゼンは変わらずサリィにアタックしているようだがあんまり進展しておらず、今回の事に巻き込んでせっかく腰を落ち着けたのにまた動かないといけなくなってしまわないよう情報は伝えていなかった。
もうこの際、帝国に攻め入って元凶を取り除いたほうが早いんじゃないかという事を国王らに進言していたが、やはり他国の目もある為そう言う事は出来ないとの事。
そんな何も成果が実らない一年を過ごしたが、アエリアは一向に起きる気配はなかった…。
「はぁ…ちーちゃん髪伸びたねぇ…前髪がかなり長くなってるし、一年経ったっていうのがよくわかるよ…」
アエリアの前髪を目にかからない様に除け、見つめていると扉からノックの音がしたのでどうぞと声をかけると可愛らしい黒髪と白髪のメイド二人が入ってきた。
そしてこのメイド達は特徴的な外見をしており、黒髪のメイドは背中に真っ白の天使の羽、頭には天使の輪、白髪のメイドは背中に悪魔の羽と槍の様な見た目に鞭の様にしなる黒い尻尾、頭には悪魔の角があった。
この二人は《SL》のガチャアイテムで召喚したハウジングメイド兼屋敷の防衛を担ってくれるメイドNPCだった。
白髪の悪魔メイドはデル、アエリアの身の回りのお世話等をしており、黒髪の天使メイドはエル、屋敷の掃除と食事などを担当してもらっていた。
その二人が同時にこの部屋に来たという事は…
「フェイナ様、アエリア様の身の回りのお世話を致します」
「フェイナ様、お食事の準備が整っております。既にアルメラ様は席に付いておりますのでお迎えに上がりました」
「デル、エル、ありがとう」
そう感謝を伝えてデルにアエリアを任せ、エルについていく。
少し大きめな部屋のサイズに合わせたテーブルがあり、大体20名程が一緒に食事出来るスペースにちょこんとアルメラが座っていたが、その目の前にはその身体にどうやって入るんだと思わせるほどの大量の食事が置かれていた。
その隣には一般的な量の食事が置かれていたのでアルメラの隣に座り、
「お待たせアルメラ」
「大丈夫、アエリアのとこにいたんでしょ?」
「うん、全く目を覚まさないなーって」
「あれから一年、起きる気配ないもんね」
「そうだねー…」
そんな事を言いながら二人ともいただきますと声を揃え、食事を始める。
フェイナとアルメラの後ろにはエルが静かに立っており、飲み物が無くなれば注いでくれている。
「それにここ最近の活動は全然成果現れていないし、ピュリピュリがいるはずの仮称雲上国も何処を漂ってるかわからないし…」
「成果はちゃんとある。帝国と聖教国にアズマ国以外は魔王復活の疑いが晴れた。それはちゃんとした成果だと思う」
「まぁ確かにねー…ほんとはちゃっちゃと帝国潰したいのに…」
「ほんとそれ。それさえ終わらせちゃえばピュリエットとアエリアの事だけで済む。隠密で行動しても今圧力をかけてるエルラシアとアクエリア、シルトが他国から疑われるし、国の一番上、皇帝も絡んでいるっていうのが本当に厄介」
「そう!それなのよ!アクエリアの時はアイシャがこっち側だったから特に問題なかったけど、普通なら王族襲撃で死刑確定だもんね…」
「聖教国とアズマ国が特に問題ないなら後は王族らに任せてピュリエットの捜索を一番に、アエリアの事を二番にしてもいいかもね」
「うん、そうするつもりー。だから今は聖教国に転移で向かったユリスと、まだ誰も行っていないアズマ国に向かっているエルエリの活躍次第かなぁ」
「足の速い二人ならもうそろそろ到着するんじゃない?」
「そうだねー、それが終わったら一度こっちに来てもらって転移出来るようにさせてもらうから、私達もアズマ国にいってみようか?」
「いいと思う」
