嫉妬心と女の子の尊厳
学術都市ティクス魔法学校校内の訓練場に鏡、千棘、ルノアールを含めた生徒20名が集まっていた…。
屋外の訓練場なのだが外から見えないように障壁で守られており、障壁を見る限りかなり頑丈な作りになっているようでちょっとやそっとじゃ壊れない物に仕上がっているように見えた。
訓練場の広さは複数個所で戦闘が出来るようにかなり広くて『武具大会』のフィールドより少し大きく、足元は石畳になっていて頭などを強打しても大丈夫なように魔法がかけてあるようだった。
「よーし、お前らやっと来たな。んじゃこれから戦闘訓練を始めるが…本来なら二人一組を俺様の方で組んでお互いの長所を伸ばしていくってやり方だったが…今日はこいつがいるから実戦形式でやるぞ」
実戦形式と言われ、さっきまで浮足立っていた生徒たちの顔が一気に鋭くなる。
「おう、いい面になったなおめぇら。んじゃ説明の前にちー、自己紹介しとけ」
「初めまして、チヅルと言います。ミラー先生の古い友人でよく昔は一緒に冒険をしたりしていました。今回は突然皆さんと訓練をすると言われて緊張していますが…ミラー先生に教えてもらっている生徒さんならきっと強いと確信しています。即死しない限り、僕達が助けるので今日は本気で取り組んでくださいね?」
千棘は一歩前に出て皆に自己紹介をしつつ、本気で戦えるよう少し発破をかけた。
そのおかげか皆もかなり戦闘意欲が湧いたようで、目にはやる気が見て取れた。
千棘の格好は先程の格好から既に変わっており、肌に吸い付く黒いインナーは首から胸下までしか覆っておらず、二の腕から指先は黒の長手袋、胸から下は肌色。
胸には白い軽鎧のプレートが付いており、その部分からふくらはぎまで伸びた真っ白な布地、前部分はコートの様に開いており、一目見たらマントを翻しているようにも見える。
足元は同じく太ももまでの白いグリーヴを装着して手には同じ色のガントレットを付けて頭には白いティアラの様な物が乗っており、さながらヴァルキリーの様な姿をしていた。
千棘の姿を見て見惚れていた人もさっきの千棘の発破でちゃんと気を引き締めているので問題ないと思いながら一歩下がる。
「ちー、いいぞ。んじゃ、説明するぜ。これから魔法が使えないちーとお前達で一対一で戦ってもらう。だが、それだけなら正直言ってちーが圧勝しちまう。だから俺様がお前達に魔法をかけて未来の可能性を見せてやる。それでちーを殺す覚悟で戦え、わかったか?」
そう鏡が言うと赤い髪の女性徒が手をあげる。
「おう、フィーヤ。何か質問か?」
「はい、ミラー先生…私達はこの学校以外では魔法を使わないようにしていました。魔法を使えば使えない人を簡単に傷つける事が出来るから…だからその…魔法を使えないチヅルさんにみんなで戦うのは…」
「ほぉ?フィーヤはチヅルを殺しちまうかもって心配なんだな?」
「正直に言って魔法さえ使えれば騎士学校のやつらに後れを取る事はありません。私達に勝てる前衛はいないと思います。それにミラー先生の魔法を私達にかけたらそれこそ勝負になりません…」
フィーヤと呼ばれた赤髪の女性徒はチヅルが魔法を使えないから私達に勝てない、それなのに20連戦しろなんてと抗議をしてきた。
だが鏡は何も言い返さずにフィーヤに、
「フィーヤ、お前の気持ちはよくわかった。んじゃ、フィーヤに二回チャンスをやる。その二回のうち一回でもちーに勝てたら俺様達『魔法使いが最強』だと街中に言いふらしていいぜ?もしそれで騎士学校の奴らが何か言っても魔法を使って迎撃してもいい。どうだ?」
「…わかりました、その言葉忘れないでくださいねミラー先生…チヅルさんお相手お願いします」
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますね、フィーヤちゃん」
フィーヤをちゃん付けで呼ぶとフィーヤは眉を立てて千棘に…
「ちゃん…フィーヤちゃん…?ふふ…私を子供扱いした事、後悔させますから…」
そう言い放ち、開始位置へ歩いていくフィーヤ。
クラスのみんなはフィーヤが怒っちまったと若干怯えており、観客席にそそくさと移動していった。
千棘は皆が集まる前に一人突っかかってくる奴がいると鏡から教えられていた…その人物がフィーヤだ。
フィーヤは子供扱いされるのをとても嫌っており、以前その事で騎士学校の生徒と揉め事を起こしていたとの事。
魔法が使えたらあんな奴らにと少し見下しがちな為、鏡は千棘に解らせて欲しいと頼んでいた。
だから千棘は敢えてフィーヤを煽って闘争心に火を付けさせた。
