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2話改①(却下)

 目が覚めるとそこは日の光が差し込まないほど深い森の中だった。


 確か僕はパパにお酒を頼まれて、それで......。


 状況がわからない、ここはどこ?

 パパとママは?

 森に来た記憶なんてないよ、家に帰りたい。


「ガルルル.....!」

「うわっ狼だ! 助けて! パパ!」


 ダメだ、パパはここには居ない。

 ていうかなんだコイツは。

 目が3つもある、きんもっ!


「ガァ!」

「うわぁ! どっかいけ!」


 すると、突然地面が揺れた、地震とは少し違う。

 体が熱を帯びている。

 狼は心なしか怯えている?


「おい少年、大丈夫か?」


 後ろからハスキーで子供っぽい女の声がした。

 よかった、人がいるのか!


「助けてください、お願いします.....え?」


 その声の主は悪魔のような姿をした少女だった。

 髪はショートで水色、額から角、背が低くて胸が大きい。

 恐怖で僕の小さな体が震える。


 「キャンッ」


 変な狼も震えている、固まって動かない。


 てか何コイツ!

 見た目が異様すぎる、そりゃ狼も怖がるわ。


「急な魔力の増幅を感じたんだが気のせいだったか。オッドウルフと少年しかいない」


 こいつ頭おかしいのかな?

 何言ってるんだ。


「無駄な殺生は好かん、離脱するぞ少年」


 悪魔は僕を抱き、上を見回す。


「何すんの! 食べる気?」

「食べん、君を森の外まで届ける」


 違うのか、ひと安心。


「この狼から逃げられさえすれば別に1人でも歩けるよ」

「......」

「おい! 無視すんなよ!」

「今集中しているんだ、話しかけるな」

「なんだよそれ」


 そして悪魔は僅かに日の光が覗いている茂みの薄い部分を見つけると、そこ目掛け一直線に跳び上がった。

 僕はめちゃくちゃビビった。


 重なる木の枝を強引に突破し、大きく上昇すると澄んだ青空の下に出る。

 すると悪魔の背中から翼が生え、どこかを目指して加速してゆく。


 空ってこんなに綺麗だったんだ。

 ......いやそうじゃなくて飛んでる!

 なんなのこの状況は。

 これ落ちたら死ぬよね。


「私の名はバレンタイン。かつては魔王だったんだがな、今ではただの一魔族だ」

「んあ?」


 やっぱ頭おかしいみたい。

 飛んでるし角生えてるし、何なのこいつ。


「時に。少年はなぜ果ての森に1人でいたのだ?」

「いや、わからないんだ。気付いたら森にいてさ」

「うーむ。奇妙だな、記憶喪失ということか?」

「そういうわけじゃないよ。パパとママのことは覚えてる」

「それは良かった。どこに住んでいるのだ? 届けよう」

「高円寺駅まで届けてくれたらそれでいいよ、ありがとう。でも誰もいない所で降ろしてね」


 こんな変なやつが人通りの多い所にいたら大騒ぎになっちゃうからね。


「こうえんじえき? そんな所はないぞ」


 どんだけ世間知らずなんだよこいつ。


「わかった。適当に交番の近くに届けてよ、そしたらなんとか帰るからさ」

「こうばん......?」


 うそでしょ。


「ねぇ、ここ日本だよね?」

「何を言ってるんだ。ここは魔大陸だぞ少年」

「は?」


 変な狼、空飛ぶ悪魔、謎の大陸......。

 ここってさ、もしかしてさ、別の世界なのかな。

 もうパパとママには会えないの?

 

「ねえバレンタイン。もしかしたら僕異世界から来たのかも。パパとママに会いたいよ。なんとかしてよ」

「うーむ、やはりすこし記憶が混乱しているみたいだな。わかった、少年の身元が分かるまで私が世話しよう」

「え?」

「一緒に暮らそう」

「やだ」

「ダメだ」


 拒否権なしかよ。

 空飛ぶ悪魔となんて暮らしたくないんだけど。



 ***



 あれからどれ程の時間飛び続けたのだろう。

 青かった空はもう黒く塗りつぶされた。

 ポップに輝くクリーム色の満月が浮かんでいる。


 おえー、すっかり酔っちゃったよ。

 もうちょっと同乗者のこと気遣って飛んでくれないかねえ、もう吐きそうなんだけど。


 ゲロの発射も時間の問題かと思われた頃、バレンタインはやっと地に足をつけた、どうやら目的地に着いたらしい。

 目の前には禍々しいオーラを放つ城がある。


「ここが今日から君が住む場所だ」

「えー、やだよこんな不気味なところ」

「わがままを言うな」


 バレンタインは僕を抱いたまま、巨大で堅そうな扉の前に歩いて来た。


「インターホンはどこ?」

「いんたぁほん? なんだそれは」


 バレンタインは扉の前から後ろに下がり、翼を畳んだ。


「———鋼化」


 そう呟くと、勢いよく扉に突進して行く。

 ガッジャァーンと派手な音を立てて扉は破壊された。


 イヤアアアアア! きんもっ!