「よし、ご馳走様、エルありがとうね」
「ご馳走様、エルありがとう」
「フェイナ様、アルメラ様、綺麗に食べて頂きありがとうございます。片付けはこちらで行いますのでどうぞごゆるりと」
エルは食器を片付けに部屋から退室し、フェイナとアルメラはアエリアの寝ている部屋に向かうと…部屋の中から荒い息遣いが扉越しで聞こえる。
「ふへ…アエリア様…へへ…へへへ…」
その声を聞き、二人は顔を見合わせながら小さく息を吐く。
「…エルとデルの役割変えたほうがいいんじゃない?」
「それがねー…一回変えたんだけどね?デルは全然料理できんし、家事やらせるとすぐ何か割ったりするから…」
「…そう…」
項垂れながら入室するとデルがアエリアの上に四つん這いになりながら髪の手入れをしていた。
「ハッ!?…フェイナ様、アルメラ様、お帰りなさいませ。只今、アエリア様の御髪を整えておりました、すぐに終わらせますのでもう少々お待ちください」
「はいはいー…あんまりちーちゃんに変な事しないでよ?」
「わかっております、フェイナ様」
そう言ったデルは四つん這いにならずに隣に椅子を置いて髪を整えていた。
それを遠目に見ながら書類が積み重なっている席に腰を掛け、アルメラは近くの椅子を持ってきて同じ机を囲む。
「ふー…ここの書類もだいぶ増えたね…ちょっと整理するから手伝ってもらっていい?」
「いいけど二人じゃ無理、エルとデルにも手伝ってもらうのがいい」
「そうだね、デルー!終わったらエルを連れてきて私達と書類整理してー!」
「かしこまりましたフェイナ様、丁度終わりましたのでエルを連れてまいります」
デルはフェイナの指示を聞き、エルを呼びに行く。
二人は書類を片付ける為のカテゴリー分けをしていた所に通信が入る。
『フェイナ?私とルエリは今アズマ国に着いたから、宿を見つけたら一度屋敷に戻ってフェイナ達を連れて転移出来るようにしたら適当に情報漁るね?』
『ん、エルリもルエリもお疲れ様、よろしくねー』
…
「今、エルエリがアズマ国に着いたって。宿見つけたら私達をアズマ国に連れてってくれるって」
「そう、カテゴリー分けしておけばエルとデルでも片付けれるし、ちゃっちゃと終わらせよ」
「りょーかい!」
二人は作業の手を早めていくが、手を止めてしまう事が起きた。
『フェイナ?ユリスだけど』
『ユリス?定時連絡じゃないって事は何かあったの?』
『神の声が聞こえる神子の聖女って呼ばれる人がいるらしくて、滅多な事じゃ表に出てくることはないんだけど…今日顔を出すって話を聞いて神殿に来てみたんだけど…』
『うん?』
『全ての呪い、病、身体の怪我、精神的なものも全部治す事が出来るんだって…』
『へぇ、凄い人がいるんだね?』
『うん、ルノとフィーと一緒に見ていたんだけど、二人でも知らない魔法を使って実際に目の前で治したの…もしかしたら…神格魔法なのかなって…もしかしたらそれでリアが目覚めたりしないかな…?』
『神格魔法!?…可能性はある…ユリス!!その神子の聖女っていう人の情報集めておいて!!魔王復活の情報は一旦優先度下げていいわ!!こっちは何時でも動けるよう準備しておくから、情報掴め次第、通信ちょうだい!』
『わ、わかった!』
…
「アルメラ!もしかしたらだけど、ちーちゃんが起きるかもしれない!」
「なら今すぐにでも向かうべき」
「表に全く出ない人らしいからユリスに情報を集めてもらってからにするよ。すぐに行ってもどうせ相手にされないから、今はすぐ動けるように準備だけするよ!」
「わかった」
二人は部屋に入ってきたエルとデルと一緒に部屋の片づけをし、すぐに聖教国へ向かえるように準備を整えていく…。