フィーヤはクラスのみんなの怯え方からしてかなりの実力者なのは伺え、みんなは千棘を心配している表情を浮かべているが、一人だけ…ルノアールだけは真剣に千棘の事だけを見つめていた。
観客席に移動したルノアールを見つけた千棘は軽く手を振って開始位置へつく。
「…ルノに手を振る余裕があるんですねチヅルさんは…」
その行動がさらにフィーヤをいきり立たせていた。
「まぁ正直に言って…たかが子供のお遊びですからね」
「…絶対にぶっ飛ばしてやる…」
「やれるものならどうぞお好きに」
煽りに煽った千棘はインベントリから事前に取り出していた…『神剣ウルカリバー』と皆が呼んでいる金色の剣を鞘から抜き放つ。
それを片手でくるくる回して左足を前、右足を後ろにずらして右足に重心を移動させて腰を落とす。
剣を持っている右手は突きを出すように引き絞り、左手はフィーヤに向けて狙いを定めていく。
フィーヤは自分の足から顎辺りまでの杖をくるくる回しながら魔力を高めていき、周囲に赤色の魔法陣が20個ほど出現した状態で待機している。
鏡は両者、準備が出来た事を確認して腕を振り上げて…
「フィーヤ対チヅルの模擬試合開始!!」
■
フィーヤは思う。
何で私より身長の小さい可愛い男の子に子供扱いされなきゃいけないのか。
ミラー先生の親友だと言ってもただの子供にしか見えない…全然強そうに見えないのに…あのルノを笑顔にしたあいつが羨ましい。
ルノを笑顔にするのは私だと思っていた…なのにそれは私じゃなくてあの子供だった…。
悔しい、ずっとルノと一緒にいたのに私じゃルノを笑顔にする事は出来ないって言われているみたいで悔しい。
絶対にあの子供に勝ってルノに私の強さを見せてあの子供より凄いって事を証明するんだ!
■
鏡の開始の合図に合わせて20の魔法陣から放たれる上級魔法の数々を見据えていた。
(流石、鏡が教えた生徒だけあるな…元々才能もあったんだろうけど…)
そう思いながら迫りくる魔法の一つを見て右腕を一閃。
金色の軌跡を描きながら魔法を斬り裂き、次の魔法へ剣を向けてその魔法も斬り裂く。
息する間もないほどの連続の上級魔法を全て斬り裂くと辺りは煙で真っ白になっており、耳を澄ませるとフィーヤの勝ち誇った声が聞こえてきた。
「所詮こんなもんでしょ?魔法が使えない人にこんだけの魔法をぶつければ簡単に倒せちゃうんだから。ミラー先生、死なない程度に加減したしもう試合を終わらせてもらっていいですか?」
「フィーヤ、お前は何を見てんだ?俺様の方見てたら一瞬で決着が付いちまうぞ?」
鏡の言葉を聞いて千棘は一瞬で決着を付けろと言っていると思った。
だから千棘はクラウチングスタートの様な体勢を取り、瞬発する。
千棘はさっきまで周りにあった煙を走った風圧で消し飛ばしながらフィーヤの首元に狙いをつけて…
「は?いやいやミラー先生、流石にあれ食らって大丈夫な人いないですって。早く確認し…ヒッ!?」
フィーヤの首元に金色の片手剣を突きつける。
すると千棘に遅れるようにもの凄い風がフィーヤの綺麗な赤い髪をバサバサと散らかしていく。
剣を突きつけたままにっこりしつつフィーヤに…
「さて、ミラーからもらった一回目のチャンスを失ってしまいましたね?」
フィーヤは力なくぺたんと尻餅を付いて化け物を見るような目で千棘を見つめる。
「な、なんで…?傷一つないの…?しかも何あの速さ…人間の速さじゃない…」
声が震えて途切れ途切れに聞こえてくる質問に千棘はしっかりと返答する。
「傷が付いていないのは全ての魔法を斬ったから、速く動けたのは力を貯めて思いっきり石畳を蹴ったからですよ?」
「ま、魔法を斬る…?そんな事出来るはずがない…!力を貯めて思いっきり蹴ったからってあんなに速く動けない!!」
「その魔法使いが最強という思考が敗北の原因ですよ、フィーヤちゃん?もしかしたら魔法を斬れる騎士学校の生徒がいるかもしれない、僕みたいな速さで動ける生徒がいるかもしれない、そう考えていない時点で君の成長はここまでです。どうします?ミラーの魔法をもう一度使って最後のチャンスを狙って見ますか?」
にっこり天使スマイルの千棘の顔をフィーヤは化け物に遭遇したような顔で涙を目に貯め、震えながら見つめてくる。
「…?…!ミラー!ちょっとだけ訓練場を離れる!今の試合をみんなに解説しておいて!」
少し違和感を感じた千棘はミラーに断ってフィーヤを横抱きに抱えて女の子の尊厳を守る為に訓練場を後にする…。
そして観客席ではルノアールが「フィーヤちゃんいいなぁ…」と呟いていたが誰もが試合の内容に驚愕していた為、聞き取る事は出来なかった…。