 光景が異常過ぎるって。

 やっぱこいつ変だよ!

 この世界で生きていけるか不安になってきた。

 早く家に帰りたい。


 中には使用人と思われる者達がたくさんいて、道を作るように整列した。

 その者たちも人の姿をしていない。


 ......ッ!


 瞬間、空気が張り詰める。


 奥から女悪魔が姿を現した、これで二人目だ。

 鬼みたいなオーラがあってとてつもなく怖い。

 髪はロングでピンク色、こいつも角ありだ、背が高く胸は小さい。


「いい加減にして、扉は開けて入るの。いつも言ってるでしょ? 誰が直すと思っているのよ」


 ピンクの悪魔がバレンタインに文句を言った。


「.........ただの冗談じゃないか」


 バレンタインは何故かしょんぼりしている。

 絶対冗談でやることじゃないと思うけど。


「その子は何? またなんか拾ってきたの?」

「果ての森に少年がいた。身元がわからないのだ。面倒を見ようエリザベス」

「ダメ。早く捨ててきて」


 パパ、ママ、会いたいよ。

 2人の威圧感に押されて何も発言ができない。

 見た目は綺麗だけど絶対にやばい奴らだってこれ。


「哀れとは思わないのか、まだ少年だぞ」

「はぁ、なら私がこの子を殺すわ。そうしないと貴女、この子を育てようとするだろうから」

「え?」


 なんだかきな臭くなってきた。

 やっぱりどうにか逃げ出さないと。

 動け僕の脳みそ。


 すると突然エリザベスの右手が光りだした。


「やめろエリザベス!」


 バレンタインが必死に制止する。


「ごめんね、死んでちょうだい。———フレイム」


 エリザベスがそう呟くと手のひらに火の玉が浮かぶ。

 そして僕に思いっきり投げつけてきた。


 高速で迫る火の玉。


「死にたくない!」


 ———ッッ!


 本能的に熱さを覚悟した瞬間、体表に水の膜が浮かんだ。


「........あれ? 生きてる」


 体がびしょびしょだ、火の玉がいつの間にか消えてるし。


 使用人達がざわついている。


「この子、本能で水のマナを操ったというの?」

「そ、そうらしい。明らかに普通の少年ではない」


 僕は何かをしたみたい、狼と対峙した時のように体が熱を帯びている。


「......うふふ。気が変わったわ、育ててあげる」

「え? 殺されるんじゃないの?」

「こんな才能の持ち主を殺すわけないじゃない。よく見たら可愛い顔してるわねあなた」


 ホッとしたと同時に久しく感じていなかった何かを感じた。


 僕褒められたのかな。

 今久しぶり誰かに対等に認められた気がする。

 すごく嬉しい。

 あれ、涙が出てきた、止められない。


「泣いてしまったではないか、謝れエリザベス......怖かったろう、申し訳ないことをした。よしよし」

「そんなこと知らないわ」


 バレンタインが泣いてる僕の頭を撫でてくれた。

 泣いてる理由は違うけどね。


「あなた、名前はなんて言うの?」

「うぇ、ひぐ、ぼくの名前は......」


 ここは別の世界なんだ、前の名を名乗るのはやめよう。


「名前がわからないんだ」


 そう嘘をついた。


「ふぅーん。バレンタイン、名前を付けて。何でもいいわ」

「......アルスはどうかね? 人の名前を付けたことなどあるはずもない。よく分からぬ」

「面白味のない名前、あなたセンスないわね」


 確かに平凡な感じだねえ。


「先程見せた才の片鱗、これが災いをもたらす気がしてならない。私はこの子を普通の人間に育てたい」

「うふふ。だめよ、その才能こそ私がこの子を拾う理由。私が強く育ててあげる」


 僕の名前がアルスに決まったらしい。

 実感は湧かないなー。

 強く育ててもらえるらしいけどそれは好都合だね、この世界なんか変だし。

 強くなったら機を見て逃げ出そう。


 ......うーん、それにしてもなんで急に育ててくれることになったんだろ。

 何か思惑があるに違い無い。


 エリザベスは僕に強くなる事を求めた。

 バレンタインは僕に普通である事を求めた。


 それぞれ思惑は違いそうだ、気になるけど今の情報量では推測することはできないね。


「私が寝かしつけてあげるから光栄に思いなさい。レミ、アルスを水浴びさせてベッドまで運んで」

「かしこまりました」


 うわー怖いよそれは。

 エリザベスって僕を殺そうとしてた方でしょ?

