1話改①(却下)
【プロローグ】
神社に赤子が捨てられていた。
そこに10羽ほどのカラスが群がっている。
「おいあれ赤ちゃんじゃないか?」
運良く通りがかりの夫婦が彼を見つけ、児童施設に届けるも身元は分からない。
いつまで経っても引き取り手が見つからないので、妻が不妊だったその夫婦がそのまま里親となって彼を育てることになった。
走れ、足を動かせ、もっと速く!
パパは僕をおつかいに出した。
いつものお酒じゃないとだめらしい。
パパは僕が遅いと殴ってくる。
怖いけどいいんだ、僕のためを思ってのことなんだってさ、優しいよね。
酒屋まで走ってあと5分くらい。
そこを2分で到着してやる。
息が苦しい、筋肉がパンパンだ、それでも僕は足を止めない。
「久しぶりだな。我は人に擬態するとこんな姿になるらしい。いや、覚えていないか、まだ赤子だったから仕方がない。あと少しだ、あと少しで君は神の影響を受けなくなる。それまで———」
なんだコイツ。
「うるせえじじい!」
「ゔぶぅッ」
僕は変なジジイに裏拳をかます、倒れちゃったけどそんなの知らない。
あ! 見えてきた!
全力ダッシュ、本当に2分で着いてやったぜ。
「いらっしゃ〜い、あ! 坊主!」
「おじさん、いつものやつ頂戴!」
「いつもお父さんの足が悪いからってお使いやってて偉いなぁ」
パパの足が悪いってのはウソ。
このおじさんが子供には売らないって言うから騙くらかしてやったんだ。
ていうか早くしてくれよ。
「あ、そう言えば今日良いお酒入ってるんだよ。いつも買ってるやつよりよっぽど高いやつ。坊主んとこの父ちゃんはお得意様だからタダでプレゼントしちゃおうかな」
「え! いいの! ありがとう!」
「良いってことよ。今度感想聞いてきてくれや」
「わかった!またね!」
「はいよー」
よし! ラッキーだ。
いつもより良いやつをタダで手に入れた!
こりゃパパに褒められるぞ。
ダッシュで帰宅だ!
***
僕は12歳。
パパとママと3人で狭いアパート暮らし。
部屋はいつも薄暗い。
「ただいまー」
帰宅すると玄関からベランダが真っ先に目に入った。
ママがいつものように奇声を発しながらカラスと戦っている。
昔はとても優しかったんだけどなぁ。
突然この家にカラスがよく来るようになって、それからママはおかしくなってしまったんだ。
早く元に戻ってよ、優しいママに会いたい。
「パパ、お酒買ってきたよ。ねえ聞いて! 今日はいつもより高いお酒をタダで———」
「いつものやつと違うじゃねぇかふざけんな!」
パパは僕の話を聞く前に、灰皿で思いっきり頭を殴ってきた。
鈍い音がした。
「うっ」
頭がふわふわする。
「あ......違うんだ、ごめん」
「うん、ぁりが、と」
頭がガンガンして上手く喋れないや。
僕がもっと小さい頃はよく3人で海に行ったっけ。
あれは笑ったなぁ、パパの海パンださださで。
また行きたいなぁ3人で。
「あぁ、いつからこんなことになっちまったんだよぉ! くそぉ!」
うぅ、気持ち悪い、頭がどんどん痛くなっていく。
「ぷぁ......ぷぁ......ぁりがとぅね」
意識が遠のく。
***
夢を見た。
赤子がカラスに咥えられてどこかへ飛んでいく夢。
赤子は涼しげな顔をしている。
この夢が、この世界での僕の最後の記憶となった。