 急に気が変わったらどうするんだよ。



 ***



 レミと呼ばれたメイドが僕を水浴びをさせようと井戸の近くまで連れてきた。


「なんで人間の子なんかがうちに......あのまま殺されてしまえばよかったのに。新生児がマナを操るなんで聞いことないんだけど、気持ち悪い」


 なんかこの人ひどいこと言ってない?


「な、なんかごめんなさい」

「ハッ! 今の聞こえちゃいましたか!」

「......き、聞かなかったことにしますね」

「......」


 気まずっ。


 にしてもこのメイドの態度は異常だね、僕がこの城に入ってきた時からずっと睨んでくる。

 この人にうまく取り入らないと強くなる前に追い出されちゃうかも。

 可愛い子ぶって媚び売っとこっと。 


「はい、水浴び終わり」

「レミありがとう!」

「ったくめんどくさい」


 こっわ。


 レミは水浴びを終えた僕を連れてエリザベスのベッドへ向かう。


 ひどいこと言ってくるし睨んでもくるけど、丁寧に洗ってくれた。

 本当は優しい人なのかな?

 それとも命令に忠実なだけかな?

 そのあたりの人間性を探っていこう、その答えによってこの人への媚の売り方が変わるからね。


 それから実はベッドで寝るのは夢だったんだ、前世では床にタオルが敷かれただけだったし。

 これから寝るベッドの柔らかさを想像するとワクワクが止まらない。


 ......ん?

 窓から夜空を見るとモザイクみたいなのが見えた、空間が歪んでいるというかなんというか。


「レミさん、夜空に浮かんでるあれは何?」

「は? 星と月以外なにもありませんが」

「え......」


 僕にしか見えていないのか?

 まあいいや。

 この世界には驚かされっぱなしだから空にモザイクが浮かんでるくらいじゃ今更驚かないよ。



 ***



 そうこうしているうちにエリザベスの部屋まで辿り着いた。

 煌びやかな部屋だ、バニラの香りがする。


「ご苦労様。おやすみなさい」

「では失礼いたします。おやすみなさいませ」


 レミは僕をベッドに置いて部屋から出て行く。


 ねえこのメイド主人がいる時といない時とで人格変わりすぎじゃない?


 そんなことよりベッドが柔らかい!

 想像以上だなこりゃ、幸せだ、もう眠くなってきたよ。


「私の可愛いアルス、ゆっくり眠りなさい」


 エリザベスが僕のお腹をさすり寝かしつけてくる。

 いつ殺されるか分からない恐怖に苛まれるから僕に触らないで欲しい、なんて言えるわけない。

 それでも昨日までと比べて格段に心地いい夜だね。

 このまま眠ろう。


 ッッ!!


 瞬間、激しい頭痛に襲われた、耳鳴りもひどい。

 視界がホワイトアウトしてゆく。


「・ー・どこの時代に・ーいる」

「あなたこそ・ーー・時間軸のー・ーー・何か知ってー・・ー」


 声がする、何か口論しているみたい。

 この声どこかで聞いたことがあるような。


「ー・なめるな・ーー思惑・ーーい」


 突然声は止んだ、視界と意識が戻ってくる。


 何だったんだろう、最後まで聞き取れなかった。

 声の主が思い出せない、でも絶対に聞いたことのある声なんだ。


「は? 星と月しかありませんが」


 レミの声がした。


 この会話、さっきしたような。

 でもセリフが若干違う?

 それにベッドにいたはずなのにまた廊下を歩いている。

 明らかにおかしい。

 時間が......戻っている?


「ありがとうレミ、ゆっくり休め」

「では失礼いたします、おやすみなさいませ」


 今度はバレンタインの部屋に入った。

 さっきはエリザベスが僕と寝る感じだったよね。

 結果が変わってる。

 何が起きたんだろう、頭が混乱してきた。


 直後、僕は深い眠りに落ちた。

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